βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

文字の大きさ
上 下
75 / 128

犬猫は、自分が可愛いって分かってる 1

しおりを挟む
「えっ…俺…?」

浩介の手を握りしめながら
目の前でニコニコと花が綻ぶような可愛らしい笑みを浮かべる円に浩介は戸惑う

―――貴方は?なんて聞かれても俺…なんもしてねーし…
   あ、でも子供がちゃんと名乗ったのに
   大人の俺が名乗らなかったら示しがつかねーか…

自分の事を見上げてくる円に、浩介は何処か違和感を感じながらも
躊躇いがちにその口を開いた

「俺は――篠原 浩介(しのはら こうすけ)って言うんだけど――
 とりあえずキミが無事で良かったよ。それじゃあ俺はこれで…」

何だかよく分から無いけれども
何もしていないのに円から自分に向けられるキラッキラの笑顔に
浩介は居心地の悪さを覚え、急いでその場から立ち去ろうとする
しかし――

「あっ!ちょっと待って下さいっ!」
「ッ!ちょっ、お?!」

見た目からは想像も出来ない程の強い力で円に腕を引っ張られ
浩介の膝が面白いほど後ろにガクッとなり
浩介は思わず後ろに倒れそうになるのを上体に力を入れ踏ん張る事で何とか耐える

「ちょっと…危ないでしょーがっ!いきなり引っ張っちゃ――」

浩介がふぅ~…と息を吐き、ちょっとイラッとした感じで円の方を振り返る
するとそこには泣きそうな顔をしながらアワアワと慌てふためく円の姿があり――

「あ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい…っ!
 僕あの…っ!この辺越してきたばかりで…
 それであの…散歩していたらその…道とかわかんなくなっちゃって…っ、」

大きな銀色の瞳に薄っすらと涙を浮かべ始め
たどたどしくも必死に浩介に言い募る円のその姿に
浩介の中の庇護欲がどんどん膨れ上がっていく…

「それであの…あの…っ!」

浩介の目にはもう既に垂れた耳と尻尾が見えてい始め
捨てられた子犬の様な顔をして自分の事を見つめてくる円に
浩介は遂に耐えきれなくなり――

「…迷子になったから…送ってくれって言うんだろ…?」

折れた

―――だってさぁ…だってさぁ~っ!あんな縋る様な目ぇされたらさぁ…
   ほっとけないじゃん…っ!
   ホント俺ってこの手のタイプに弱いよなぁ~…洋一に事といい…

ハァーーー…と、浩介が大きな溜息を吐きだしながらガクッと項垂れ
目の前の円の顔がぱぁっ!と華やぐ

「有難うございますっ!篠原さん!それであのぉ~…出来たら――
 この辺の事も案内してくれるともっと嬉しいんですけど…ダメですか…?」
「はあっ?!」

余りにも図々しい円の一言に
浩介は思わず項垂れていた顔をバッと上げ一言言ってやろうと口を開きかけるが――

「ダメ…ですか…?」

大きな瞳をうるうると潤ませ
上目遣いで浩介の事を見つめてくる円に浩介は「う”っ…」と小さく呻くと

「いいよわかったよっ!案内するよっ!!」
「本当ですか!?有難うございます!w
 篠原さんが良い人でホント…助かりましたw」
「ハァ~…あ、そう…」

浩介はため息交じりにそう言うと、後ろも見ずに歩きだし
円はその後をひょこひょこと小走りでついて歩いた…


円が駅の方から適当に歩いてきたというので
浩介は車では無く、駅までの道のりを歩いて行くことに決め
道すがら円の希望通り、この辺を案内しながら歩く

すると円が一件の店の軒先で足を止め――

「篠原さん。喉…乾きません?僕が奢りますんで――
 ここでちょっと飲んでいきましょうよ!」

円の声に浩介が振り向き、円が指さすを方を目で追うと
そこは浩介なじみの居酒屋で――

「あー…奢ってもらえるのは嬉しいけど――ココはダメかな。」
「?どうして…?」
「ここ、居酒屋。」
「じゃあ丁度いいじゃないですか!入りましょうよ!」
「ちょちょちょ!だからダメだってっ!!
 キミ、未成年でしょーがっ!」

円が構わず店に入ろうとするのを浩介が慌てて止める

「えっ…何言ってるんですか?篠原さん…
 僕もうとっくに成人してますよ?」

キョトンと首を傾げながらそう言う円に浩介が一瞬真顔になり
ワンテンポ遅れて正気に戻った浩介が慌てふためく

「…え?はっ??…嘘でしょ??
 どー見ても…どー頑張ってもキミ、高校生くらいにしか見えないよっ?!?!」

目の前でふわふわとした笑みを浮かべる円に
浩介は絶句しながらジロジロと見てしまう

「ふふ♪よく言われますw
 でも僕今27歳で――」
「は…?はあぁぁぁあああっ?!
 27ってマジかよっ!俺と同い年っ?!その見た目でっ?!?!
 こんなん詐欺だよ詐欺っ!!」

てっきりその愛くるしい見た目から
円の事を年端もいかない子供だと思っていただけに
思わず絶叫してしまった浩介の声に
道行く人たちの視線が何事かと一斉に浩介に向けられ――

「あ…えとじゃあ…とりあえずこの店に入ろっか。」

浩介はその気まずい空気に耐えきれず、逃げる様にして居酒屋の入口を開け
円を先に通してから、自分も後に続いて店内へと入った…
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...