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それぞれの思惑 1
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徐々に近づいてくるパトカーの音を聞きつけ
要や浩介の足元で延びて転がっている数人を残し
狼の仲間たちは皆散り散りになって倉庫から逃げだしていく…
「ふぅ~…ナイスタイミングだな警察…誰が呼んだんだ?」
浩介が腰に手を当て、若干上がる呼吸を整えながら辺りを見回す
そこにコンクリートを踏み鳴らすヒールの小気味いい音が聞こえ――
「私です。」
スマホを片手に佐伯が悠々とした足取りで命達の方に向かって歩いてくる
「お前には何時も助けられてばかりだな佐伯…ところで――」
命が地面に散らばっていた洋一の下着とズボンを洋一に渡しながら
要と浩介の方を振り返る
「お前達…俺のマンションで一体何をしていた?
何故洋一が外へと飛び出す事になったんだ?」
眉間にしわを寄せ、命が少し怒った様な口調で二人に問いただす
「ッ!それは…、」
浩介は命からの問いに口籠り、唇を噛みしめながら苦渋に満ちた表情で俯き
要もその表情を少し曇らせながら無言で命から視線を逸らす…
「お前達…」
命がそんな二人の態度に業を煮やし、二人に詰め寄ろうとするが――
「ッ、二人を…責めないであげて…命さん…」
洋一が下着とズボンを穿き終え、命の傍まで近づくと
命のワイシャツの裾を小さくキュッと掴み
辛そうな表情をしたまま、洋一が命を止める
「洋一…しかし…」
「二人は何も悪くない…悪いのは俺…
俺が…何も考えずに咄嗟に家を飛び出しちゃっただけだから…だから…、」
また泣きだしそうな顔をしながら二人を庇う洋一の姿に
命はそれ以上二人を追及するのを止め、洋一の腰を優しく抱き寄せながら
立ちつくす要と浩介に声をかける
「俺達はこれからマンションに戻るが…お前達はどうする?
なんなら俺達がマンションに着いた後に山下に送らせるが――」
「俺はアンタのマンションに車で来てるし…
何より俺はマンションに着いたらアンタと少し話がしたい。
――いいか?」
何時になく真剣な眼差しで命を見つめながらそう尋ねてくる浩介に
命も特に拒否する理由はないと軽く頷く
「俺は別に構わないが…要、お前はどうする?」
「私?そうねぇ…私喉が乾いちゃったから“兄さん”の家でお茶でも頂けるかしら?」
「要…なんでそんな喋り方をしているのだ?気味が悪いぞ…」
命が怪訝そうな顔をしながら要を見つめる
「…別に――私にも“本音と建て前”を分けたい時があるだけよ…」
「…?」
要がそう呟くと、チラリと洋一の方を見た後
直ぐに視線を逸らして再び黙り込む
「ふむ…それではマンションに戻るとしよう。佐伯。」
「皆様方は先にマンションにお戻りください。
私はこれから此処を訪れる警察の方に説明をしないとなりませんので――」
「分かった。それでは此処は佐伯にまかせ、俺達はマンションに戻るとしよう…
洋一…歩けるか?」
「…大丈夫です。」
「そうか…」
二人はそれだけ言葉を交わすと、命は洋一を気遣いながら歩きだし
要と浩介もその後に静かに続いた…
車の中で…
洋一は色んな事がありすぎて泣き疲れたのか
何処かボーっとした様子で命の肩に寄り掛かり
命はそんな洋一の肩を抱き寄せ
寄り掛かっている洋一の頭にキスをしたり髪を弄ったりしながら
洋一に慈しむ様な視線を向け
浩介はそんな二人の様子をその険しい表情を隠す事無く見つめ
助手席に座っている要の方も何処か心痛な面持ちで
ルームミラー越しにチラチラと二人の様子を伺っている…
車内がそれぞれの抱く想いのせいで重々しい空気に包まれる中
車はあっという間にマンションに到着し
運転手の山下を残し、四人はマンションの中へ
「お帰りなさいませ。命様。皆瀬様。」
「ああ…」
コンシェルジュがにこやかに挨拶をするが
四人は重い空気のまま…
そこに要のスマホが鳴りだし、要がそれを確認すると
要が一瞬顔を顰めた後、命に声をかけてきた
「兄さん…私ちょっと用事を思いだしたから――
今日はこのまま帰る事にするわ。」
「そうか。ところでお前は今日、一体何の用事があって俺のマンションに――」
「あっ!迎えの車が来たみたい。それじゃあまた今度ね。」
要はそれだけ言い残すと、そそくさとエントランスを出ていき
「…変なヤツだな。」
命はそんな要を見送ると洋一と浩介と一緒にエレベーターへと乗り込んだ…
要がエントランスを出て、迎えの車とおもしき黒塗りの高級車に乗り込む
「…手に入れましたか?」
「…失敗したわ…とんだ邪魔が入ったお陰で…」
「そうですか…まあ…
今日“ソレ”が確実にマンションに有るとは限らない訳だし…
今日の所は大目に見るとします。」
「それは有難う…ところで神代。」
「何でしょう。」
「私が協力をしたら――例の薬を頂けるっていうのは本当なの?
“番を解消”出来るという――」
「ええ…本当ですよ。しかし――」
「…?」
要が言い淀む神代を不思議そうに見つめる
「いえ…“鬼生道家のα”なら――
そんな薬に頼らずとも“番を剥す事”など造作もないと思っていましたから…」
「それって――無理矢理番を剥されたΩは一生苦しむ事になるってやつでしょう?
私は彼女に…桜子にそんな思い、してほしくないのよ。」
「…お優しい事で。」
「別に…」
要はそれだけ呟くと窓の外に視線を移し
神代もそれ以上深く尋ねる事もないまま
二人を乗せた車は命のマンションを後にした
要や浩介の足元で延びて転がっている数人を残し
狼の仲間たちは皆散り散りになって倉庫から逃げだしていく…
「ふぅ~…ナイスタイミングだな警察…誰が呼んだんだ?」
浩介が腰に手を当て、若干上がる呼吸を整えながら辺りを見回す
そこにコンクリートを踏み鳴らすヒールの小気味いい音が聞こえ――
「私です。」
スマホを片手に佐伯が悠々とした足取りで命達の方に向かって歩いてくる
「お前には何時も助けられてばかりだな佐伯…ところで――」
命が地面に散らばっていた洋一の下着とズボンを洋一に渡しながら
要と浩介の方を振り返る
「お前達…俺のマンションで一体何をしていた?
何故洋一が外へと飛び出す事になったんだ?」
眉間にしわを寄せ、命が少し怒った様な口調で二人に問いただす
「ッ!それは…、」
浩介は命からの問いに口籠り、唇を噛みしめながら苦渋に満ちた表情で俯き
要もその表情を少し曇らせながら無言で命から視線を逸らす…
「お前達…」
命がそんな二人の態度に業を煮やし、二人に詰め寄ろうとするが――
「ッ、二人を…責めないであげて…命さん…」
洋一が下着とズボンを穿き終え、命の傍まで近づくと
命のワイシャツの裾を小さくキュッと掴み
辛そうな表情をしたまま、洋一が命を止める
「洋一…しかし…」
「二人は何も悪くない…悪いのは俺…
俺が…何も考えずに咄嗟に家を飛び出しちゃっただけだから…だから…、」
また泣きだしそうな顔をしながら二人を庇う洋一の姿に
命はそれ以上二人を追及するのを止め、洋一の腰を優しく抱き寄せながら
立ちつくす要と浩介に声をかける
「俺達はこれからマンションに戻るが…お前達はどうする?
なんなら俺達がマンションに着いた後に山下に送らせるが――」
「俺はアンタのマンションに車で来てるし…
何より俺はマンションに着いたらアンタと少し話がしたい。
――いいか?」
何時になく真剣な眼差しで命を見つめながらそう尋ねてくる浩介に
命も特に拒否する理由はないと軽く頷く
「俺は別に構わないが…要、お前はどうする?」
「私?そうねぇ…私喉が乾いちゃったから“兄さん”の家でお茶でも頂けるかしら?」
「要…なんでそんな喋り方をしているのだ?気味が悪いぞ…」
命が怪訝そうな顔をしながら要を見つめる
「…別に――私にも“本音と建て前”を分けたい時があるだけよ…」
「…?」
要がそう呟くと、チラリと洋一の方を見た後
直ぐに視線を逸らして再び黙り込む
「ふむ…それではマンションに戻るとしよう。佐伯。」
「皆様方は先にマンションにお戻りください。
私はこれから此処を訪れる警察の方に説明をしないとなりませんので――」
「分かった。それでは此処は佐伯にまかせ、俺達はマンションに戻るとしよう…
洋一…歩けるか?」
「…大丈夫です。」
「そうか…」
二人はそれだけ言葉を交わすと、命は洋一を気遣いながら歩きだし
要と浩介もその後に静かに続いた…
車の中で…
洋一は色んな事がありすぎて泣き疲れたのか
何処かボーっとした様子で命の肩に寄り掛かり
命はそんな洋一の肩を抱き寄せ
寄り掛かっている洋一の頭にキスをしたり髪を弄ったりしながら
洋一に慈しむ様な視線を向け
浩介はそんな二人の様子をその険しい表情を隠す事無く見つめ
助手席に座っている要の方も何処か心痛な面持ちで
ルームミラー越しにチラチラと二人の様子を伺っている…
車内がそれぞれの抱く想いのせいで重々しい空気に包まれる中
車はあっという間にマンションに到着し
運転手の山下を残し、四人はマンションの中へ
「お帰りなさいませ。命様。皆瀬様。」
「ああ…」
コンシェルジュがにこやかに挨拶をするが
四人は重い空気のまま…
そこに要のスマホが鳴りだし、要がそれを確認すると
要が一瞬顔を顰めた後、命に声をかけてきた
「兄さん…私ちょっと用事を思いだしたから――
今日はこのまま帰る事にするわ。」
「そうか。ところでお前は今日、一体何の用事があって俺のマンションに――」
「あっ!迎えの車が来たみたい。それじゃあまた今度ね。」
要はそれだけ言い残すと、そそくさとエントランスを出ていき
「…変なヤツだな。」
命はそんな要を見送ると洋一と浩介と一緒にエレベーターへと乗り込んだ…
要がエントランスを出て、迎えの車とおもしき黒塗りの高級車に乗り込む
「…手に入れましたか?」
「…失敗したわ…とんだ邪魔が入ったお陰で…」
「そうですか…まあ…
今日“ソレ”が確実にマンションに有るとは限らない訳だし…
今日の所は大目に見るとします。」
「それは有難う…ところで神代。」
「何でしょう。」
「私が協力をしたら――例の薬を頂けるっていうのは本当なの?
“番を解消”出来るという――」
「ええ…本当ですよ。しかし――」
「…?」
要が言い淀む神代を不思議そうに見つめる
「いえ…“鬼生道家のα”なら――
そんな薬に頼らずとも“番を剥す事”など造作もないと思っていましたから…」
「それって――無理矢理番を剥されたΩは一生苦しむ事になるってやつでしょう?
私は彼女に…桜子にそんな思い、してほしくないのよ。」
「…お優しい事で。」
「別に…」
要はそれだけ呟くと窓の外に視線を移し
神代もそれ以上深く尋ねる事もないまま
二人を乗せた車は命のマンションを後にした
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