βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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提案。1

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「ッ…この…、」

今まで自分に対して
反抗的な態度を一度たりとも取った事が無かった命が…

ここにきてたかがβの男一人の為に「愛している」とのたってまで
自分に刃向かう姿勢を見せる命に

繋は一瞬ギリッと歯噛みをしながら
苦虫を噛み潰したよう表情を命達に見せるが――

―――いや待て…コレはコレで利用出来るのでは…?

繋の脳裏にふとある考えが浮かび、すぐに何時もの余裕のある表情に顔が戻ると
再び椅子に深く腰を掛け直し、口角を上げながら繋がその口を静かに開く

「…ならば――益々あのβをお前に返すわけにはいかんな。」
「なっ、」
「当然だろう?
 次期鬼生道を背負って立つ立場のお前に必要なのは子を成せるΩか女だ…
 なのにそんなお前をたぶらかすβの男を…
 私がみすみすお前に返すとでも?」

再び張りつけた笑みと共に発せられた繋からの言葉に
命がグッと拳を握りしめ、殺気だった視線を繋へと向ける…

「なら…」

命が鋭い視線のまま片足を肩幅くらいにまでずらし臨戦態勢へ…

―――力ずくでも…

「!」

そんな命の動作に
繋の後ろに離れて控えていた三人の護衛が一斉にホルスターに手をかけ
命の出方を伺い、繋は殺気立つ命を目を細めながら黙って見つめ続ける…

一触即発の空気が漂う中…
命の後ろで事の成り行きを見守っていた円がポンと命の肩にその手を置くと
呆れたように溜息をつきながら命に話かける

「…もう…あきちゃんったら脳筋すぎぃ~…
 何の為に僕が此処に居ると思ってんのさ…」
「ッ!円…」

そう言うと円は命の肩を引いて自分の後ろに下がらせ
目の前で余裕綽々よゆうしゃくしゃくな表情を見せながら椅子に座る繋を
氷点下の眼差しで見下ろす

「…随分と余裕そうだねぇ…鬼生道家の現当主様は…だけど――」

円の瞳が銀色に輝きだし、その形の良い唇が弧を描きながら口を開く


「“ようちゃんを…皆瀬 洋一を今直ぐお前のめいにより解放しろ。
 鬼生道 繋”。」


円が繋の姿を真っ直ぐに捉えながら、言霊を込めた言葉を繋に向かって言い放つ

しかし――

「フッ…」
「…ッ?」

繋は椅子に深く腰かけ、薄い笑みを浮かべたまま微動だにせず…
円はそんな繋の様子に目を見開いて戸惑い、焦る
そこに繋が口角を釣り上げた笑みを深くしながら言葉を発する

「私が――言霊に対して何の対策もとらないまま…お前達を此処へ招くとでも?」
「ッ!?」

繋はそう言うと片耳にかけていた黒いインカムを指先でトントンと
命達に見せつける様にして軽くつつく

「…言霊とは本来力の弱いαやβ…そしてΩなどを
 特殊な波長を込めた言葉で従わせるもの…
 大神の小倅如きの言霊で…私がどうにかなるとも思えんが――
 念には念を入れてな…
 このインカムにはその言霊から発せられる特殊な波長を
 別の波長を用いて打ち消す装置が組み込まれている。
 他の者たちが着けているインカムにも同様にな…」

繋がチラリとバーカウンターにまで下がり
コチラの様子を伺っている護衛達を見やる

「つまり…お前達の切り札であったハズの言霊は――
 私や、このビル内にいる他の者達には通用しないという事だ…」

繋が言い終わると同時に軽く片手を上げる
するとエレベーターのドアが開き
中から約10名程の黒スーツを着た者たちが統率の取れた動きで降り立ち
バーカウンターに居た三名と合流して命達を取り囲む

「ッ、あきちゃん…、」
「此処の“社員”達は皆――手練れだという事は知っているな?命。」
「…ッ、」

命が視線だけを動かして周囲の様子を伺う

―――数だけなら…まだどうにか出来そうではあるが――
   円の言霊が封じられた以上…
   もし俺が此処で無駄に足掻いて
   父上が部下に命じて洋一の身に何か危険が及ぶような事があったら――

「……」

今も何処かで捕らわれている洋一の身を案じ
命は苦渋の表情を浮かべながら息を吐きだすと
肩の力を抜いて臨戦態勢を解いていく…

「あきちゃん…」
「フッ…良い心がけだ命…
 その心がけに免じて――私からお前に一つ“提案”があるのだが…」
「…提案?」
「そう…その提案をお前が飲めば――例のβ…返してやらなくもない…」
「ッ!?それは一体どんな…」

一刻も早く洋一を返して欲しい命は藁をも縋る思いで繋を見つめ
繋はそんな命の反応に笑みを深くしながらその口を静かに開く


命にとって了承しがたい言葉と共に…





「水鏡 契と番え命…
 そうすればお前の大事なβを…
 皆瀬 洋一をお前に返す事を考えてやらなくもない…」
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