βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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お爺様。2

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「もう“お爺様”と呼べ無い姿になったけどね…」

そう話す円の表情に影が射す

「それはどういう事だ…?“もうお爺様と呼べ無い姿”とは一体…」

円の言葉に命は訝し気に円の顔を凝視し、二人の間に重い空気が流れる…
そこに浩介が『…“隔離されたα”…』とボソッと呟き
円の瞳がみるみるうちに見開らかれていく…

「―――ッ!?こーちゃん…何で…、」
『…別に驚く事じゃないだろ…
 お前が俺の血統を“お爺様”に聞いて知ったと言う事は――
 それはつまりお前の“お爺様”が俺の血統と“繋がり”があったという事…
 それがどういう事を指し示すのかと言えば――
 俺も自分の血統を調べれば
 自ずと俺も、お前の“お爺様”の存在に辿り着く事になるのだから…』

ソレを聞き円が「あっ…そっか…」と小さく呟きながら力無く微笑む

「…“隔離されたα”とは?」

命が業を煮やして円たちに聞き返す

『円のお爺様が“匂い”の研究を行っていた事は――』
「先ほど円から聞いている。」
『そうか…俺も自分の血統を調べていくうちに偶然その事を知ったんだが…
 どうやら俺の祖父と円のお爺様は古くからの友人関係にあったらしく…
 当時円のお爺様が行っていた“匂い”によるαの更なる進化の可能性についての研究に
 もはや陶酔と言っていいくらい入たく感銘を受けていたらしい俺の祖父は
 円のお爺様が自身の研究所を設立するという話を聞いた際
 友人を支えるという意味でもスムーズに事が運ぶよう
 政治家や官僚などに色々な根回しを行い、尽力したんだそうな…』
「よくそこまで調べる事が出来たね…こーちゃん…」

自分の祖父と“お爺様”との関係についてまで
この短い時間に調べ上げた浩介に、円が感心したかのように口を開く

『…“αの古い家系”って言うのは国内だけでも数が限られてるからな…
 “姓”さえ分かっちまえば後はどうとでも調べようがある…』
「へぇ…」
『それよりも…だ…
 研究施設設立の話からその数年後…
 祖父の尽力の甲斐あってか“大神進化学研究所”が無事
 都心に近い郊外に建設されたわけだが――』

受話口から聞こえてくる浩介の声が徐々に小さくなっていき
まるでこの先を話すのを躊躇うかのように言い淀む…

「…どうかしたか?」
『いや…コレ――現実の話なのかなって…』
「…?」
『…なんでもない。
 ――それでその研究所が設立されてから10年後…
 今から20年程前の話…大神進化学研究所である事件が起きる…
 その事件というのが――』

円がゆっくりと前を見据えながらその口を開く


「“大神進化学研究所惨殺事件”…」


「なんだその大神進化学研究所惨殺事件というは…聞いた事もないが…」
「…だろうね。政府によって緘口令かんこうれいがしかれる程の
 大事件だったからね…」

円の口元が皮肉気な弧を描き
自嘲気味な笑みを浮かべながらフッと息を吐きだす

『円…』
「…こーちゃんは事件の詳細…知らないでしょ?ココからは僕が話すよ。」
『…』

浩介にそう言うと、円が静かに続きを語り出した…

「…事の発端は政府がお爺様の匂いに関する研究成果を何処かから嗅ぎつけ
 その研究成果を近いうちに政府関係者が奪いに来ると言った情報が
 お爺様の耳に入り…
 その事に危機感を募らせたお爺様が
 ようちゃんの匂いに関する研究を全て破棄した後
 ようちゃんから抽出した匂いの成分を全て自分に投与した所から始まる…」
「…ここまでは先ほどお前が話していた事と一緒だな。
 その後お前のお爺様は“もうお爺様と呼べ無い姿”になるのだろう?」
「そう…
 お爺様が自分に注射を打ってから
 どのくらいでその身体に“変化”が起こったのかまでは分から無いけれど…
 その後、研究所施設内の監視カメラの映像から
 一人の若い…10代くらいの少年が発狂しながらお爺様の研究室から飛び出し
 次々と研究所施設内に居た職員や警備員に襲い掛かり
 素手で喉や腹を引き裂いている姿が――」

―――ん?

「ちょっ…ちょっと待て円…っ、」
「?」

気づいてしまったお爺様の変化とやらに命が戸惑い…
慌てて円の言葉を遮る

「まさか…まさかだが…
 この発狂した10代の少年が、お前の“お爺様”だったと言うつもりでは――」
「…そのまさかだよ。」
「ッ!?」

動揺する命を他所に、円が言いきる

「…この発狂し、研究所の職員や警備員を一人残らず皆殺しにした10代の少年こそが
 かつてのお爺様…


 大神 源おおかみ みなもとその人だよ…」
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