10 / 69
共通ルート
恋情
しおりを挟むアミルはあの日の事情を聴くと団長と向かい合っていた。
中々話を切り出さず、言葉に迷う団長の様子にいたたまれない。
「その、カイルとは……」
言い澱む団長に耳を塞ぎたくなる。
けれどこれが正式な聴取であるなら逃げるわけにはいかない。
「同意の上の関係なのか……?」
ひくっと喉が震えた。
核心を突いた質問に捻る言葉も考えつかない。
望んで行為をしているのかと問われれば違うと言える。
けれど、無理やりだったのかと言えばそれは是とは言えない。
始まりが一方的なものだったのは事実。
巧みな手技で翻弄し、快感に屈するよう弄ばれた。
しかし、最後には受け入れたのはアミル自身だ。
「僕から望んだ関係ではありません……」
望んで関係を持ったことはない。
だっていつだって仕掛けてきたのはカイルからだった。
「そうか!」
「けれど、最後に受け入れたのは僕の意思です」
たとえ快楽に負けたのだとしても、拒絶しなかったのはアミルだ。
逃げず、他に助けを求めることもせずに曖昧で消極的な拒否を続けた。
だから、全ての罪をカイルに負わせる気にはなれない。
「同意の上で、快楽を共有する関係でした……」
自分が口にした最低のセリフに吐き気がこみ上げてきた。
きっと団長には軽蔑される。
あんな、正視に耐えない痴態を繰り広げる人間が部下なんて。
忌避され遠ざけられても仕方ないことだった。
「本当に……」
「本当です」
団長の言葉に重ねて答えを返す。
「だが……、お前はカイルを好いているわけではないんだろう?」
「……っ!」
憧れている人に、恋をしている人に、無遠慮に問われて感情が溢れてきそうだった。
団長を好きなんだろうとは聞かれない微かな救いに心が乱れる。
団長を好きなのかと問われたらきっと否定はできない。
誤魔化したいのか認めたいのか混乱する思考で発した言葉は酷く冷たかった。
「だから、なんですか?」
「それはっ」
息が苦しい。
ただ問いに答えているだけなのに、どうしてこんなに呼吸が難しいんだろう。
「カイルとは欲望を解消し合う関係、それだけですから。
気持ちとは関係ありません」
絶句した団長の顔を見られなくて視線を逸らす。
「もういいですか、それでは失礼します」
立ち上がったアミルに団長は制止の言葉を上げなかった。
鈍い動きの足を叱咤して扉まで向かう。
扉を開き、アミルが外へ踏み出しても止める言葉はなかった。
背後で扉が閉まる音がした瞬間、弾かれたように駆けだしていた。
心が伴わなくても身体の関係を持つ人間。
アミルの返答に絶句していた団長はそれを信じられないのだろう。
侮蔑されるのは怖い。
けれど、貴方を好きなのにカイルと身体の関係を持った男と言われることはもっと耐えられなかった。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました
むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる