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団長&副団長 × アミル
遠征
しおりを挟む手元の書類を眺めカイルが呟く。
「やっぱりこの要請気になりますよねえ」
「お前が言うなら何かきな臭そうだな」
どういう意味ですかと笑うカイルに団長が調べるなら人を向かわせるぞと言う。
急ぎで2人送ってくださいと返すカイルにわかったと応じる団長。
二人のやり取りを見ながらなぜ自分はここにいるんだろうと思い返す。
「あの、今さらですけどなんで僕はここに呼ばれたんでしょうか」
会話が途切れたところで問いをぶつけるとカイルが愉快そうに目を細めた。
「なんでって、アミルが危なっかしいから監視してるんでしょう?」
「お前をな!」
アミルのせいでしょと笑みを向けるカイルに監視されてるのはお前だと怒る団長、その説明でもまだ理解ができないアミル。
聞きたかったのは団長室に呼び出された理由だったんだけど。
「冗談だよ、ちゃんと建前は別に用意してあるから」
冗談と言いながら建前も用意してあるという。
本音はどっちなんだろうか。
「今医療班で抱えている薬の在庫を教えてくれる?
近々他の騎士団の管轄へ出向くことになりそうだから」
言われるままに求められる内容を話していく。
まさかこの時は、自分も遠征部隊に加えられることになるとは思わなかった。
魔獣の襲撃を受けた町に近づいたところで野営の準備に入る。
救援としてはかなり大きな規模の遠征となった。
アミルたちの拠点の方は残った者で対応し、遠征が長引くようなら他の騎士団から応援をもらう手筈になっている。
団長、副団長揃っての遠征は珍しいらしく先輩たちにも緊張感がある。
そんな中、団長の天幕に呼び出されたアミルは愉快そうなカイルと苦虫を噛み潰したような顔の団長に嫌な予感を覚えた。
「アミルはこっちね」
俺と町に潜入してもらうからと服を渡される。
カイルはすでに着替えており、シンプルな黒いシャツとズボン姿だ。
なんだろう、似合っているけれど……。
「お前そういう格好だと更に軽薄さが増すな」
「酷いですね団長。
騎士だとわからないようにの渾身の変装なのに」
どこがだと呆れた顔をする団長。アミルも同感だった。
騎士団の制服を脱ぎ髪を崩したカイルは夜の街が似合うような雰囲気で、形容するなら危険な香りのする男、といった感じだ。
このカイルをみて騎士だとすぐに看破する人はそういないだろう。だからこその人選なんだとよくわかる。
カイルに急かされて渡された服を着ようと制服に手を掛けると団長がわずかに驚いた顔を見せアミルは首を傾げた。
「そこだと不便だろう、あっちで着替えて制服もそこに置いておくといい」
「ありがとうございます」
示された衝立の奥で着替えを終え、空いている場所に制服を掛ける。
アミルの服もカイルと同じようなごくシンプルな物で、違いはベストが付いているくらいだ。
よく見ると凝ったデザインだけどぱっと見は地味な印象を与える。
カイルの隣に並ぶと主人と従者のように見えそうだ。……そういう設定なんだろうか。
考え事をして向こうから聞こえてくる会話から意識を逸らそうとする。
「団長って結構むっつりですよね」
「……うるさい!
平然としてるお前の方がおかしいんだ」
潜める気も無い声が耳に刺さってくる。
無駄な努力だと悟り急いで着替えて衝立から出た。
「あ、終わった?」
手招きするカイルの前に行くとベストの紐を解かれシャツの襟元を緩められる。
ぎょっとした団長が咎めるより先に手早く襟を整えたカイルが紐を結び直していく。
「このくらいでいいかな、ちょっとかっちりしすぎ」
すみませんとお礼を言いながら団長の様子を窺う。
咎めようと伸ばした手を下げる団長。
カイルは喉の奥で笑っている。
「趣味が悪いですよカイル」
「だってさあ、おかしくない?
気にしてますって全身から表しているのに何にも言わないの」
笑えると肩を震わすカイルに眉を寄せる。
カイルは平然としすぎだと思う。
首を振って話を変えることにする。
「この格好で僕は何をすればいいんですか?」
変装と言うのかは微妙だけど、わざわざ着替えて町に行くなんて。
なんで他の先輩方でなくアミルだったのかは、カイルを見るに騎士らしく見えない人選ということだ。
それほどまでに騎士と気づかれたくない理由があるはず。
「アミルの仕事は俺と団長の連絡要員かな」
調査の手伝いもしてもらうけどと告げるカイルに頷きを返す。
「実はここの騎士団の様子がおかしくてな。
俺たちが来ていることは隠せないだろうが、それに対する反応を見たい」
それでカイルと僕に町を見に行ってほしいということらしい。
様子がおかしい。何があったんだろうと思っているとカイルが捕捉をしてくれる。
「救援要請を送ってきたのはここの騎士団なんだけどね、どんな魔獣に襲われたのか数はどのくらいか全く書かれてなかったんだよ。
情報が足りなすぎるから実際に見に行ってみようかなって」
カイルの説明を驚きをもって聞く。
種類や数すらわからないなんてあるんだろうか。
「それって、通常あることなんですか]
「普通はないな」
「ないよ、だって撃退したらどんな魔獣が襲ってきたかなんてわかるでしょ」
声を揃えて通常あり得ないことだと言う団長とカイル。
「そりゃ目撃者が町の人間一人しかいなくて詳細がわからないなんてことはあるけどさ、それだけで他の騎士団に救援要請なんて出さないよ。
そんな穴だらけの情報で救援を呼んだら馬鹿にされるからね」
カイルの言うことも尤もだ。普通ならまず自分たちで確かめて討伐隊を組んでそれでも無理なら救援を呼ぶという流れだろう。
「そういった理由でここの騎士団は信用しない方がよさそうだ。
油断するなよ」
「はいっ!」
団長の激励に勢いよく返事をする。
初めてのことだらけで緊張するけれど足を引っ張らないようにしないと。
気合を入れるアミルの横でカイルが張り切るのはいいけど空回りしないようにねと注意を入れる。
カイルに注意をされるほど気負っていただろうか。
神妙に頷くとそれ、と笑われた。
いつも通りのカイルに合わせて肩の力を抜く。
「……そいつにも油断するなよ」
そんなことを言う団長に気をつけますと返す。
釘を刺す団長へ俺をなんだと思ってるんですかと文句を言うカイル。
団長の心配は今のところ杞憂だと思うけれど。
往々にして不測の事態というのは起こるものだから。
何かあってもできるだけ上手く立ち回ろうと肝に銘じた。
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