βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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噂話。

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「こーちゃん。」

―――…ん…?こー…ちゃん…ってまさか――

朝の出勤時間帯
浩介が会社に行く為に、自宅マンションから一歩出たところで
男性とも女性ともつきにくい…
そして浩介自身がもう二度と聞きたくはないと思っていた
聞き覚えのある中性的な声に呼びかけられ
浩介が恐る恐る声のした方へと振り返る…

するとそこにはやはり二度と会いたくないと思っていた
可愛らしい顔の人物が、人懐っこい笑みを浮かべて立っているのが見え…

「ッ!?お前っ、何しに此処へ…っ!てかどの面下げて俺の前に…ッ、」

その人物を認識した途端浩介は反射的に後ずさり
相手から距離を取りながら身構える

「え~…何かショックぅ~…何もそんな怖い顔して身構えなくたって…」
「っ答えろ…何しにまた俺の前に現れた…


 円(まどか)…っ!」


浩介の威圧するような問いかけにも
ちょっと不貞腐れたような顔をするのみで、まったく悪びれる様子の無い円が
一歩…また一歩…と、浩介の様子を伺いながらゆっくりと近づき
浩介もまた、それに合わせて警戒しながら一歩…また一歩…と後ずさり
折角出たマンション内へと逆戻りするハメに…

「んっもう…っ、下がらないでよっ!」
「うっせーわ!下がるわっ!!てか何しに来たんだよお前っ、
 こえーわっ!!!」

エントランス内を
ゆるふわな衣装を身に纏い、美少女と見まごう程の可愛らしい顔をした人物が
威嚇しながら後ずさるグレーのスーツを着た長身イケメンを
まるで獲物を追い詰めるかのようにジリジリとにじり寄って行く様を

同じく出勤時間帯で出かけようとしていたサラリーマンやOL
果ては園児を連れたお母さんなどが物珍しそうに眺めながら通りすぎてゆく…

そこにゴミ出し為に通りかかった近所のおばちゃんが
意味ありげに微笑みながら浩介たちに声をかけてきて――

「あら篠原さん…随分と可愛らしい人と一緒に居るわねぇ~
 彼女?」
「ちが…「そーでぇ~す!彼ったらぁ~…最近仕事が忙しくって
 ちっとも僕に会ってくれなくってぇ~…
 だから僕の方から勇気を出して会いに来ちゃいました!」

テヘっと、その可愛らしい顔に照れ笑いを浮かべ
嫌がる浩介の腕を強引に掴み取り
ギュッと腕を抱きしめながら寄り掛かってくる円に対し
浩介の顔があからさまに引きつる…

「あらぁ~…そーなのぉ~?
 ダメよ?篠原さん…こんな可愛らしい彼女ほったらかしにしたら…
 誰かに取られてからじゃ後の祭りよ?大事になさいな。
 それじゃあお二人さん、私はこれで――」

おほほほほ…と
愛想笑いをしながら勘違いしたままその場を去って行く近所のおばちゃん

「…ッお、まえ…っ、一体何のつもりだよっ!」

バッ!と…おばちゃんがその場からいなくなると同時に
浩介が円に掴まれていた腕を強引に振り払い
再び円から距離を取りながら、円を睨みつける…

「…何のつもりって――酷いなぁ~…
 折角こーちゃんにも教えてあげようと思って
 わざわざ時間を割いてここまで来てあげたのに…」
「…教えてあげるって…一体何を…」

円の口角がニッと上がる

「遂にあきちゃんが…
 “小さいころから決められていた運命の番”と出会たって事をさ。」
「!?」

ソレを聞いて、浩介が一瞬驚いた様な顔を見せるが
直ぐにフッ…と、円に対して小馬鹿にした様な笑みを向けると
浩介がその口を開く

「それってアレだろ?ただの噂だろ?
 この間命に会った時、否定してたぞ。その“運命の番”の事…」

な~んだその事かぁ~…と浩介がホッと胸を撫で下ろすが
円は笑みを深くしながら間髪入れずに否定する

「違うよ。」
「違うって何が…」
「ねぇこーちゃん。」
「ッ、なんだよ…」

急に真剣な顔つきで、円が浩介の顔を見つめ
浩介がその表情に息を飲む

「…この国では――
 これ以上の人口減少を回避する為に
 大分前から繁殖能力の高いαとΩについての研究が進められ
 人工的に“運命”が造り出せないかどうかの実験が
 裏で行われてるっていう“噂話”が
 まことしやかに囁かれていたんだけど…こーちゃん知ってた?」
「はあ?なんだよそれ…お前…いきなり何言って…」
「知らないんだ…じゃあやっぱりこーちゃん自身は何も――
 んふふ…なんでもない!
 その反応が見れただけでも来た甲斐あったよ。
 じゃあねこーちゃん。また会いに来るね!」
「ッ!あっ、おいっ!!何一人勝手に意味深な事呟いて帰ろうとしてんだよっ!
 待てって、おいっ!!」

にこやかに浩介に手を振りながらその場を駆け足で去ろうとする円を
浩介は慌てて後を追っていた…
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