βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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真偽のほどは…

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「…お呼びでしょうか。父上。」

様々な書籍が理路整然と背の高い本棚の中で立ち並び
一見地味で質素に見えるが、何処か高級感漂うアンティーク調の家具が
その存在を主張することなく、ひっそりと窓辺などに佇む
広さ二十畳程の書斎に命は通され…
幾分緊張した面持ちで、正面の重厚感漂う書斎机に座る男性を命は見据える

「…コチラに来なさい。」
「はい。」

その男性は端正な顔立ちに威厳のある表情を刻み
鋭い視線で真っ直ぐに命を見据えながら表情を崩さず
低く落ち着いた声で命に自分の方へ来るよう促すと

その言葉を聞いた命は一歩一歩を噛みしめる様に男性の傍へと近づき
机の手前で足を止めると
両手を背後で組み、姿勢を正して目の前の男性を見つめる

「…それで――私に用と言うのは?」

命が表情を崩さずに見つめる先にいる男性に尋ね
その男性は椅子の膝掛に両肘を乗せ、組んだ足の膝の上で手を軽く組みながら
自分の事を見つめ続ける命をスッと視線を細めて見かえすと

その形の良い薄い唇をゆっくりと開く

「…お前…最近面白いβを飼っているらしいな。」
「…ッ、」

男性の“飼う”という言葉に命の表情が一瞬険しく歪み
命がギリッと歯を噛みしめる…

「ッ…誰から…そのような事を…」
「要だ。」

―――ッ、要…っ、

命がソレを聞き、表情を硬くする中
男性が口角を上げ、見る者の背筋が凍りそうな程の薄い笑みを浮かべると
命に向けて言葉を続ける

「…何でも――
 そのβは我々αを惹きつける特殊な匂いを漂わせているのだとか…?
 面白いじゃないか…何故私にそのβの事を隠していた?」
「ッ、それは…」

口籠る命に対し、男性はクッと口角を更に上げる

「…まあいい…
 今度私の前にそのβを連れてきなさい。
 その匂い…私も是非嗅いでみたい…」
「ッ!?しかし…っ、」
「…何か問題でも?」
「ッ、いえ…」
「よろしい…話は以上だ。下がりなさい。」
「…はい。」

命は力なく目の前の男性に一礼すると、踵を返して部屋を後にし
男性がソレを見届けると椅子からゆっくりと立ち上り
背後の窓辺に静かに立つと、黙って外の景色を眺める…

―――αを惹きつける匂いを発するβ――か…
   まさかとは思うが…
   もし命が飼っているというβが
   大神のご老体が過去にαの12血統会議の場で話していた

   “αにとって今後重要な研究材料の一人”

   とまで力説していた“あのβ”の事だとしたら――

男性が歪な笑みを浮かべる

―――利用する手はないだろう…
   それにはまず、確かめてみなくては――




   そのβの匂いが――如何ほどのものなのかを…
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