βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

文字の大きさ
上 下
109 / 128

決意。

しおりを挟む
命side

命が自分の部屋で会社では処理しきれなかった書類の束を前に
ふと、携帯がない事に気づいて辺りを見回す

―――そういえば…
   調べ物の為に書斎に行った際、机の上にスマホを置いたような…

命はその事を思いだし、スマホを取りに自分の部屋を出る
すると丁度洋一が自分の部屋へと戻ろうとしている所を見かけ
命は躊躇いながらも洋一に声をかけるが…

「洋一…」
「…何でしょう?命さん…」

自分の方を振り返った洋一の顔は微笑んではいてものの…
その目元は微かに赤く腫れていて…
それは直前まで洋一が泣いていた事を伺わせるもので――

「…今日一緒に――「ごめんなさい。」
「…俺…ちょっと一人で考えたい事があって…だから…、」
「…分かった。呼び止めてしまってすまないな…お休み…洋一。」
「…お休みなさい…命さん…」

洋一が躊躇いがちに自分の部屋へと入ろうとするその背後を
命は洋一の様子を伺うようにして通りすぎ

やがてドアがパタン…と小さく閉まる音がして命が後ろを振り返る…

「洋一…」

―――泣いて…いたな…

洋一は命に泣いていた事を悟られないようにする為か
俯いたりしてなるべく目元を見られないようにしていたが
命が洋一の涙の痕跡を見逃すはずもなく…

―――やはり…俺のせいか…

命の表情に苦渋が浮かぶ…

―――俺に…“運命の番”かもしれない契が現れたから…だから…


   洋一は“また”…一人で泣いている…


「…ッ、」

命はギュッと拳を握りしめると、書斎へ向けて再び歩き始める

―――俺が不甲斐ないばかりに…洋一を苦しめている…

命は昼間、イタリアンの店での出来事を思いだし
その表情を更に険しくする…

―――あれだけ『運命に抗ってみせる』と洋一に豪語しておいて…
   いざ運命が現れたらあのザマとは…

命は契に掴まれた手を辛そうにジッと見つめながら歩き続ける…

―――あの時俺は…何も出来なかった…
   契が俺の手を掴んで何処かに連れて行こうとした時…


   何も出来なかったんだ…


契に出会った瞬間
命の思考は停止し、周りの雑音が一瞬で消えさり…
まるであの場に自分と契の二人しかいないかの様な感覚に

今までどのΩにもそんな反応など示した事などなかった自分のその反応に
命自身が戸惑い

そして微かに恐怖する…

確かにそこに存在してしまった自分の“運命”に…

―――情けない話だが…
   洋一があの時俺の手を引っ張ってくれていなかったら今頃俺は…っ

「くッ、」

命が見つめていた手をギュッと握りしめ
悔しさと情けなさからかグッと歯を食いしばって小さく呻く…

―――これ以上…洋一を悲しませる訳にはいかない…
   その為にも俺自身が決着をつけないと…


   自分の“運命”と


命が“運命”と対峙する決意を固め
いつの間にか辿り着いた書斎のドアノブに手をかけ、ドアを開けると
暗い書斎の中、正面の書斎机の上にポゥ…と微かな光を放つ物が見え

―――やはり此処に置き忘れていたか…

命が書斎の電気を点け、書斎机に近づきスマホを手に取ると
着信ランプが点滅しており、命が受信箱を確認する

するとそこには契からのメールが届いており――

―――契?何故俺のアドレスを…

命が不審に思いながらも契からのメールを開くと
そこには丁寧な文体で内容が示されていて

『命さん、今日初めてお会いしたばかりだというのに
 このようなメールを送ってしまい…大変失礼に思われるでしょうが
 是非、二人きりでお話したい事がございます。
 明日、会っては頂けないでしょうか?』

という文面の下に日時と場所が記されており
命の表情に一瞬、困惑の色が浮かぶが

―――丁度いい…

直ぐにその表情をキッと引き締め、強い意志を宿した瞳で
契からのメールを見つめる

―――俺も契に会ってキチンと話しておかねばならないと思っていたところだ。





   お前とは…番えない――と…
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...