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討伐への参加命令
しおりを挟むあれからずっと団長とは気まずいままだけどカイルとは普通に接している。
普通の副団長と団員として。
だから急に呼び止められても以前より気負いなく返事をした。
次の出陣に備えた薬品の用意の進捗状況を聞かれるかと思っていた僕は驚きに口を開ける。
「次の討伐にはアミルも中衛として加わるように」
「本当ですか?」
「何かおかしい?
ずっと普通の剣に加えて双剣の訓練も続けてたでしょう、筋力も前よりついたみたいだし身体の動きも安定してきた。
だからだよ」
カイルが見ていて評価してくれたことに驚きと嬉しさで顔をまじまじと見てしまう。
やっぱり副団長なんだなあ。
と若干失礼なことを考えながら。
「何? らしくないとでも思った?」
「いえ、違いますが……」
似たようなことは考えていた。
アミルにあんな行為をしかけたりするような人ではあるけれど。
夜遅く残って書類仕事をしていたり、出陣時の細々とした手配の進捗も確認しているし、空いた時間で団員の訓練を見に来て気が向けば手合わせをしてくれたりもしている。
魔獣の討伐などでは一騎当千の活躍をみせていた。
目配りが上手く多才な人なんだと改めて感じる。
あんなことがなければ理想の上司として慕っていたかもしれない。
もうそんな純粋な憧れの目を向けることは無理だけれど。
「違うけど似たようなことは考えてたんだろ。
顔に出るからわかりやすい」
そうも言われては取り繕う気にもなれない。
何度も身体を重ねた気安さか礼節は保っても本心を偽って接することは難しかった。
「ほらその顔」
カイルの見せる笑みには呆れよりもおかしさが混じっているように感じる。
気まずい関係でなくこうして軽口を貰える関係でいられるのは楽だった。
「まあいいけどね。
それで討伐の話に戻るけど、アミルは前衛が討ち漏らした魔獣を倒す役割になる。
これまで加わって来た作戦とは役割も違うし危険も大きい。
今回は双剣は使わず慣れている剣で参加するように。
気を引き締めていきなよ」
「はいっ!」
実戦で魔獣と戦うことになっても焦らずに動けることを重視するなら入隊からずっと使っている剣の方が良いとの判断なのだろう。
カイルは本当に団員をよく見ている。
そしてそんなカイルに戦闘に加わることを許されるくらいに自分が成長していたことを嬉しく思った。
次の討伐任務への参加者名簿を見ていた団長がこちらを見た。
「これ、アミルを参加させるって本気なのか?」
「本気ですよ」
酔狂で魔獣討伐への参加などさせない。
相手が貴族であろうが他の部隊で腕に自信のある者であろうが、実力が足りないなと思った者を参加者に組み入れることはしない。
これは俺が自分に決めているルールだ。
実力が足りない者は自分だけでなく部隊全体を危険に晒す。
本人がいくら志願しようと権力をちらつかせて脅してこようとそこを曲げることはなかった。
普通に真面目に鍛錬して実力を付ければいいだけのことだしな。
きちんと訓練していれば討伐に出られないほど実力が身に付かないなんてことはありえない。
万が一そんなヤツがいたら根本的に騎士に向いていないから退役を勧める。
まあ未だかつてそんなヤツは見たことがないが。
「どうかしましたか?
俺の推薦に口を挟むなんて珍しい」
部隊の編成は相談し合って決めているが、討伐への参加者自体は副団長である俺に基本的に任せてくれている。
そこまで口を出すと団長の仕事が増え過ぎるし、後釜が育たない。
俺と団長は組んでそこそこ長いこともあり、参加者名簿の確認だけをして承認することが多かった。
問題でも?と聞くと歯切れ悪くアミルにはまだ討伐任務は早いんじゃないかと言い出す。
「アミルはしっかり訓練に取り組んでいて不足していた筋力もついてきましたし、技量もそれほど拙くはありません。
次の討伐がヘルラットというのも丁度良い。
もしボアやベア系の討伐なら力不足を理由に外しますが、今回のヘルラットなら経験を積む良い機会です」
ラット系はすぐ増えるため狩る際は打ち漏らしをしないようにするのが重要な魔獣だ。
力は足りないがその分速さに長けるアミルにはうってつけの魔獣だった。
数の多さと素早さが厄介だが致命傷を受けるほどの攻撃力を持たない魔獣というのもあり、初めて討伐任務にあたる騎士はラットを相手にすることが多かった。
「そうか、お前がそこまで言うなら大丈夫なんだろう。
しかし、恋人なんだろう? よくそこまで淡々と戦場に出す利点を説けるな」
団長の言葉に眉を寄せる。
何を気にしてるのかと思えばそんなことか。
呆れ半分興味半分で団長を観察する。
「恋人なんかじゃありませんよ。
言ったでしょう? ただの解消相手だって」
俺の返答に眉を寄せ険しい顔になる。
ぐっと眉間に寄った皺が団長の不快感を示しているようだった。
部下に手を出したことに文句を言いたい訳ではないだろう。
これまでにも関係を持った部下は何人かいたが苦言をされたことはない。無理やりでない限りは戦闘後の情事に口を出すなんて野暮でしかない。
俺の相手のことに言及してきたことなんてなかったのに。
余程アミルのことが気になるようだった。
現場を見られたのは初めてだったけど失敗だったかな。
俺に対する態度が変わらなかったからアミルに対しても同じだと思っていたけど最近妙に避けているようだし。
団長を慕っているアミルにとっては辛い状況かもしれない。
その割に俺に対する態度が砕けてきている。恨まれる覚えもあるがそんな様子もない。
団長に見られて吹っ切れたって可能性もあるけどな。
答えの出ない思考を打ち切る。
「反対がないならこれで決定でいいですね」
俺の切り替えに団長も頷く。
細々した準備の段取りは俺の役目なので承認印をもらい席を立つ。
まだ険しい顔をしたままの団長に一言告げて団長室を辞した。
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