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団長 × アミル
お前にはやらんって、どういう
しおりを挟む見慣れた景色が目に入り、皆の間にも帰ってきたと喜びの気持ちが見えた。
先頭を行く団長は浮かれた雰囲気の騎士団へ帰投するまで気を抜くなと戒めている。
ふと団長と目が合い、寸暇視線が絡む。
何事もない顔で視線を逸らすけれど、忘れていた感覚を思い出し息が上擦りそうになる。
戻ったらカイルにポーションを自分で使ってしまった報告もしないといけない。
けれど、誘われたら抗えないかもしれない今、顔を合わせたくなかった。
離れたはずの団長の視線がまだ身体に絡みつく感覚はアミルを甘く苛んだ。
出迎えたカイルや騎士団の皆の顔に帰って来たという気持ちが湧く。
団長へ不在の間の報告をしているカイルを見ないようにしながら長旅を労って馬を休め、残っていた医療班の先輩たちの下へ顔を出し報告をする。
しばらくぶりに会えたことでそれぞれいなかった間の話で盛り上がる。アミルたち派遣組が遭遇した事件は騎士団に所属する年数が長くともそうそう遭遇する話ではないようで、真剣だったり難しい顔をしていたり好奇心一杯の顔だったりで事細かに聞かれた。
団長不在の待機組もカイルを筆頭に変わりなく討伐の日々を過ごしていたらしい。
やっぱり今会ったらマズイ気がする。
使ったポーションの話はしばらく保留にしよう。
そんなことを考えていた僕の思考はお見通しだったらしく、医務室を出たところでカイルにつかまった。
「や、アミル大怪我したんだって?
団長に聞いたよ」
ぶつけられた直球に言い訳も思いつかない。
正直に話して謝る。
「団長に用意していた物だったのに自分に使うようなことになりすみませんでした」
「ああ、それは別にいいよ。 あの人が勝手に使ったんでしょ?
アミルに請求しようとか考えてないから安心して」
そもそもポーションの代金払ってるのって団長だからと言われてもっと焦る。
そんなアミルにカイルが不思議そうな表情を浮かべる。
「なんで俺が払ったよりも狼狽えてるの?」
「それは……?!」
何でだろう。
カイルに貸しを作った方が恐ろしい気がするのに。
団長なら謝っても気にするなと言って終わりな気がする。
ただ迷惑をかけてしまったことがより身に染みるだけで。次はないよう自分を鍛えればいいだけなのに。
自分の思考に戸惑い疑問符を浮かべたアミルをおもしろそうな顔でカイルは見ていた。
「でもポーション調達しているのは俺だから」
「……え?」
手間賃ほしいなー、と笑うカイル。
どこまで本気かわからなくて顔を見つめる。
有無を言わせず誘うようなあの色はない。けれど、冗談で収まるほど気の無い誘いでもない。
「アミルも溜まってるでしょ?」
ね?と囁く声にぞくりと背筋が震えた。
色を含んだ声に、ではなく毛が逆立つような恐ろしい気配に。
振り向くより先に大きな手がアミルの肩を掴む。
「お前、今度こそ懲戒を受けたいのか?」
唸るような低い声でカイルを牽制するのは団長だった。
「やだな、懲戒を受けるようなことしてないでしょ」
懲戒、の言葉にもへらりと笑みを浮かべるカイル。
「ポーションを楯に関係を迫っただろう、今」
「ただの冗談でしょう」
俺が本気じゃなかったのアミルはわかってるよね?と聞かれて一瞬考える。
「……本気では、なかったですね」
誘う意図がなかったとは言わないけれど、本気でなかったのは確かだ。
本気だったらアミルは多分今立っていられない。
アミルの思考がわかったのかカイルがふっと笑う。
ほら、と笑うカイルに更に怒気を強める団長へそもそも、と文句を言い出す。
「俺やアミルがポーションを持ってるのは団長が瓶を割るからでしょう。
懐に入れてるポーションがなんで戦闘中に割れるんですか全く。
もったいないから俺が代わりに持つようになって、その役目をアミルにもしてもらっているだけで、元凶は団長ですからね?」
それは初耳だけど。
治療を施すためではなく治療をするまで無事に持っているため?
ポーションの瓶ってそんなに繊細な物じゃないはずだけど。
余計な場所に思考が流れていくアミルを余所に団長とカイルの言い合いは続く。
「それと手間賃の話は別だろうが」
「だから冗談ですって。
そりゃアミルが払いたいなら?
喜んで貰うけど」
カイルの目がアミルを見たので首を振って否定しておく。
否定しないと恐ろしいことになりそうな怒気を横から感じた。
「手間賃なら俺が払ってやる、だからお前にはやらん」
肩に乗せられた手に力が籠められる。
やらん、の意味をアミルが捉える前にカイルが恐ろしいことを言い出した。
「え? 団長はいらないかなー」
「馬鹿野郎!
明日休みにしてやるからそれでチャラだ!」
カイルの発言に団長が怒る。なんでああいうことを言うんだろうか。
わざと団長を怒らせようとしているようにしか見えない。
それって元々決まってたことじゃないですか、と文句を言いながらもカイルは身を引いた。
「じゃあ、アミル。
もし団長にポーション代金を楯に迫られたら俺を呼んでね?」
「誰がするか!!」
揶揄する言葉を吐いて背を向けるカイルに団長の怒声が飛んだ。
カイルは気にする様子もなくひらひらと手を振って去って行った。
「あの、団長」
丁々発止のやり取りに口が挟めなかったけれど、とりあえず手を離してほしい。
団長に触れられている部分からどんどん熱が上がっていくような感覚があった。
「アミル」
団長の静かな声に孕む緊張にアミルも神妙に言葉を待つ。
「勝手なことを言ってしまったが、良かったんだよな?」
カイルと夜を過ごしたいわけじゃないだろう?と聞かれて何度も首を縦に振る。
それはもちろん。
視線や囁きだけで簡単に思い起こさせるほどに刻まれた快楽はそう忘れられはしないけど。
触れてほしい、とは思わない。
「なら良かった」
安堵の微笑みに胸が騒ぐ。
その言葉の意味を問う前に団長に腕を取られる。
びくりと跳ねた大げさな反射に触れられた僕の方が驚いていた。
すり、と指先が肌を撫でる。
「……っ」
口を押え息を詰めた僕を団長が柔らかく細めた目で見つめる。
漏れる吐息に滲む欲を愛おしむように指を滑らせられ、それだけで吐息に悩ましさが増す。
唇を指に押しつけ息が乱れるのを堪える。それでも熱に震える呼吸は収まらない。
「団長……っ」
「嫌か?」
離れない手に声を上げ、返ってきた静かな問いに言葉を失う。
嫌だと口にしたところで、アミルの表情はそれが嘘だとわかるほどにきっと濡れている。
「嫌、じゃない、です……。
……でも」
でも?自分の口が発しようとした言葉が誘い文句になることを知りながらも止められない。
ここでは困りますは、ここではない場所に連れて行って、の意だ。
見上げる瞳に宿る懇願に腕を掴む力が強くなる。
欲望の混ざった吐息はどちらから出たものだったのか。
熱に浮いた頭ではそれすらも理解するのは困難だった。
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