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副団長 × アミル
選ばせるつもりのない
しおりを挟む中央騎士団も到着して、ようやく引き継ぎを終えて帰還することになった。
これほど早く引き継ぎが終わったのはカイルを始めとした先輩たちの働きのおかげだろう。
当然アミルも働いたが逐一指示を聞きながらのアミルに対して、手順を把握している先輩方はカイルの無言の圧力を受けあちらこちらと走り回っていた。
帰途に就く馬上では先輩たちがやっと終わったとぐったりした顔をしていた。
馬の脚も遅くなっているような気がする。
時折後ろを確認しているカイルもダレた空気に気づいていて笑みの奥で何か考えているようだった。
しばらくしてカイルが馬の脚を緩めて振り向く。
「今日は町まで行って休むよ」
あと少し頑張りなという言葉に先輩たちが歓声を上げた。
先輩たちは本当に大変だったからか、ゆっくり休めると聞いて急に元気を取り戻す。
現金なもので再び進み始めた脚は早くなっていた。
引き継ぎがスムーズにいったおかげで日程に余裕があるのも理由の一つだろうし、ずっと働き詰めにさせていたから休ませたいというのもあるんだろう。
けれど嬉しそうな先輩たちに対してアミルは複雑な思いだった。
先輩たちが喜びの声を上げていた時、カイルの目はアミルを見ていた。
誘うような意味ありげなものではなく、ただじっと。
微かな期待と不安。
胸を騒がせるのは期待の方が強いから。
(ああ、落ち着かない……)
先頭を行くカイルは何を考えているんだろう。
それ以上考えるのは止めて無心で足を進めた。
町に入り喜び勇んで宿を出て行く先輩たちを見送る。アミルも食事に誘われたけれど軽くすませるからと断った。
外に食べに行こうか買って来ようかと悩む。
とりあえず動こうと部屋を出たところでカイルに捕まった。
「アミルはこっち」
「はあ……」
反論する気もないので黙ってついて行く。
取られたままの腕を離してくれと言う気も起きない。
逃げられないように腕を掴んだまま歩くカイルを後ろから見つめる。
アミルから表情は見えない、けれど。
今、笑みを浮かべてないのだけはわかった。
「……何笑ってるの?」
黙ったままのアミルを不審に思ったのか振り返ったカイルが訝し気な顔を見せる。
「笑ってました?」
自覚はあったけれど誤魔化す言葉を選ぶ。
曖昧に問うのでもなく笑みで誘うのでもなく、一方的に言い渡すような言葉に掴んだ腕。
選ばせるつもりすらないそれに喜びを感じた。
まあいいけど、と追及しないカイルは気づいているのか。
いつも望む答えを選ぶように仕向け回答を操っていたカイルが、選択すら与えないのは初めてだってことに。
それが嬉しい。勝手に口が緩むくらい。
足早に進むカイルがアミルを連れて入ったのは騎士団で取ったのとは別の宿だった。
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