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副団長 × アミル

放っておけない

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 あれからカイルの様子がおかしい。
 表面上は普段通りだし討伐任務も普通にこなしているけれど、どこか上の空というか、何かに気を取られている様子だった。
 アミルを抱く時も弄び快楽を刻んでいくのは一緒だが、長く焦らすこともなく精を吐き出す回数も減りまるで処理のようだ。
 けれど快楽に泣き、求める声を上げるとほんのわずかだけ口を吊り上げ欲の籠った目で見つめるから、淫らに求めることをやめられない。
 そんな表情に安心するなんて自分も相当おかしくなったと自嘲する。
 けれど放っておいてはいけないという気持ちが強かった。
 別のところで気分を発散できないかと丁度頼もうと思っていたことを口にをする。

「副団長、訓練を見てもらえませんか」

「……いいよ」

 緩慢な動作で視線を送るカイルに礼を言って訓練場に向かう。
 大分双剣の扱いにも慣れてきたので次に魔獣討伐に出るときは双剣を装備していこうかと思っていた。
 実戦に堪え得る技術になっているかカイルに見てもらいたい。

 日の暮れた訓練場には誰もいない。
 双剣を構えた僕の意図を悟ったのかカイルが口元を緩める。
 久々に見た何のてらいもない表情に胸がどくっと鳴った気がした。
 試合ではないから合図の音はない。

「……っ!」

 距離を詰め剣を突き出す。喉元を狙った突きは予想の通り簡単に弾かれる。
 引かないまま反対の手で横薙ぎに胴を狙う。
 身を躱しつつカイルは胴を狙っていた僕の剣に自分の剣を押し当てる。振り抜いていたのと同じ方向から力を掛けられ体勢が横に流れてしまう。

 力に逆らえばさらに体勢が崩れる。
 そう判断したアミルは流れに逆らわず遠心力に身を任せ、回転させた勢いを乗せ蹴りを繰り出す。
 おっと、と軽い声でこれも躱されてしまう。

「へえ、いいね今の」

 全部避けられてしまったが褒める言葉をくれた。吊り上げた口元と愉快そうな瞳からして本心だろう。
 試合であれば形式によっては咎められる攻撃もカイルには面白いと映る。
 それは徹底した実践主義によるものだ。戦闘は敵を滅し生き残るための手段であってそこに形式などいらない。
 魔獣討伐を主とし、常に命の危険に晒される可能性のある部隊の副団長ならではの考えなのか、カイルの元々の考えなのかは知らない。
 これだけ長い時間共に過ごしていてもカイルは自分の話をしない。僕はカイル個人のことを相変わらず知らないままだった。

 足を下ろして体勢を整えると今度はカイルが攻勢に入る。

「……っ」

 低いところからの突きに重ねた双剣で防御を取る。角度を付けた双剣で軌道を変えた突きは耳の横を通り過ぎ、柄の部分でもってこめかみを狙ってきた。
 半歩横にずれ避けたはずの攻撃が肩口に当たり痛みに奥歯を噛み締める。

 剣を落とさぬように力を込めバックステップで距離を取った。
 じんじんと痛む肩から意識を逸らして追撃を仕掛けてきたカイルの重い一撃を受け止める。
 一見細身に見えて、カイルの一撃は本当に重い。
 制服の下には鍛えられた身体があるのは知っているけれど、身体の厚みなら先輩方の方があるのに比べ物にならない程。
 受け流しきれなかった力に双剣の片方が弾かれた――。
 そのように見せかけて残った一剣で脇腹を狙う。

「うぐっ……っ!」

 自分の脇腹を抉った痛みに膝が崩れる。
 アミルの剣を弾いてすぐ、カイルは後ろに引いた剣の柄で胴への攻撃に移っていたらしい。
 片膝を立て痛む脇腹を押さえていると残念だったねと笑うカイルの声が耳に入った。
 くらったのがさっき受けたのと同じ攻撃だったことに悔しさが湧き上がる。
 さっきは避けれたのに、との思いが悔しさに拍車をかける。

「ま、合格かな。
 次の討伐では双剣を使って参加してもいいよ」

「ありがとうございます……」

 最後が良い結果ではなかったため返す言葉が小さくなってしまう。
 そんな僕をカイルは笑みを浮かべたまま見つめ細かい助言を与える。

「俺の突きを避けた反射は良かったけど、猪突猛進な相手じゃない限りもう半歩避けた方がいいね。
 俺の方がリーチが長いから最初の攻撃も避けたつもりが当てられたでしょう?
 魔獣相手でも同じだよ、反応の良い一部のウルフ系の魔獣は避けたところに噛みついてこようとすることもある。
 完全に避けきることを考えた方が良い」

 対人戦なら紙一重それが生きることもあるけどねと注釈を入れながら説明を続けていくカイル。
 常に近い状態に戻ったことに喜びを感じる。剣を振るうことで調子を取り戻すなんてなんだか騎士らしい。

「アミルは小さいから一歩でも完全に避けきれないときが……。
 そういえば、ちょっと大きくなった?」

 話しながら視線がアミルの頭の上に移る。
 気づいてくれた嬉しさに顔が綻ぶ。

「そうなんです」

「筋肉がしっかりしてきたのは知ってたんだけど、そっか」

「副団長くらい伸びますかね?」

「さあ、どうだろね」

 もう成人してるんだしムリじゃない、とかは言わない。
 否定も肯定もしない代わりに大きくなりたいのかと聞かれた。

「アミルは大きくなりたいの?」

「別にどちらでも良いんですが大きい方が騎士には有利かと思ったので」

「まあね。
 でも大きいなら大きいなりの、小さいなら小さいなりの良いところがあるから。
 自分に合った戦い方ができればいいんじゃない?」

 大したことじゃないというような態度だった。
 それに安堵する。どちらでも戦い方次第だと。

「もう少し背が伸びたら双剣の長さも少しだけ長い物にした方が良いかもね」

 身体ができてきたら重い剣も扱えるようになるだろうしと言う。

「そしたら副団長、剣を選んでくれますか?」

 少し虚を突かれた顔をしたカイルがふっと笑みを零す。

「いいよ?」

 思わず零れたような表情に胸が撃たれた。
 約束ですよと念を押すことはできない。
 それでもこの胸を満たす感情に口元を緩め助言の礼を伝える。
 カイルの表情も穏やかなものになっていて少しでも気が紛れたのならよかったと思うのだった。


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