βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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射影機は落ちてない。

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洋一達がホテルでの生活を余儀なくされてから4日が経ち
引っ越し先のライフラインやその他諸々の問題が解決したとの事で
洋一達は当初の予定通り、信用のおける数人の人達を引き連れ
3台の車で引っ越し先である一軒家へと移動する

「もう家具などは運びいれてあるから
 後は荷解きを手伝ってもらえれば十分なんだが――」
「しっかしスッゲー森の中だな…なんちゅートコに家買ったんだよ…」
「あっ!浩介見てっ!!今、シカがいたよシカっ!!」
「マジかよっ!」
「…」

移動中のリムジンの中…
木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂る森にはしゃぐ都会育ちのアラサー男二人を前に
命のこめかみがピクピクと動く

―――篠原のヤツ…じゃんけんで勝ったからって
   洋一の隣で我が物顔ではしゃぎおって…!

命は不機嫌さを隠そうともせず
洋一の隣ではしゃぐ浩介をじっとりとした目で睨みつける…

それというのも出発当初、リムジンの後部座席は広いので
洋一を真ん中に挟んで、浩介と命の男三人が隙間なく並んで座っていたのだが――

その余りのシュールさに、向かいの席に一人で座っていた佐伯が耐えきれなくなり…

「命様…私の腹筋と表情筋がそろそろ限界です。
 ココは一つ命様が大人になって、私の隣に来てはいただけないでしょうか?」
「断る。」
「…なら皆瀬さん、私の隣に――」
「はい!喜んでっ!」

今まで長身の男二人に挟まれ
肩身の狭い思いで縮こまって座っていた洋一がこれ幸いとばかりに
佐伯の隣へと移動しようとするが――

「「コイツ」「命様」と並んで座るとか冗談じゃないっ!」」…と――

見事にハモりながら席を立とうとした洋一の両手を命と浩介が双方共に引っ張り
席へと引き戻すと

「…だったら…どちらが洋一の隣に座るのが相応しいか――
 じゃんけんで決めようじゃないか篠原…」
「…望むところだ…勝っても負けても恨みっこなしだからな。」

と、アラサー男二人が洋一を挟んで鬼気迫る表情をしながら
白熱するじゃんけんバトルを繰り広げ
8回のあいこの後、勝負を制したのは――

「よっしゃ、俺の勝ち~!」
「くっ…!」

浩介はこれ見よがしにガッツポーズをし
命は自分が最後に出したグーをわなわなと震わせながら項垂れる…

「ほれ、命様。さっさと佐伯さんの隣へ移動しやがって下さい。」
「ッ、コイツ…ッ、」

しっしっと手を振りながら何時にも増して不遜な態度を取る浩介に
命は表情をピキピキと引きつらせながら、渋々佐伯の隣へと移動する事となり
現在に至る…

命は目の前ではしゃぐ二人が面白くなくて
まるで子供の様に不貞腐れながらプイッと窓の外へと視線を移し
佐伯はそんな命に苦笑を浮かべながら先程から読んでいた小説に目を移す

そこに運転手の山下が「まもなく到着いたします。」と声をかけると
車は私有地を示す警備員の小さな詰所の前を通りすぎ
森の中を真っ直ぐに伸びる細い道を、3台の車が列を乱す事無く走り抜けていき

車が暫く走った先で急に森が開け――

「うわ…」
「すっげ…映画に出てくる洋館かよ…」

窓を開け、外を眺めていた洋一が思わず感嘆の声を漏らし
浩介も洋一の背後から覆い被さる様にして窓の外を見て、その光景に唖然とする…

それもそのはず
洋一達の目の前には立派な洋風の門が立ちふさがり
更にその先には映画かドラマ…もしくはゲームでしか見た事も無い様な
白を基調とした荘厳で赴きのある洋館が、森の中に静かに佇んでおり…


「…ゾンビでそう…」
「射影機落ちてそう…」
「…?」

洋一と浩介が口々に呟いた言葉の意味が分からず
命は首を傾げた
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