βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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お爺様。3

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「人が若返るなど…そんな事が…」

突然SFめいた事を円から聞き…
命は信じ難いといった表情を見せながら自身の戸惑いを隠せない

「あきちゃんが信じられないのも無理はないけど…
 事件後その少年のDNAを調べた結果
 お爺様のものとほぼ一致しちゃったからね…間違いないよ。
 …政府がお爺様を手放したがらないワケだね…」
「…?」

俯きがちに手に持ったスマホを見つめながら小さく呟いた円の最後の一言に
命が一瞬首を傾げるが
円は構わずに再び事件のあらましを静かに語り始める

「事件発生から数時間後…
 駆けつけた警察官によってお爺様の身柄は確保され
 暫くの間、警察署内の留置場に留置されていたのだけれど…
 突如として現れた政府関係者を名乗る者たちにより
 お爺様の身柄は警察署から
 “サイトA”へと呼ばれる政府の極秘施設へと秘密裏に移送され
 20年以上経った今でもお爺様の身柄は厳重な警備のしかれた
 そのサイトAに隔離される事に…
 皮肉だね…ようちゃんを親元から引き離したりして
 散々研究の為とようちゃんを研究所内に閉じ込めたりしていたお爺さまが…
 今や閉じ込められる立場に成り下がるだなんて…」

円がフッ…と何処か寂し気に微笑む…

「その後大神進化学研究所で起こったこの惨殺事件は
 お爺様の研究が世間の注目を浴びる事を恐れた政府の手により
 隠蔽され…無かった事に…
 まあ…当然だよね…」
「…“若返ったα”による犯行などと…
 口が裂けても世間に公表出来るものでは無いしな…」
「…まあソレもあるんだけど――他にも理由が…」
「?それは一体…」

命が疑問に思った事を口にしようとしたその時
ブブブブブ…ブブブブブ…と、命の胸ポケットに入っていたスマホが震え出し
命がポケットからスマホを取り出すと、画面も碌に見ずに
ピッとスマホの通話ボタンを若干イラつきながら押して電話に出る

―――何だ…こんな時に…

「…はい。」
『…何時まで私を待たせる気だ?』

―――――――!?

受話口から聞こえてきた予想外の声に、命の動きが綺麗にピタッと固まる

「…父上…」
「ッ!?」
『?ちちうえ…?』
『…折角お前が臨海公園に居る事を承知の上で、そこから比較的近い
 鬼生道W.D.Pを選んでやったというのに…何をもたもたしている?


 私は待たされるのは嫌いだ。早く来い。』


ピッ…と、それだけいうと命の父親は一方的に命への通話を切り
命がハッとして目を見開き
慌ててギアを切り替えて、路肩から車を急発進させる

「ッ、ちょっとっ、急に危ないよあきちゃんっ!」
「こんな所で悠長に話しをしている場合ではなかったっ!洋一…っ、」
「あ…」
『…?話が見えてこないんだが…洋一がどうかしたのか?!』
「ゴメンこーちゃんっ!話はまた後にして切るね?」
『あ…おいっ!』

受話口から聞こえる浩介の焦った声を無視して円も通話を切ると
二人を乗せた車は命の父が待ち受ける鬼生道W.D.Pに向け
再び猛スピードで走り始めた…


――――――――――――――――――

―――――――――――――――

――――――――――――

――――――――


「…しっかし――
 連中は何時まであの不気味なαを此処に隔離しとく気なんでしょうね?」

広くて長い…灰色一色の通路が一本
何百メートルにもわたって続く通路の左右には
ガラス張りで中が丸見えの小部屋が一定間隔で続き…
その小部屋の中では白い繋ぎのようなものを着た人々が
思い思いの事をして時間を過ごしているのが見え
その通路の出入り口付近では腰に拳銃を下げた二人の男性が椅子に座り
時折通路のずっと先の方に視線を移しながら雑談をしている

「…政府の知りたい事はもう…アイツの“頭の中”にしか無いらしいからな…
 ソレを聞きだすまで、政府はアイツを此処から出す気なんて更々ないだろう…
 そうでなくとも此処はサイトA…此処からアイツが出られる可能性なんて…」

年配の男性がチラリと通路の先を見つめ、その表情を曇らせる…

「そうなんですけど…
 様々な権威を持つ専門家が毎日のように此処を訪れ
 あのαの身体を散々調べたり
 その頭の中にしかない“何か”聞きだそうと躍起になっているにも関わらず
 未だにあのαの口を割らせた者はいないんでしょう?
 だったらもう…無理なんじゃないかと思いますけどねぇ…俺だったら。」
「確かに。…時折此処を訪れる“孫”の質問にはポツポツと答えるらしいが――」
「それっ!ホントにあの銀髪“孫”なんすか?!
 あのαと歳そんなに変わらないように見えるんですけど…」
「…ホントそれな。それよりも何で政府はあの孫を此処に通す事を許可して…」

二人の視線が同時に通路の先を見つめる…
その真っ暗闇の通路の先で
紅く輝く瞳が二人の姿をハッキリと捉え、見つめ返しているとも知らずに…





「…わたさない…わたしの研究はだれにも…


 よーいち…」
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