11 / 27
〜甘い学園生活送ります〜
放課後の甘いひととき
しおりを挟む「フェリシア様、こちらにいらっしゃったんですね」
図書館に併設されたカフェテラスで授業の予習をしていた私の元へルークがやってくる。
周囲の好奇の視線にも慣れてきた。
私たちは侯爵家によって引き裂かれた恋人同士で、女癖の悪い婚約者があろうことか学園内で不貞行為に及んでいたところを目撃し婚約破棄をすることでようやく結ばれることができた婚約者同士だと、ほぼ事実そのままが学園中に周知されている。
「お求めの本をお持ちしました」
頼んでいた本をテーブルに乗せ、その横に小さな包みを置く。
「それからお嬢の好きなチェリーのタルトを見かけたので」
ぴく、と耳が反応する。
少し休憩にしませんかと問われて葛藤するまでもなく誘惑に負けてみる。
「ルークの淹れたお茶が飲みたいな?」
頬に指をあてて見上げると、ルークの口元が嬉しそうに緩む。
茶器を借りてきますとカフェの厨房に向かう背中は甘えられた喜びに満ちていた。
かつての関係に戻ってから、できるだけ頼ったり甘えたりしてみせるようにしている。
ルークにはずっと我慢させてきたから。正式に婚約を結んだだけではまだ足りない。
学園に通っている間は大っぴらに婚約者としてふるまうこともできないし。
「お待たせしました。
久々にお嬢にお茶を出しますね。
嬉しいです」
目元を緩めるルークに微笑みを返す。
どうぞ、と出されたお茶は私の好きな茶葉だった。
袋から取り出した小さなタルトを持ってきてくれた皿に置く。
赤いチェリーがきらきらと輝いているタルトは目でも楽しませてくれる。
齧ると弾けたチェリーの甘酸っぱさとその下のクリームが口の中で合わさってとても美味しい。
「おいしいっ!」
三口で食べ終わってしまった。余韻を味わってからお茶を飲む。幸せ。
袋の中にはまだ二つ入っている。寮でも食べられるようにとの気遣いが嬉しい。
茶器を下げてもらって再度ノートを開く。
側に立つルークの存在に気持ちが落ち着くのを感じながらペンを走らせた。
時々卒業生であるルークに質問をしながら予習を終える。
立ち上がると教材をルークに持っていかれた。
残ったタルト入りの袋だけを持って隣を歩く。
寮まではすぐだけれどルークがいるときは送ると聞かないので大人しく共に帰る。
過保護だとは思うけれど一番近くで心配してくれるのが嬉しかった。
「もう着いてしまいましたね」
誰もいないのを確認して袋に手を入れる。
人前ではできなかったけれど、周りに人のいない今なら。
摘まみ上げたタルトをルークの口元に寄せる。
「はい、ルークの分」
美味しい物は分け合いたい。
昔からルークは私にお菓子をくれる。半分こして、余った分は私に、がいつものルールだった。
従者として学園に来ている以上、同じテーブルについたりはできないけれど、誰も見ていない今ならお菓子を分けるくらいは許される。
「食べさせてくれるんですか?」
「だって小分けの袋ないから」
わざとのくせに、と口を尖らせる。教材で手が塞がっているのも計算のうちだろう。
一緒には食べられなくても同じものを味わってほしい。
もう少し近づけてほしいと言われるがままに差し出す。
深紫の瞳が妖しく光る。
開いた口へ入れたタルトを齧り嬉しそうに目を細める。
私が三口で食べたタルトを二口で口に収め咀嚼し終えると満足そうに口元を拭った。
食べている間中ずっと私の表情を見つめていたのが恥ずかしすぎる。
長い付き合いで耐性があるはずなのに、顔が熱い。
タルトの欠片が付いた指先を布で拭き取っているとお嬢、と呼びかけられた。
「お嬢が甘やかしてくれるの、すごい嬉しいです」
流石にあからさまだからルークにもわかるか。
罪悪感から甘やかしている自覚があるので何も言えない。
「俺もお嬢を甘やかしたいですが、今はまだ自重しますね」
卒業までは我慢しますので、と囁く声は甘く妖しい響きを持っていた。
53
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説


この波の辿り着く果てには
豆狸
恋愛
──嫌な夢をふたつ見て目を覚ましました。
最初に見たのは、学園の卒業パーティで私の婚約者サロモン殿下に婚約を破棄される夢です。婚約破棄を告げる殿下の傍らには、アンビサオン伯爵令嬢のヴィシア様の姿がありました。
なろう様でも公開中です。

婚約者は…やはり愚かであった
しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。
素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。
そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな?
結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね
りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。
皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。
そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。
もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!

婚約破棄ですか?勿論お受けします。
アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。
そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。
婚約破棄するとようやく言ってくれたわ!
慰謝料?そんなのいらないわよ。
それより早く婚約破棄しましょう。
❈ 作者独自の世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる