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入学初日の婚約破棄!
不貞行為か、わいせつ行為の強要か
しおりを挟む先ほどの悲鳴を聞きつけて人が集まってくる。
従者が野次馬を遠ざけているが、学園の関係者は止められない。
生徒たちに離れているよう言い渡して中に入ってきた教師と職員があまりの光景に絶句した。
「デイガルド、お前……」
いち早く冷静さを取り戻した教師の方が口を開く。
「違うんです、これは……」
言い訳を始める前に目の前の事実を指摘する。
「そちらの方はどなたですか。
まさか他家の令嬢と不貞関係に……?」
そうであればとんでもない醜聞だと眉を寄せる。
未婚の令嬢と深い関係を持つなどとんでもないことだ。しかも婚約者ですらない相手と。
全身を隠すには足りないスカートを抱きしめるようにして座り込む女性。
外部から入り込んだことはないだろうから同じく学園に通う令嬢ではないかと疑惑が生まれるのは当然だ。
「違うっ! 彼女はここの使用人だ!
令嬢なんかじゃないっ!」
「それでは……、まさか立場を利用して無理強いを……?」
さらに問題を大きく燃え上がらせるべく燃料を投下する。
学園で働く使用人なら、貴族と関係を持つ、それがどういう意味か知らぬわけがない。
当然学園はクビになるし、生徒に手を出したなどとなればもう貴族の家では働けなくなる。
居並ぶ者たちの視線が女性に注がれる。どう答えるのかと。
違う、無理強いじゃないと叫ぶ男に黙れ!と教師の叱責が飛ぶ。
「あ……、わたし、は……」
一度口を閉じて、逡巡した後、口を開いた。
「最初、声をかけてこられたのは、デイガルド様です……」
「キサマ、何を言う!」
「でも!!」
口汚い罵りが続く前に女性が声を上げて遮る。
「遠くからずっと憧れていた方でした、だから正常な判断を失い関係を持ちました!」
へえ、と内心で感心する。想いのほか頭が回るな。
これで侯爵子息の方が身体目当てだったと言えば、自ら受け入れたとはいえ貴族の子息に関係を迫られた被害者に。
彼が不貞を認めれば道ならぬ恋に溺れた愚者に。
相手の出方次第で傷が浅くなる。
大したものだと思う。
彼女に向いていた視線が男に移る。
卑劣な性犯罪者か、不貞野郎か――。
答えを待つ圧力に汗を流しながらようやく口を開いた。
「俺も、彼女を想っています……。
気持ちを受け入れてくれた嬉しさから、軽はずみな行為に及んでしまいました」
項垂れて不貞を白状した男に教師たちから呆れと失望の溜息が落ちる。
「わかった……。
とりあえず服を着ろ。 詳しい話は教員室で聞く」
待ってくださいと、彼らが動き出す前に宣言をする。
衆目のある場で言質を取っておきたかった。
「不貞がわかった以上、このまま婚約の継続は認められません。
我がハイラル伯爵家とデイガルド侯爵家の間で結ばれた婚約は破棄いたします」
よろしいですね?と声をかけるとデイガルドも頷いた。
目の前で行われた不貞行為による婚約破棄に教師たちも何とも言えない顔をしているが、不貞行為が学園内で行われたことだけに求めれば事実を証言してくれるだろう。
「ハイラルは、これから入学式だったはずだが……。
このような騒ぎになってしまったし、欠席するか?」
教師が気遣うように聞いてくれる。
無理して入学式に出ないで休んだ方が良いのではないかと心配された。
「……いえ、入学式を欠席したところですぐに騒ぎは広まるでしょう。
私に非があるわけではないのできちんと出席しようと思います」
視線を下げて伝えるとさもありなんといった様子で同情された。
事後処理に奔走されるだろう教師たちに頭を下げて小屋を出る。
教師たちに追い払われてもまだ遠巻きに様子を窺っている者もいる。
ここで何があったか広まるのはあっという間のことだろう。
学園始まって以来の醜聞で、興味を掻き立てる話であるのは確かだった。
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