βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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楽しい楽しい新生活9

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翌日――

「ん…みな…せ…?」

命が目を覚ますと
昨日離さないように抱きしめて寝ていたハズの洋一の姿はベッドには無く――

―――アイツ…何処行った…?

命がノロノロとした動作で上半身をベッドから起こし、辺りを見回すが
部屋の中に洋一の姿は無く…

―――まさか…俺が寝ている間にこっそりと抜け出して
   またソファーの上で寝ていたりするのでは…

ありうる――と…命はベッドから降りると
手直に置いてあった白いガウンをパジャマの上から羽織り、部屋を後にする

命が手すりに手を着き、リビングへと続く階段を下りようとした時
命の鼻に焼き魚の良い匂いが漂ってきて――

―――…?これは――

命は朝食は余り摂らないタイプなので
朝の時間帯は専属の料理人もハウスキーパーも頼んではおらず
誰も使っていないハズのダイニング・キッチンから良い匂いが漂ってきた事に
不審に思った命は足早にダイニングへ…すると

「あ!命さん、おはようございます。」

身支度を整え、白いワイシャツ姿の洋一が
ダイニングテーブルの上に2人分の朝食を並べているところに遭遇し
命は目を丸くする

「朝食の準備が整ったので――
 丁度今から命さんを起こしに行こうかと思っていたところだったんです。
 どうします?命さん…もう朝食の方、召し上がりますか?」

洋一が最後にご飯とみそ汁をテーブルの上に並べ終えると
命に向かって聞いてきた

「ッ、いや、俺も今から身支度を整えてくるので
 その後に一緒に頂くとしよう。」
「分かりました。」

そう言うと命は
ちょっとソワソワとした感じでガウンの裾を翻(ひるがえ)しながら踵を返すと
走り出したいのを我慢して、大急ぎで自分の部屋へと戻って行き
それを後ろから眺めていた洋一がクスッwと微笑む

―――そんな慌てなくても…よっぽどお腹が空いてたんだなぁ~…

と、呑気に考えながら席に着いた




10分もしない内に、命が身支度を整えて洋一の待つダイニングに戻って来る

―――早っ、

まさかこんなに早く命が戻って来るとは思わず、今度は洋一が目を丸くした

「――これ…全部お前が…?」

命がネクタイを結びながら
テーブルの上に並べられている朝食に感心したように口を開く

「はい、昨日中身だけコッチに持ってきてもらった
 俺の家の冷蔵庫の中身で作ったヤツなので…
 命さんのお口に合うかどうか分かりませんけど…」

はにかんだ笑顔を見せる洋一に、命の表情も自然と綻ぶ

テーブルの上には鮭の塩焼きに綺麗な色をした卵焼き
胡瓜の浅漬けにワカメと油揚げ、豆腐の入ったみそ汁にご飯と…
これぞ日本の朝食といった朝食が並んでいて――

「美味そうだ…では、頂こうか。」

命が席に着き、2人は手を合わせると
先ずは一口、命が味噌汁を啜り始め
洋一がその様子をドキドキとした面持ちで食い入る様に見つめる…

「うん。美味いな。」
「本当ですか?!」
「ああ。」
「良かったぁ~…」
「何時もこんな風に朝食を作るのか?」

命が卵焼きを箸で割りながら尋ねる

「まあ…時間があったら――なんですけど…
 今日はちょっと早く目が覚めちゃって…w」
「…そうか…」

恐らく早く目が覚めたのは自分のせいなんだろう…と
命が洋一に対して少し申し訳なく思いながら卵焼きを口へと運ぶ

「それにしても本当に美味いな。これなら何時でも嫁に行けるだろう。」
「はは…それは――ありがとうございます…」

洋一が顔を赤く染めながらぎこちなく返す

「本当だぞ?何ならウチに嫁ぐか?――俺の嫁として。」
「ッ…かっ、からかわないで下さい…!」

洋一が今度は耳まで真っ赤に染めながら味噌汁を一口啜り、命の方はチラリと見る

すると真っ直ぐに自分の事を見つめてくる命と目が合い――

「…ッ、」

洋一は思わず手に持っていた味噌汁を落っことしそうになり、慌てふためき
その様子を見ていた命がフフッと微笑むと

「本気だが――今のは冗談だと思って忘れてくれ。」
「???」

それは結局本気なのか冗談なのか…

命の言葉に混乱しながら
洋一は顔を真っ赤にしたままぎこちない動作で朝食を食べ進めた…
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