ご主人様と猫少年

みき

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切なめな話

ナオくんともう一匹の猫1

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雨の降る夜。傘を差しながら家路へと急ぐ。

「遅くなっちゃったな…ナオくん、お腹空かせてないといいけど…」

思っていたよりも仕事が長引いてしまった。家で待っているだろうナオくんを思いながら暗い夜道を足早に帰宅していると、

「オニーサン」

「っ…」

不意に声をかけられた。若い男の声だった。
少しびっくりしつつ、周囲を見回す。

「こっち。ここだよ」

目を凝らすと、数メートル先のブロック塀の上に、誰かが座っていた。

黒い猫耳と長い尻尾が揺れてる。
全身びしょ濡れの猫人間だった。

「…」

雨が降ってるのに傘も差していない。
黒髪。中性的で綺麗な顔をしていた。年はナオくんより何歳か上だろうか。

「俺のこと拾ってくれない?」

その子はブロック塀の上から僕を見下ろしながらそう言った。

「…飼い主さんは?」

「いない。今日捨てられた。」

見ると、たしかに首輪をしていなかった。

「…」

「大きくなったからもういらねーんだって。
今まで散々チヤホヤしてたくせに急に首輪外して外にポイだぜ?酷いよなぁ」

その子は一度クシュンッとくしゃみをした。

「……ごめんね。拾ってあげたいけど、僕にはもうペットがいて…」
「知ってる。匂いで分かるんだよね。猫人間だろ?」
「…そうだよ」
「猫好きならワンチャンあるかと思って声かけたんだ。…よっと」

その子は塀の上からひょいっと軽々飛び降りて僕の前に着地した。

「飼うのが無理なら何日かだけでも泊めてくれない?オニーサンに絶対迷惑かけないし、飼ってるペットとも仲良くする。」
「……」
「お願い…このままだと俺保健所の奴らに捕まって去勢されちゃうよ…」

すがるような目でその猫は僕を見上げた。
近くで見る彼はずいぶん長いこと雨に打たれていたのかTシャツもズボンもびしょ濡れで、かすかに震えていた。
空腹なのかさっきからグーグーとお腹の鳴る音も聞こえるし、これでは保健所行きの前に衰弱して弱ってしまうだろう。

「…」

僕は家で待つナオくんを頭に思い浮かべた。
僕が急に見知らぬ猫を連れ帰ったら、ナオくんビックリしちゃうだろうな…。
でも…このままこの子を放置したらたぶん……

………何日かだけなら…許して、くれるだろうか。

「……わかった。風邪引くといけないし、何日間かだけ泊めてあげる。」
「ほんとに!?やった!まじで助かるっありがとオニーサン!」
「僕のペット…ナオくんって言うんだけど、まだ成猫じゃないし、少し気も小さいから、怯えさせたりしないでね」
「もちろん!約束する!」


僕は出会った猫人間と相合い傘をしながら家へと向かった。
あれ、そういえば大事なことを聞いていなかった。
僕は隣の猫へ声をかける。

「そういえば君は、なんて名前なの?」

「………クロ。…クロって、…呼ばれてたよ」

その猫は少し悲しそうに、笑った。

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