βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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お爺様。1

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「…お前はもう帰っていいよ。」
「分かりました。では、失礼いたします円様。」

命と円が臨海公園の駐車場に辿り着くと
円がそこで待機していた自分の運転手に声をかけ、運転手は円たちに一礼した後
車に乗り込みその場を後にする

「…ところで…」

命がアストンマーティンの運転席側のドアハンドルに手をかけ
ふと何かを思いだしたかのように
同じく助手席側に乗り込もうとしていた円に声をかける

「…アイツ等はあのままにしておいてもよかったのか?」

広い公園の真ん中で…
未だに円陣組んでお座りをし続けている狼達の事を思いだし
命が少し不憫に思いながら運転席のドアを開ける

「あー…アレね…
 だいじょぶ!明日の明け方くらいには言霊の効力も切れてるって。」
「明け方…それは流石に――」

可哀相なのでは?…と命は言いかけたが、円がすぐさま

「だってアイツ等…泣いてたようちゃんの事を襲おうとしてたんだよ?
 これくらい――」
「…なに…?」

ソレを聞き、命の表情が一変する

「明け方までとは言わず…
 干からびるまでアイツ等をあの場で晒し者にし続ける事は出来んのか?」
「出来無いよ。まあ気持ちは分からなくはないけど…
 それよりホラ、早く車に乗って!ようちゃん助けにいくんでしょ?」
「ッ!ああ、そうだな…」

二人が車に乗り込むと
アストンマーティンが誰も居無い駐車場を勢いよくバックし始めたと思ったら
キュキキキキッ!と、その場で見事な180°スピンターンを決め
車体を正面ゲートに向けると
そのまま何事もなかったかのように臨海公園を走り去った…



車が暫く走ったところで円のスマホが鳴り
円がスマホの画面を確認すると、何処で円のアドレスを入手したのか
そのには浩介の名前が表示されてて

「あ!こーちゃんからだ。」
「なに?」
「もしもし~?こーちゃん?」
『…円…』

通話をスピーカーに切り替え、ピッと電話に出た円の明るい声とは裏腹に
受話口の向こうから聞こえてきた浩介の声は暗くて低い…

『…円お前…知ってたのか…?』
「え?何が?」
『俺の父方の血統…』
「っあ…こーちゃんあのね…?」
「篠原の血統…?何の話だ…」
『!命もそこにいんのか…だったら丁度いい…聞いてくれ…俺の親父が――』
「こーちゃんっ!」

円が急に声を張り上げ、浩介の言葉を遮る

『…なんだよ…お前が調べろって言ったんじゃねーか…“俺の血統”を…』
「ッ、そーだけど…っ!でもこうも言ったよね?
 『何か分かったとしも自分を責めちゃダメだよ。』って…
 例えこーちゃんのお父様に“裏の顔”があったとしても――」
『ッ!テメー…やっぱり知ってたんじゃねーかっ!!』

スピーカーから聞こえてくる浩介の声が荒げる

「…先程からお前達二人は何の話をしているんだ?」

正面を見据えながら運転している命は、二人の会話の内容が見えてこず
思わず口を挟む

『…俺の血統の話だよ…今朝、円が俺に会いに来て
 俺に“運命が造られる”とかいう妙な噂話しを持ってきてな…』
「運命が…造られる…?」
「………」


『やはり“造られた運命”は不完全だったという事か…』


―――ッ!?

命の脳裏に先程の父との会話が過り
命がヒュッと息を飲み込み、思わず助手席に座る円の方を見ると
円は俯き、神妙な面持ちでスマホ画面を見つめており…

『…その事で円が俺に言ったんだ。“自分の血統を辿れ”…と…』
「………」
『最初は半信半疑だったが――
 それでも俺がまず真っ先に電話をかけたのが俺の親父。
 けど親父は俺からの質問をのらりくらりとかわすばかりで
 全然答えようとしなくてな…
 果ては「今忙しいから」と一方的に電話を切りやがってさ…
 まあ…今思えばとーぜんなんだけどな…』
「…ッ、」

受話口からでも分かる位、悔しさが滲み出るような浩介の呟きに
円の表情にも陰りが現れる…

『そこで次に俺が電話をかけたのがお袋。お袋も大分口が重かったけど…
 それでも分かった事があって
 一つは俺の姓“篠原”が母方のモノだった事…
 何でも親父は自分の姓を表に出すのを極端に嫌ってて――
 それで仕方なく母方の姓を名乗る事にしたんだとか…
 ま、これも当然か…』

浩介がまるで吐き捨てるかのように小さく最後の一言を呟く…

『そしてもう一つ分かった事が
 親父の家系は古くから代々続くαの家系で…
 親父がお袋と結婚を決めた際、親父の親族一同は総出で
 その結婚に反対したんだと…「βと結婚するとは何事かっ!」…みたいな?
 …この話をしている最中のお袋の声…泣いてたな…』

受話口から聞こえる声からも分かる位
辛そうにしている浩介の雰囲気が伝わったのか…
円のスマホを握る手に力が入り、指先がクッと白む…

『…でも親父の親父…その時父方の血筋全ての頂点に君臨していた
 当時の当主…俺の祖父に当たる人が
 俺の親父にある条件を飲めば結婚を許すと言ったそうなんだが――
 …その前に円…』
「…なに…?こーちゃん…」
『お前はもう…全部知ってるんだな?俺の事…』
「…ぅん…知ってる…こーちゃんの事を調べる際…お爺様に全部聞いた。」
「ッ!?ちょっと待て円っ!」

運転しながら話を聞いていた命がこれには驚き
思わず車を路肩に止め、円の方を凝視しながら恐る恐る口を開いた

「お前のお爺様とやら…こう言っては失礼だが――まだ御存命なのか…?」
「うん、生きてるよ。といっても――ようちゃんを僕から隠した後…
 ようちゃんの匂いに関する研究を全て破棄し
 最後に残されたようちゃんの匂いから抽出した液体全てを自分に投与した結果…
 




 もう“お爺様”と呼べ無い姿になったけどね…」
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