βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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この出会いは偶然か必然か 3

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3人は店を出て、山下の待つ車へと乗り込み
ゆっくりと動きだした車の窓から、徐々に遠ざかっていくのを店を見て
洋一は一旦はホっと胸を撫で下ろすが――

―――命さん…

心ここに在らずといった感じに
未だ何処か虚ろな表情をしたまま窓の外を見つめる命の姿に
洋一の胸が締め付けられる…

―――俺…邪魔…しちゃったのかな…





   命さんが“運命”と歩もうとする瞬間を…





「―――ッ、」

洋一は泣きそうになるのを堪える為に咄嗟に下唇をキュッと噛みながら
命たちに顔を見られない様俯く…

―――だって…だって…っ、

命と契…二人が見つめ合う姿を見た瞬間、洋一にも感じる所があった…


彼が…契が命の“運命の番”ではないのか…と…


自分の事など…まるで存在すら忘れてしまっているかのように
熱く契の事を見つめる命の姿を思いだし
洋一は俯いたまま益々泣きそうになりながらも
チラリと命の方を伺い見る…

すると命は相変わらず虚ろな目をして窓の外を眺めており…

―――ッ、ごめんなさい命さん…ごめんなさい…!
   だって俺…っ、

洋一は店内での自分の行動を思いだし、膝に置いた両手をグッと握りしめる…

―――あのままほっといたら命さん…
   彼と一緒に何処かに行っちゃうんじゃないかと思って…


   俺から…離れちゃうんじゃないかと思って…っ、


ポタッ…と洋一の握り締める手の甲に小さな雫が零れ落ちる…

―――そんなの…嫌だったから…
   命さんが俺から離れるなんて嫌だったから…っ!

遂に目蓋でせき止めきれなくなった涙が洋一の瞳から溢れだし
ポタポタと洋一の手の甲を濡らし、ズボンに小さなシミとなって滲んでいく…

そこにふと、窓の外をぼんやりと眺めていた命が窓から視線を外し
洋一の方へと視線を移す…
するとそこには俯いて声も無く泣いている洋一の姿が飛び込んで来て――

「ッ!?洋一お前…っ、なに…泣いて…」

命は思わず両手で隣に座る洋一の頬を包み込み、その顔を僅かに持ち上げ
自分の方へと向けさせる…

「ッ、命さん…、ごめんなさい…、ッ、ごめんなさい…っ、」
「なんで…謝る…」

泣きながら自分に謝り続ける洋一に命が戸惑う

「ッ、俺っ、邪魔しちゃった…、グスッ、
 命さんが“運命”の元の行こうとするの…、ッ、邪魔しちゃったから…っ、」
「ッ!」

洋一の言葉に命がハッと息を飲み込む…

―――俺は――洋一にこんな思いをさせるくらい契の事を…!

命は店で契の事を見つめ続けていた時の事を思いだし
ギリッと歯噛みする…

「ッ…すまない…」
「命さん…?」

命の瞳が真っ直ぐに…しかし切なげにその瞳を揺らしながら洋一の瞳を見つめる…

「お前に…不安な思いをさせてしまって…
 これ以上お前に不安な思いをさせない為にも…隠しごとはよくないな…
 洋一…お前に伝えておかなければならない事がある…」

命の親指の腹が、愛おし気に洋一の頬を撫で
命が意を決して口を開く

「契は恐らく…お前の感じた通り俺の――“運命”なんだろう…」
「ッ!?命様?!」

向かいの席で二人のやり取りを黙ってみていた佐伯が思わず声を上げる

「…感じてしまったんだ佐伯…契を見た瞬間から契が俺の“運命の番”だと…」
「…ッ、」

―――やっぱり…

それを聞いた瞬間、洋一の瞳からもはや隠しようのないほどの涙が溢れ出る

「…だが…」

命の指先が…洋一の涙を何度も何度も拭いながら
命が洋一の瞳を強い意志を持って覗き込む

「言ったろ?抗ってみせると…
 もう二度と…お前を不安にさせたりはしない…信じてくれ…」
「、ッ、……命さんの事は信じてる…でも…」

命の言葉に
洋一の中で二人の自分がちがせめぎ合う…

一つは言葉通り命に“運命”に抗ってほしい自分…
もう一つはこのままαとΩの“運命”を邪魔していいのかと躊躇う自分…

洋一は無言で命の胸に顔を埋めると、肩を震わせながら涙を流す…

結局はαとΩの“運命”の行方を…
蚊帳の外から見つめる事しかない出来ないβは
やはり咽び泣く事しか出来なかった…
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