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〜甘い学園生活送ります〜
具体性の有無かな
しおりを挟む長期休暇前に返却されたレポートを手に、殿下が恨めしそうな目を向ける。
「なんでオマエらの方が良い成績なんだ……」
落ち込んでいるのかいつもより静かなトーンでの文句にグレイス様と顔を見合わせる。
「私が思うに具体性の違いではないかと思います」
具体性?と殿下が問うので説明を引き取る。
「殿下は施策を考える際、具体的な土地を思い浮かべてますか?」
訝しげな顔で首を横に振る。
なぜそんなことを聞かれたのかわからないと言いたげな顔だ。
「私もグレイス様も自分の領地に対して打てる、打ちたい施策をレポートにしています」
これは領地持ちは皆共通している。
反対にまだ将来が定まっていない者や文官を目指している者は対象が曖昧になりやすい。
「殿下のレポートを読む限り、提案として素晴らしいと思いますが、その施策をぴったり当て嵌められる場所がないのです。
どこで進めるつもりの提案かという視点が欠けているかと」
私でいえば水害時の食料を守るために川の上流を治める家と連携し、備蓄食料を管理してもらう方法を考え、それを実現するために必要なことやかかる費用を計算しそれをどこから捻出するかまできちんと纏めている。
そうしないと実現性が不透明なのと、資金を出してやるべき施策かどうか判断できないからだ。
私の指摘が刺さった殿下へ、グレイス様が柔らかな声で私たちと殿下では事情が違いますからとフォローを入れる。
「殿下の場合勝手に他領を取り上げたらその家に婿入りするのか、なんて噂が立ってしまいますから難しいとわかっています」
その家も驚くだろうし、すでに後継者がいたらさらに警戒と不信を与えてしまう。
「もっと広い範囲で軽く試せる内容や王領地でご自身に縁深い土地を選んでやったらどうですか?」
王妃様のご実家も縁は深いけどやはり自身の身の置き場として考えているのでは……、なんて噂が立っても困るでしょうから。
次から次へとダメ出しされて殿下がうなだれる。
「後はそうですね、実現するための方法を考えるのは大切ですが、それが断られたり、事情があってできなくなった時のことも考えて何通りか実現方法を考えておいた方が良いですよ」
王弟殿下なら王族の威光で言うことを聞いてくれるかもしれないけれど、交渉材料というのは大切だ。
「そうですね、嫌われているから手を貸してもらえない、なんてことは普通にありますから」
お互いにメリットがあるんですけどねと小さく息をついたグレイス様。
何か思うところがあるようです。
他の人のレポートを見るのは勉強になる。
グレイス様のレポートは内容もさるものながらとても見やすく、実際に提案をするときに説得力が増しそうだ。
お互いに意見を言い合い改善点を上げていく。
視点が違う人の意見はおもしろくて参考になる。
私のレポートを見た殿下が、水害を軽くする施策じゃないところがひねくれてるなとの感想を返す。失礼な。
「オマエのレポートはすぐにでも使えそうだな」
「すぐに使いますからね」
このレポートと同じ内容を叔父上に送っていて、可能かどうか打診してみると返事をもらっている。
ハイラル家の領地はほぼ平地なので水害の際に多くの土地が水に浸かり、保管していた小麦などが使い物にならなくなった。
販売用だけでなく自分たちが食べる分もだ。
次に水害に見舞われても食料は助かるよう、近隣で高い土地を持つ領地に備蓄食料の保管を頼もうとしている。
もちろんタダでというわけではない。
一定量を保管する代わりにハイラル家から購入する小麦の値段を下げ、何かあれば保管している小麦をハイラル家が優先して買い戻すという取り決めだ。
買い戻さなければその領地で消費しても良いし、他へ売ることもできる。
相手にとっても損はない。
災害に見舞われたときに交渉できる相手が少ないと足元を見られやすい。
それを避けるために取引先を増やす必要性を痛感した。
近隣のいくつかの領地でも同じ危機感を持っている。きっと話に乗ってくる家はあるはずだ。
休暇中も領地には帰らないけれど叔父上を通して話を進めているところだ。
そう説明するとオマエらズルくないかとぼやき始めた。
呆れながらも宥める言葉をかけるグレイス様に、教師に呼ばれているからと後を任せて教員室に向かう。
通されたのは教員室の奥にある応接室。
対面に座るのはあの現場にいた教師。
他言はしないでほしいとの前置きがあり、元婚約者へ下った退学処分を伝えられた。
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