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団長 × アミル
傷だらけの身体
しおりを挟む魔獣の死骸の処理や襲撃されていた小屋の調査などが終わり、夜明けから走り回っていた騎士団もようやく休息を取れた頃、アミルは団長が借りている部屋の前に来ていた。
言わずもがな団長の治療をするためだ。
ノックをすると誰何することもなく入れと許可が出る。
「アミルか……」
僕の姿を認めて困ったような表情を浮かべる。
その表情に胸が締め付けられた。
「団長、遅くなりましたが傷を見せてください」
「ああ、わかった」
来ると思っていたからか最初の治療の時のように抵抗はされない。
ばさ、と上着を脱いだ団長の腕には細かい傷がいくつも付いていた。
傷を綺麗にし消毒液をかけていく。
ポーションは使えないのでできる治療はこれだけだ。
自分がここにいるのにそれしかできない歯がゆさに顔が歪む。
なんのためにカイルから上級ポーションを預かっていたのかと悔しさに唇を噛んだ。
「そんな顔をするな」
団長の手が頭に乗せられる。
宥めるような慰めるような優しい手つきに目を瞑る。
「あの場ではお前が一番重症だった。
俺の傷なんてかすり傷だ、どうせ上級ポーションを使う程の傷でもなかったんだからお前が気に病む必要はない」
悔しさに目が熱くなる。固く目を瞑って溢れそうな感情を抑えた。
泣く資格なんてない。その必要もないし求められてもいない。
ただ自分の不甲斐なさが胸を焦がした。
団長は僕が感情を飲み込むまで頭を撫でていてくれた。
顔を上げた僕の肩を叩いて椅子を勧める。
「俺からもアミルに聞いておきたいことがあるんだが」
「はい」
「お前が追っていた男は包囲の中から出てきたと言っていたな?」
団長の問いに肯定を返す。
ブラッディホークの卵や幼体を抱えていたことからしても魔獣襲撃の渦中にいたのは確かだろう。
地図を指し示しながら男が出てきた場所を伝える。
魔獣の襲撃があった地点を指で押さえながら思案していた。
団長の指が男が逃げて行った路地をなぞる。
その動きを見ながら僕もおかしなことに気が付いた。
「町の外へ逃げようとしていたわけではなさそうですね」
男はジグザグに逃げながら騒動の中心、町の中心に戻れる場所を走っていた。
「恐らくアミルを撒いたら隠れ家に戻るつもりだったんだろうな」
静かに予想を告げる団長に問いを向ける。
「団長たちが戦っていた場所は何かの拠点だったんですか?」
何か今回の襲撃に関連付けられるものがあるのかと思ったがそうは上手くいかないらしい。
「いや、あれは取引現場だったんだろうな。
ただの小屋で何もない場所だった。
当然俺たちが駆けつけたときにはもぬけの殻だ」
「そうですか……」
予想はできたことだけれどやはり何の手がかりもないことは残念だった。
「しかしどうして取引まで襲われずに済んだんでしょう。
ブラッディホークたちが幼体や卵に気づいたのは恐らく取引現場についてからのことです」
以前の襲撃の際もそこを狙われた可能性が高い。
しかし、そこまで魔獣たちに悟られずに運んだという方法がわからなかった。
男がずっと町に潜んで幼体や卵を保管していたならこれまでも襲われる危険はあったはずだ。
これまで町が無事だった理由がわからない。
「……そうか、地下だ」
はっとしたように団長の目が開かれる。
「ブラッディホークは空の魔物だ。
地上にいる獲物や同胞を感知することはできても地下までは及ばない」
地図を睨み、部屋を出ていく団長へ上着を渡す。
ばっと上着を纏い襟元を止め颯爽と歩き出す団長に刹那見惚れ、そんな場合じゃないと気を取り直し後をついて行った。
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