βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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言霊。

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人がまだ…自由意志などを持たず
力のあるαに従い、それぞれの群れを形成して生活をしていた頃…

そんな太古の時代のα達は
自分達の群れを率い、維持する為にある特有の“能力”を有していた…
それは――



“言葉によって相手を支配する能力”…



いわば“言霊”のような力を使い
強い能力のあるα達は、力の弱い他のαやβ…Ω達を支配し、導いてきた…

しかし時代が進むにつれ
そんなα達の能力も、支配してきたβやΩ達の意識の変化と共に
徐々に失われていき…

今では“威圧”という形で
βやΩをある程度怯ませ、逆らう気力を奪うくらいの能力は残るものの――

かつて太古のα達が使っていた“言霊”の様な
言葉のみで相手を完全に支配するような強力な能力は
今のα達の間では、ほぼ失われたものと考えられてきた…


しかし――


「“ふせ~!”」

歩道を行き交っていた人達数人が
小さな男の子のその言葉にピタッと足を止めると
無表情でその場に腹ばいになり始め
他の道行く人たちが何事かと遠巻きにその光景を見つめながら通り過ぎていく…

「んとねぇ~…ちゅぎはねぇ~…“じゃんぷぅ~!”」

男の子が楽しそうにその場でキャッキャッとはしゃぎながら
腹ばいになっている人たちに向け指示を出す

すると腹ばいになっていた人達は一斉にその場から立ち上ると
男の子の指示通りその場でジャンプをし始め――

「…円。止めなさい。」
「えー?なんでぇ~?」

小さな男の子…円が――手を握っている初老の男性を不思議そうに見上げながら
疑問を投げかける

「…この人達には――他にやる事があるんだよ…だから――
 良い子だから“解放”してさしあげなさい。」
「ん~…わかったぁ~…おじーさまがそーいうのなら…」

初老の男性の言葉に
円が渋々といった感じで、今もなおジャンプをし続けている人達に向き直ると

「…もー“あしょびは終わり!またあした!”」

円のその言葉を聞いた人達が一斉に飛び跳ねるのを止め

「アレ…?私一体何を…」
「…何で俺…ジャンプなんか…」

飛び跳ねていた人達は皆口々に疑問を口にしながらその場を離れていき
その様子を口を尖らせ、不満そうに眺めていた円がその小さな口を開く

「ねぇおじーさま…」
「なんだい?円。」
「なんでおじーさまは…まどかの言う事を聞いてくれないの?」

他の人達は皆円の言う事を何でも聞いてくれるのに――と…
小さく不満を漏らしながら初老の男性を見つめる

「…知りたいかい?」
「うんっ!しりたい!」

円がぱぁっ!と微笑みながら初老の男性を見上げる

「…それはね?円…、実はある“匂い”のお陰なんだよ…」
「におい…?」
「そう…その“匂い”はとても特殊でね。
 我々αの能力を高めもするし弱めもする…とても不思議な“匂い”なんだ…
 今はまだ研究段階だが――
 その“匂い”から抽出したある成分を私自身に注射する事で
 私自身のαとしての能力を高め、円の言う事を“聞かなく”しているんだよ。」
「よくわかんないけど――今のおじーさまはさいきょーってこと…?」
「ああ…最強だよ。注射の効果がある間はね。」
「!おじーさましゅごいっ!ボクもおちゅーしゃしたらさいきょーになれる?」
「…円は注射なんかしなくても今のままで十分最強だよ。
 何たって――太古のα達が使っていた“言霊”が使えるのだから…」
「?」
「もうこんな時間か…
 円、今日お前の母さんがお前の為にオムライスを作るって言ってたぞ。」
「ホントっ?!」
「ああ本当だとも…
 だから今日はもう…帰るとしよう。」
「うんっ!」
「…良い子だ。」

そう言うと初老の男性は
隣でぴょこぴょこと嬉しそうに飛び跳ねる円の手を引き
街灯の点き始めた夕暮れの街並みを眺めながら、ゆっくりと歩き始めた…
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