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〜甘い学園生活送ります〜
小さな波紋はすぐに消える
しおりを挟む教師から聞かされた処分については、元々他言するつもりはない。
処分が決まるまで家で謹慎していたがそのまま退学になるそうだ。休暇明けに籍が無くなっていることに気づく人間がどれだけいるか。
ルークの話ではあのレイル家の血を引く女性との婚姻は認められ、侯爵の下で後継者の勉強を続けるらしい。
どうしても自分の直系に継がせたいデイガルド侯爵の判断に親族から不満が出ているとか。荒れそうだな。
一代飛ばして元婚約者とあの女性の子に継がせるつもりでも反発は避けられない。
容姿を見ただけでどこの家に連なる者かわかるほど希少な血筋の女性が市井にそういるわけはない。
――通常なら。
レイル家もまた醜聞を抱える家だ。
『色狂い』とまで言われた数代前の当主から流出した血であるのは間違いなく。
そんな相手と学園内で多数の人間に不貞行為を目撃され退学処分になったという、前代未聞の醜聞を作った元婚約者の子供に継がせるくらいなら現当主の甥や従兄弟に継がせた方が良いと考える者が出るのは当然だった。
いくつか手紙を書いてルークに渡す。
学園から退学処分を受けたことで元婚約者に注がれる目はより厳しいものになる。
少なくとも本人が侯爵家を継ぐことはないだろう。
もう顔を見ることもなさそうで良かった。
手紙を懐にしまったルークが何か言いたげな顔をしている。
「帰らないよ?」
釘をさすつもりで告げると悲しそうな顔をされる。
罪悪感が刺激されるのでそんな顔をしないでほしい。
「わかってます。
そうではなくて、休暇中もずっと学園で過ごすんですか?」
最初からそう言っていたのに。最短で卒業しようと思ったら領地に帰る暇はないと。
「一日くらいは休みましょう?」
「いや……」
「あ、お嬢の役に立ちそうな本が王立図書館にありましたよ。
貸し出し禁止だったので行かないと読めない本なんですよね」
「お前が写してくればいいんじゃないか?」
本気ですか、と真顔になるルークに声を立てて笑う。
専門書を丸写ししてこいなんて意地悪を言うつもりはないよ、流石に。
「チェリーの時期は終わりましたが、凍らせたチェリーを使ったデザートを出すお店があるので一緒に行きましょう」
私がいつまでも食べ物に釣られる子供だと思っているのかと軽く睨む。
正直すごく心惹かれるけど。
「子ども扱いしてるわけじゃありませんよ」
ただ、とルークが目を伏せる。
「このところ随分根を詰めていたでしょう?
少し気分転換をしませんか」
優しく言い聞かせるような声音に目を瞬く。
まいったなと前髪をかき上げ苦笑する。
「そんなに疲れた顔してた?」
「いえ、お嬢はいつも活力に満ちてますよ?
俺が勝手に心配しているだけです」
微笑んで否定をするけれど、ルークから見たら息抜きをした方が良いような状態に見えていたみたい。
情けなさと心配してくれる嬉しさが複雑に絡み合う。
ふっと息を吐いて気持ちを切り替える。
「じゃあ外出申請しておく。
一日一緒にいるのは久しぶりだ……、楽しみにしてるよ」
口にすると楽しみが強くなっていく。
ルークも俺もですと嬉しそうにするので口元の緩みを隠すことはしなかった。
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