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〜甘い学園生活送ります〜
放課後の甘いひととき
しおりを挟む「フェリシア様、こちらにいらっしゃったんですね」
図書館に併設されたカフェテラスで授業の予習をしていた私の元へルークがやってくる。
周囲の好奇の視線にも慣れてきた。
私たちは侯爵家によって引き裂かれた恋人同士で、女癖の悪い婚約者があろうことか学園内で不貞行為に及んでいたところを目撃し婚約破棄をすることでようやく結ばれることができた婚約者同士だと、ほぼ事実そのままが学園中に周知されている。
「お求めの本をお持ちしました」
頼んでいた本をテーブルに乗せ、その横に小さな包みを置く。
「それからお嬢の好きなチェリーのタルトを見かけたので」
ぴく、と耳が反応する。
少し休憩にしませんかと問われて葛藤するまでもなく誘惑に負けてみる。
「ルークの淹れたお茶が飲みたいな?」
頬に指をあてて見上げると、ルークの口元が嬉しそうに緩む。
茶器を借りてきますとカフェの厨房に向かう背中は甘えられた喜びに満ちていた。
かつての関係に戻ってから、できるだけ頼ったり甘えたりしてみせるようにしている。
ルークにはずっと我慢させてきたから。正式に婚約を結んだだけではまだ足りない。
学園に通っている間は大っぴらに婚約者としてふるまうこともできないし。
「お待たせしました。
久々にお嬢にお茶を出しますね。
嬉しいです」
目元を緩めるルークに微笑みを返す。
どうぞ、と出されたお茶は私の好きな茶葉だった。
袋から取り出した小さなタルトを持ってきてくれた皿に置く。
赤いチェリーがきらきらと輝いているタルトは目でも楽しませてくれる。
齧ると弾けたチェリーの甘酸っぱさとその下のクリームが口の中で合わさってとても美味しい。
「おいしいっ!」
三口で食べ終わってしまった。余韻を味わってからお茶を飲む。幸せ。
袋の中にはまだ二つ入っている。寮でも食べられるようにとの気遣いが嬉しい。
茶器を下げてもらって再度ノートを開く。
側に立つルークの存在に気持ちが落ち着くのを感じながらペンを走らせた。
時々卒業生であるルークに質問をしながら予習を終える。
立ち上がると教材をルークに持っていかれた。
残ったタルト入りの袋だけを持って隣を歩く。
寮まではすぐだけれどルークがいるときは送ると聞かないので大人しく共に帰る。
過保護だとは思うけれど一番近くで心配してくれるのが嬉しかった。
「もう着いてしまいましたね」
誰もいないのを確認して袋に手を入れる。
人前ではできなかったけれど、周りに人のいない今なら。
摘まみ上げたタルトをルークの口元に寄せる。
「はい、ルークの分」
美味しい物は分け合いたい。
昔からルークは私にお菓子をくれる。半分こして、余った分は私に、がいつものルールだった。
従者として学園に来ている以上、同じテーブルについたりはできないけれど、誰も見ていない今ならお菓子を分けるくらいは許される。
「食べさせてくれるんですか?」
「だって小分けの袋ないから」
わざとのくせに、と口を尖らせる。教材で手が塞がっているのも計算のうちだろう。
一緒には食べられなくても同じものを味わってほしい。
もう少し近づけてほしいと言われるがままに差し出す。
深紫の瞳が妖しく光る。
開いた口へ入れたタルトを齧り嬉しそうに目を細める。
私が三口で食べたタルトを二口で口に収め咀嚼し終えると満足そうに口元を拭った。
食べている間中ずっと私の表情を見つめていたのが恥ずかしすぎる。
長い付き合いで耐性があるはずなのに、顔が熱い。
タルトの欠片が付いた指先を布で拭き取っているとお嬢、と呼びかけられた。
「お嬢が甘やかしてくれるの、すごい嬉しいです」
流石にあからさまだからルークにもわかるか。
罪悪感から甘やかしている自覚があるので何も言えない。
「俺もお嬢を甘やかしたいですが、今はまだ自重しますね」
卒業までは我慢しますので、と囁く声は甘く妖しい響きを持っていた。
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