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重なる影。
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―――そろそろ時間か…
命は契に会う為に身支度を整え終えると
険しい表情で愛車のアストンマーティン・ヴァンテージに乗り込む
―――洋一に何も言わずに契と会うのは気が引けるが…
俺が契と会うなどと馬鹿正直に話したら
また洋一を不安にさせ、泣かせてしまうかもしれん…
それだけは避けたい…何としても…
もう自分のせいで泣く洋一の姿を見たくない命は
洋一に隠しごとをする事にうしろめたさを感じながらも
それでも自分自身の覚悟を洋一に示す為と自分に言い聞かせ
命は無言でエンジンをかける
―――決着をつける。
これ以上…洋一を泣かせない為に…
なに、洋一が浩介と飲み終えるまでには帰ってこられるだろう…
契から俺にどんな話があるかまでは分からんが――
俺から契に話す事は“番えない”の一言しかないからな。
ギアを入れ、命は意を決して前を見据えると
命の運転する車は静かに自動で開いた門を潜り、屋敷を後にした…
命が契との待ち合わせ場所である臨海公園に辿り着くと
何故か駐車場に見覚えのある車が見え…
―――あの車は――
命はその車の隣に駐車すると
すでに停まっていた隣の車から山下が姿を見せ
駐車し終えた車から降りたった命に声をかける
「命様。」
「山下!何故此処に…洋一は?一緒じゃないのか?」
「皆瀬さんなら30分ほど前にお一人で公園内に入って行かれましたが…」
「!?それは本当か?」
「はい。」
―――洋一…篠原と飲む予定ではなかったのか…?
命の脳裏に一抹の不安が過る
「…分かった。お前は引き続き此処で洋一を待っていてくれ。
俺とすれ違いで此処に洋一が戻った時、誰もいなかったら混乱するだろうから…」
「分かりました。」
命はそれだけ山下に言い残すと
自分も公園内へと足早に入って行く
―――…嫌な予感がする…
洋一が自分に嘘をついて此処に居るという事もそうだが――
どんな理由があるにしろ
今、同じ公園内に洋一と契が一緒にいるのかもしれないと思うと
命の心はザワつき、居ても立ってもいられず、その足は自ずと駆け足に…
命が暫く街灯だけが頼りの暗い公園内を走っていると
契との待ち合わせ場所に指定された白いガゼボが見え――
「ッ、洋一っ!」
ガゼボ内に洋一と契の姿を捉えた命が、思わず大声で洋一の名を呼ぶ
すると洋一が泣きながら命の方へと振り返り
「ッ!?あ、きらさん…、なんで…っ、」
「それはコッチのセリフだ。お前…篠原と飲んでいるハズでは――」
命と洋一が互いにこの場に相手がいる事に驚き、見つめ合っているのを
契が静かにその様子を眺めながら、二人に気づかれない様スマホを操作し
ある場所にメールを送る…
そしてメールが送信された事を確認すると
契はスラックスのポケットから一本の小さな注射器を取り出し
ソレを自分の太腿に押し当て、布越しに注射した
「くッ…」
契が俯きながら微かに呻き
命が一瞬チラリと契に目を向けるが
それよりも泣いている洋一の事の方が気にかかり、命が洋一に向けて手を伸ばす
しかし…
「…ッ、」
「洋一?」
洋一が命の伸ばされた手を身を捩って避け
そのままガゼボ内から命から遠ざかる様にして出る
「ようい…「命さん…」
洋一が泣き顔のまま後ずさりながら命の事を見つめる
「俺…命さんの事が好きです…ホント…っ、大好き…」
洋一がその泣き顔に無理矢理クシャリと笑みを乗せ
涙をポロポロと零しながら命に向けて必死に言葉を紡ぐ
「…け、ど…、ッ、好きだからこそ…、
俺もう…命さんの傍にはいられない…」
「ッ!?それは一体どういう意味だ…?洋一…
俺の傍にいられないとは――」
命が洋一の言葉に戸惑い、その手が焦燥感に駆られて洋一に伸びるが
洋一が伸ばされたその手を拒絶するかのように更に命から後ずさる…
「命さん…今までこんな…匂いだけしか取り得の無い…
役立たずな俺を愛してくれて…、ッ、ありが、と…っ、」
「ッ!待てっ!洋一っ!!」
洋一は泣き笑いの様な表情をしながら命にそれだけ言うと
バッと命に背を向けて走り出し
命も慌ててその後を追いかけようとするが――
ガシッ、
「ッ?!」
何者かの手が洋一の後を追おうとする命の手を掴み
命が苛立ちながら振り返る
するとそこには呼吸を荒げた契の姿があり――
「はっ…はっ…あきらさん…っ、ッ、行っては…だめ…ッ、」
「―――ッ!?契…っ、お前まさか…」
命の鼻腔に、Ωのヒート特有の甘ったるい…αの情欲を煽る香りが擽り
命が咄嗟に契に掴まれていない方の手で鼻と口を塞ぐが
契が鼻と口を塞ぐ命の手首を掴み、その手を鼻と口から引き剥がしながら
命にしな垂れ掛かる様に抱きつく
「ッ、よせっ、契…っ!」
命は身を捩り、顔を契から逸らしながら契から離れようともがくが
契はそんな命の顔に自分の顔をグッと近づけ――
「…命さん…」
「…ッ!」
契のしっとりと濡れる唇が命の首筋を伝い…頬を撫で…そして――
「、ぅ…」
命の唇に契の唇がそっと重なる
「ッ、ハッ、ハッ…、」
―――命…さん…、ッ、
洋一が泣きながら一瞬だけ…ほんの一瞬だけ
迷う自分の気持ちに逆らえず後ろを振り返る…
すると遠ざかるガゼボ内で一つに重なる二人の影が見え…
「…ッ!………、ぅ、」
それを見た瞬間洋一の瞳から涙が一気に溢れだし
洋一は全ての想いを断ち切るかのように再び前だけを見ると
その場から逃げる様にがむしゃらに走り出す
―――あきらさん…命さん…っ、
「うぅ…」
暗く…涙で歪む視界の中を洋一はひたすら走り続ける…
そこに突然洋一の目の前に複数の人影が躍り出てきたのが見え
「ッ!?」
洋一が驚き、慌ててその場に立ち止まると
そんな洋一の周りを複数の人影があっという間に取り囲み
「ぇ…あ、の…、ッ、」
洋一が何事かと、怯えながら辺りを見回す…
すると洋一の正面から自分を取り囲む人達をグイッと掻き分けながら
周りの人たちよりも頭一つ分抜きんでて背の高い男が洋一の前に姿を現し
「ぁ…」
洋一がその男の姿を確認した途端、思わず後ずさろうとするが
洋一の背後に居た男が卑下た笑みを浮かべながら洋一の肩を掴んでそれを止め…
洋一の前に姿を現したその男が月明かりを背に
ゾッとする様な凶悪な笑みを浮かべながらその口を開いた…
「…久しぶり。元気してた?βくん。」
命は契に会う為に身支度を整え終えると
険しい表情で愛車のアストンマーティン・ヴァンテージに乗り込む
―――洋一に何も言わずに契と会うのは気が引けるが…
俺が契と会うなどと馬鹿正直に話したら
また洋一を不安にさせ、泣かせてしまうかもしれん…
それだけは避けたい…何としても…
もう自分のせいで泣く洋一の姿を見たくない命は
洋一に隠しごとをする事にうしろめたさを感じながらも
それでも自分自身の覚悟を洋一に示す為と自分に言い聞かせ
命は無言でエンジンをかける
―――決着をつける。
これ以上…洋一を泣かせない為に…
なに、洋一が浩介と飲み終えるまでには帰ってこられるだろう…
契から俺にどんな話があるかまでは分からんが――
俺から契に話す事は“番えない”の一言しかないからな。
ギアを入れ、命は意を決して前を見据えると
命の運転する車は静かに自動で開いた門を潜り、屋敷を後にした…
命が契との待ち合わせ場所である臨海公園に辿り着くと
何故か駐車場に見覚えのある車が見え…
―――あの車は――
命はその車の隣に駐車すると
すでに停まっていた隣の車から山下が姿を見せ
駐車し終えた車から降りたった命に声をかける
「命様。」
「山下!何故此処に…洋一は?一緒じゃないのか?」
「皆瀬さんなら30分ほど前にお一人で公園内に入って行かれましたが…」
「!?それは本当か?」
「はい。」
―――洋一…篠原と飲む予定ではなかったのか…?
命の脳裏に一抹の不安が過る
「…分かった。お前は引き続き此処で洋一を待っていてくれ。
俺とすれ違いで此処に洋一が戻った時、誰もいなかったら混乱するだろうから…」
「分かりました。」
命はそれだけ山下に言い残すと
自分も公園内へと足早に入って行く
―――…嫌な予感がする…
洋一が自分に嘘をついて此処に居るという事もそうだが――
どんな理由があるにしろ
今、同じ公園内に洋一と契が一緒にいるのかもしれないと思うと
命の心はザワつき、居ても立ってもいられず、その足は自ずと駆け足に…
命が暫く街灯だけが頼りの暗い公園内を走っていると
契との待ち合わせ場所に指定された白いガゼボが見え――
「ッ、洋一っ!」
ガゼボ内に洋一と契の姿を捉えた命が、思わず大声で洋一の名を呼ぶ
すると洋一が泣きながら命の方へと振り返り
「ッ!?あ、きらさん…、なんで…っ、」
「それはコッチのセリフだ。お前…篠原と飲んでいるハズでは――」
命と洋一が互いにこの場に相手がいる事に驚き、見つめ合っているのを
契が静かにその様子を眺めながら、二人に気づかれない様スマホを操作し
ある場所にメールを送る…
そしてメールが送信された事を確認すると
契はスラックスのポケットから一本の小さな注射器を取り出し
ソレを自分の太腿に押し当て、布越しに注射した
「くッ…」
契が俯きながら微かに呻き
命が一瞬チラリと契に目を向けるが
それよりも泣いている洋一の事の方が気にかかり、命が洋一に向けて手を伸ばす
しかし…
「…ッ、」
「洋一?」
洋一が命の伸ばされた手を身を捩って避け
そのままガゼボ内から命から遠ざかる様にして出る
「ようい…「命さん…」
洋一が泣き顔のまま後ずさりながら命の事を見つめる
「俺…命さんの事が好きです…ホント…っ、大好き…」
洋一がその泣き顔に無理矢理クシャリと笑みを乗せ
涙をポロポロと零しながら命に向けて必死に言葉を紡ぐ
「…け、ど…、ッ、好きだからこそ…、
俺もう…命さんの傍にはいられない…」
「ッ!?それは一体どういう意味だ…?洋一…
俺の傍にいられないとは――」
命が洋一の言葉に戸惑い、その手が焦燥感に駆られて洋一に伸びるが
洋一が伸ばされたその手を拒絶するかのように更に命から後ずさる…
「命さん…今までこんな…匂いだけしか取り得の無い…
役立たずな俺を愛してくれて…、ッ、ありが、と…っ、」
「ッ!待てっ!洋一っ!!」
洋一は泣き笑いの様な表情をしながら命にそれだけ言うと
バッと命に背を向けて走り出し
命も慌ててその後を追いかけようとするが――
ガシッ、
「ッ?!」
何者かの手が洋一の後を追おうとする命の手を掴み
命が苛立ちながら振り返る
するとそこには呼吸を荒げた契の姿があり――
「はっ…はっ…あきらさん…っ、ッ、行っては…だめ…ッ、」
「―――ッ!?契…っ、お前まさか…」
命の鼻腔に、Ωのヒート特有の甘ったるい…αの情欲を煽る香りが擽り
命が咄嗟に契に掴まれていない方の手で鼻と口を塞ぐが
契が鼻と口を塞ぐ命の手首を掴み、その手を鼻と口から引き剥がしながら
命にしな垂れ掛かる様に抱きつく
「ッ、よせっ、契…っ!」
命は身を捩り、顔を契から逸らしながら契から離れようともがくが
契はそんな命の顔に自分の顔をグッと近づけ――
「…命さん…」
「…ッ!」
契のしっとりと濡れる唇が命の首筋を伝い…頬を撫で…そして――
「、ぅ…」
命の唇に契の唇がそっと重なる
「ッ、ハッ、ハッ…、」
―――命…さん…、ッ、
洋一が泣きながら一瞬だけ…ほんの一瞬だけ
迷う自分の気持ちに逆らえず後ろを振り返る…
すると遠ざかるガゼボ内で一つに重なる二人の影が見え…
「…ッ!………、ぅ、」
それを見た瞬間洋一の瞳から涙が一気に溢れだし
洋一は全ての想いを断ち切るかのように再び前だけを見ると
その場から逃げる様にがむしゃらに走り出す
―――あきらさん…命さん…っ、
「うぅ…」
暗く…涙で歪む視界の中を洋一はひたすら走り続ける…
そこに突然洋一の目の前に複数の人影が躍り出てきたのが見え
「ッ!?」
洋一が驚き、慌ててその場に立ち止まると
そんな洋一の周りを複数の人影があっという間に取り囲み
「ぇ…あ、の…、ッ、」
洋一が何事かと、怯えながら辺りを見回す…
すると洋一の正面から自分を取り囲む人達をグイッと掻き分けながら
周りの人たちよりも頭一つ分抜きんでて背の高い男が洋一の前に姿を現し
「ぁ…」
洋一がその男の姿を確認した途端、思わず後ずさろうとするが
洋一の背後に居た男が卑下た笑みを浮かべながら洋一の肩を掴んでそれを止め…
洋一の前に姿を現したその男が月明かりを背に
ゾッとする様な凶悪な笑みを浮かべながらその口を開いた…
「…久しぶり。元気してた?βくん。」
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