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団長&副団長 × アミル

憧れずにはいられない

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【団長&副団長ルート】


 団長室の前でしばらく悩む。
 危ないところを助けてもらったお礼を言おうとここまで来たけれど、団長からすれば普通のことで却って迷惑かもしれない。
 迷って上げた手をさまよわせる。

――止めろっ、……離せっ!

 アミルの逡巡は中から聞こえてきた怒声で吹き飛んだ。

「失礼しますっ!」

 ノックだけして勢いよく扉を開ける。
 そのままアミルは固まった。

 目に飛び込んできたのは団長にのしかかっているカイルの姿。
 片足だけブーツを脱いだ団長の足を押さえている。
 自分がされてきたことを思い出して悲鳴を殺す。
 まさかアミルにだけじゃなくて団長にまでっ?!

「カイル! 何をやっているんですか!!?
 団長から離れてくださいっ!!」

 硬直が解けたアミルがドアを閉め駆け寄るのとカイルが不思議そうな顔で答えるのは同時だった。

「何って、ダークアウルにやられた傷の手当てをしようとしてるんだけど」

「え?」

 近くで見ると団長の服は特に乱れもなく、カイルが掴んでいる足首には確かに爪でやられたらしき傷があった。

「アミルからも言ってくれ!
 コイツの手当ては荒すぎるっ!
 なんでただ消毒するだけがこんなに痛いんだっ!?」

「やだなあ、消毒は沁みるもんでしょう。
 団長が大げさなんですよ」

 絶対違うと叫ぶ団長に、大人しくしてないといつまでも治療が終わらないんですけどと文句を言うカイル。
 あまりに予想外の光景にアミルの思考はしばらく止まっていた。
 その間も手当てをしようと動いていたカイルと拒否をしている団長を見て我に返る。

「あの、カイルが乱暴に拭うから団長が暴れて傷が開いてるんじゃないですか?」

「「え?」」

 二人の目が同時にアミルに向いて怯む。
 こちらを向いたのは一瞬でまた二人は「お前が悪い」「団長がじっとしてないのが悪いんです」と言い合っている。

「あの、僕に治療させてくれませんか?」

 正直このままじゃいつまでも終わらないと思ったので口を挟む。
 魔獣にやられた傷としては小さいものなのに言い合いをしているから進まない。

 ぱっと明るい顔になってじゃあアミルに頼むと言う団長と舌打ちをして団長から離れるカイルからそれぞれ布と薬瓶を受け取り団長の足元に屈む。
 傷口をできるだけ刺激しないように洗浄し消毒をする。あの時に団長が傷をしたなんて全然気づかなかった。

「すぐに医療班の治療を受ければこんな開く傷じゃなかったはずですけれど、どうしてすぐに受けなかったんですか?」

「……それは」

 歯切れの悪い団長に対してカイルはあっさりと答えた。

「団長は治療行為そのものが苦手だから。
 いっつも痛いとか沁みるとか大騒ぎしてる」

「え?」

 意外過ぎて治療の手が止まり団長の顔を見上げる。
 そっぽを向いた団長の顔はきまりが悪そうでカイルの言葉が嘘ではないことを示している。
 治療が苦手?団長が?

「それがカッコ悪いからって医療班の治療を受けないから俺が治療してあげてるのに文句言うし」

「団長としての威厳に関わるだろう。
 あとお前の治療は雑過ぎる。 文句を言うのは当然だ」

 これだ、と肩をすくめるカイルにまだ文句を言い足りないといった顔をする団長。
 気を取り直して治療を再開し、綺麗な布で患部を覆い治療を終える。

「はい、これで終わりです。
 しばらくはお風呂の時も足はできるだけ濡らさないようにしてください」

「ああ、わかった。
 アミルはすごいな、カイルの治療と違って全然痛くなかった」

 俺のも団長が暴れなければそんなに痛くなかったはずですよとカイルが返す。
 子供みたいな言い合いをしている二人が意外過ぎて二人の顔を交互に見る。

「ところでアミルはなんで団長室ここまで来たんだ?」

 何か用事があったのかと不思議そうな顔をされる。
 団長室なんてアミルのような下っ端が来るところではないから疑問に思うのも当然だった。

「あの、ダークアウルに襲われたときのことで、危ないところをありがとうございました」

 背筋を伸ばして頭を下げる。
 団長がいなければ治療を受けていたのはアミルだったはずだ。
 最悪、治療の必要もなくなっていた可能性もある。

「わざわざ礼を言いに来るなんて律儀だな。
 普通のことだからそんなに気を遣わなくていいんだぞ」

「団長も俺にお礼なんて言ってないしね」

 カイルが団長の言葉をまぜっかえす。
 お前は黙ってろとばかりに団長がカイルを睨む。
 けれどカイルは変わらない笑みを浮かべるばかりで、団長も諦めたように視線を戻した。
 僕に向き直った団長が真剣な顔で口を開く。

「しかし今回俺が間に合ったのは運が良かっただけのことだ。
 あの場では他の隊員に任せて俺かカイルの部隊を呼びに行くのが最善だった。
 騎士である以上危険は付き物だが、敵わない相手を前に向かっていくのは自分だけでなく他の者も危険に晒す行為だからな」

 団長に諭されて申し訳なさが募る。
 確かに先輩たちならもっとうまく立ち回れたはずだった。

「だがそのおかげでアイツも怪我が軽くてすんだ。
 初めての討伐でダークアウルに遭遇するなんて中々ないことだがよくパニックにならずにいられたな」

 よくやったと頭を撫でられてぶわっと顔が熱くなる。
 絶対今顔が赤いはずで羞恥に顔が上げられない。

「あ、じゃあ俺からも。
 あのギリギリの局面でよくダークアウルに一矢報いようなんて考えたね。
 最後まで戦う意思を捨てないかどうかで生き残る人間は決まる。
 生き残るための判断を咄嗟によくできたよ、偉い偉い」

 団長に頭を撫でられている僕の顔を覗き込んで微笑む。
 珍しく邪気のない顔で褒められてさらに顔が熱くなった。
 憧れの人、目標にしてる人からの褒め言葉は特別で、嬉しさと至らなさに逸る気持ちで頭が沸騰しそうだ。
 他者を圧倒する二人の強さに、憧れずにはいられなかった。


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