βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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依頼。

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「…良い匂い?」

とある使われていない廃倉庫の一角…
月明かりが破れたトタン屋根から薄暗い倉庫内に帯状に降り注ぎ
幻想的な光景を作り出す中
二人の男が壁に寄り掛かりながら話を進める

「そ。コイツからはΩのフェロモンみたいに
 αにしか分からない良い匂いがしやがるんだ…」

一人の男がうっとりと…スマホ画面を見つめながら話す

「どれくらい良い匂い?」
「さぁな。人によるだろう…ただ――」
「…」
「俺が感じた限りだと…Ωの発情フェロモンよりは良い匂いだったな…ありゃ。
 誰かさんのマーキング臭さえ混ざってなけりゃ
 あの場に居た俺以外のαも我先にとこのβに群がっていただろうよ…」
「…そんなに…?」
「ああ…」

―――どーりで…ヒートフェロモンでは無かったにしろ
   僕のフェロモンの匂いを嗅いでも僕よりもあのβを選ぶわけだ…

小柄な男性が2メートル近い長身の男性から自分の渡したスマホを受け取ると
無意識に左手の親指の爪をカリカリと苛ただし気に噛む…

「…しっかし…お前が俺の所にくんのは邪魔者を排除して欲しい時とはいえ…
 ま~さか今回の依頼がそのβくんだったとは…世の中は狭いなぁ~…
 そー思わねぇか?なぁ…契…」
「そーだね、狼…まさかこのβをキミが知ってるなんて思いもよら無かったよ…」

契がスマホを手提げ鞄に仕舞いながら隣の男…狼を見上げる

「…で?今回はどーして欲しいんだ?そのβくんを…」

狼が持っていた缶ビールをグイッと煽りながら契に聞く
すると契はその美しい顔にゾッとするような薄い笑みを浮かべながら
薄い唇を開く

「…出来ればこの世から消して欲しいトコだけど――」
「俺は人殺しはしねーよ?」
「知ってるよ。だから…」

契が瞳をスッと細くしながら隣に立つ狼を見つめる

「…汚して欲しい。滅茶苦茶に…」

普段は凛とした美しさを誇る契の顔が
自分に依頼を頼むと時はまるで童話に出てくる魔女の様に歪む契の顔に
狼は「おっかねーなぁ…」と呟くと、また一口缶ビールを煽る

「ん~…それは無理なんじゃねーかな。」
「どーして?」
「俺もこのβくんとひと悶着起こした後、色々調べたんだよ。
 このβくんと…βくん囲ってる“命さん”について…」

狼が空になった缶を投げ捨て
缶はカンッ!カラカラカラ…とコンクリートで覆われた地面を
妙に音を大きく響かせながら倉庫内を転がっていく…

「…なんでもこの命さんとやら…
 この国有数の財閥の一つ、“鬼生道財閥”の御曹司さまらしーじゃねーか…
 こんなヤツに囲われてるβくんに手を出す何て…
 この間俺と偶然遭遇した時みたいに
 何かしらの理由で一人でうろついてでもしてくれない限り
 手ぇ出すのは不可能だって。
 …何より――βくん囲ってる命さん自体つえーしな…」

狼が忌々し気にチッと舌打をしてその表情を歪ませる

「その点なら問題ないよ。」
「あ?何が…」
「もうじきこのβは――命さんの傍に居られなくなる。」
「…どーしてそんな事が分かんだよ。」
「…分かるよ。僕が“仕掛ける”からね…
 あの手のタイプは――ちょっと揺さぶればすぐに自信無くして折れちゃうから…
 だから――」

契が寄り掛かっていた壁から背を離し、狼の正面に移動すると
零れる月明かりを背に、妖艶に微笑む

「僕が依頼したこのβが自信無くして命さんから離れたら…
 僕から狼に連絡入れるからその時は――





 止(とど)めにこのβ…無茶苦茶に犯してやってよ…
 もう二度と命さんの前にその姿、現せなくなるくらいに…」
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