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入学初日の婚約破棄!
一目瞭然の不貞行為
しおりを挟む入学式にふさわしく新たな生活を祝福しているような青天を見上げ深呼吸をする。
今の状況を思えば、本当に祝福されているのかもしれない。
首元まで詰まったボタンと慣れないタイに襟を引っ張っていると、戻ってきた従者に形が崩れますよと注意をされた。
わずかに乱れたらしいタイを直す従者の目元にかかる黒髪を見つめ、お前は苦しくないのかと聞くと慣れましたと返ってきた。すぐに慣れますよと言われたけれどまだ違和感がぬぐえない。
場が整ったか確認するとタイから手を離した従者が頷く。
さあ、終わらせようか。
学園の中を興味深く眺めながら歩く……、ふりをしつつ目的地へ進む。
入学式が行われる講堂の外れ、備品をしまう倉庫から聞こえる音へ近づいた。
――ああっ、もうだめぇ……。
――焦らさないでぇっ!!
甘えるような女性の声が聞こえる。
次いで聞こえてきたのは押し殺した悲鳴のような声。
――ああん……っ! ……!!
ぼそぼそと男性の声らしきものも聞こえる。
――……むりぃっ、……すぎて、声、抑えられなっ……!
防音対策などしてるわけもない小屋なので丸聞こえだ。
中で何をしているのか、容易く想像がついた。
――……ん、……んぅ、……っ!!
女性の声が何かを含んだようなくぐもったものに変わる。
声を封じられてより興奮を得ているのか荒い息遣いが外まで聞こえてきた。
扉に手を伸ばすと連れていた従者が手を上げて遮る。
「俺が先に開けます、良いというまであなたは入らないように」
わかったと頷く。
過保護だとは思うけれど、何も真っ最中のところを見る必要はない。
「では、いきますよ」
口だけで1,2と数え、3で勢いよく扉を開けた。
「うわあああっ!」
「きゃああああっ!」
悲鳴と何かを倒すようなバタバタした音が聞こえて、一瞬静かになった後、中での一部始終を見ていた従者から合図が出る。
「これは……」
眼前に広がる光景は予想していた通り。
裸体をスカートで隠しただけの女性と、ズボンを膝まで降ろしたまま手近な布で陰部を隠した男性の姿。
「何を、していらっしゃったのですか……」
一目瞭然だが、男性に向けて問う。
意図せず震えた唇が、目の前の光景が余程衝撃だったのだと思わせた。
「答えてください、デイガルド侯爵子息様」
「何故俺の名前を……。
お前、ハイラル伯爵家の者かっ!」
私の髪と目の色を見て気が付いたのか驚愕に目を見開く。
黒の髪と紫の瞳は我が家に代々伝わる色だ。
どちらの色も他の土地では珍しい色なので、その両方を持っている私がどこの家に連なる者か一目瞭然だった。
首筋で短く切り揃えられていても艶やかさのよくわかる漆黒の髪。
紫水晶のような瞳は吸い込まれそうに神秘的な色をしており、目元のホクロとあいまって幼いながらも妖しい色香がある、と言われる。
そう言ってきた者は孫よりも年下の私へ欲を含んだ目を向けてきた。
おかげで私は社交界が嫌いだ。
代々の当主やその家族も社交を避けていたのはそれも理由ではないだろうかと思っている。
「我がハイラル家と婚約を結んでいながら、これはどういうことですか!
その恰好を見ればそちらの女性と何をしていたのか、明白です。
明らかな不貞行為、しかも神聖なる学び舎の中で淫蕩に耽るとは!
どういうおつもりか!」
よりによって婚約を結んだ家の者に見られるなんて想像もしていなかったことだろう。
怒声に青褪める男は狼狽するばかりでまともな言葉は出てこなかった。
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