βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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楽しい楽しい新生活8

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一時間以上をかけ――
命は洋一の匂いに中てられて興奮しきった精神(こころ)と身体を
本来温めるハズの風呂場で冷やし、何とか落ち着きを取り戻すと
冷水で濡れた頭をタオルで拭きながらリビングに足を向ける

するとリビングのソファーの上で
身体に毛布を掛け、横になっている洋一の姿が見え――

「――皆瀬…お前はこんな所で何をしている…?」
「…あ。命さん…俺――やっぱりココで寝ようかなって…」

エヘw――と…何とも言えないふにゃっとした笑みを浮かべ
横になったまま命を見上げる洋一に
命は呆れた表情(かお)をしながら、溜息と共に口を開く

「ソファーで寝るのはダメだと言っただろ?」
「でも…」
「でもじゃない。」

命はソファーから起きようとしない洋一の肩を掴もうとするが
洋一はまるで愚図る子供みたいに毛布で頭まですっぽりと覆うと
ソファーの上で芋虫みたいに丸まってしまった…

「…おい。」
「だって命さん――さっき明らかに様子がおかしかったし…」
「ッそ、れは――」

恐らく先程命が慌てて自分から離れたのは自分のせいだと感じたのだろう…

それが自分から溢れ出る匂いのせいだとは
洋一自身…思いたくはなかったが――

また命が自分から突然背を向けて離れていく姿を見たく無かった洋一は
自分の部屋に戻って仕舞われていた毛布を引っ張り出すと
気づけばそれを持って駄目だと言われたソファーの上で横になっていた…

「――皆瀬…」
「俺、今日はココで寝ます。
 またさっきみたいに命さんが突然具合悪くなったら大変だし…」

洋一はより一層――
まるで自分から溢れ出る匂いを押え込もうとするかのように丸まり
命から背を向ける

するとその様子にちょっとムッとした命は
洋一の毛布にくるまっている膝と脇の下部分に手を強引に挿し入れると――

「うわあっ?!あっ、命さんっ?!一体何を――」
「お前があんまり駄々を捏ねるようなのであれば――
 俺はこのままお前を毛布で包(くる)んで、肩に担いでベッドまで運ぶぞ。」
「ちょっ、なんですとっ?!」

浮き上がり始めた身体に焦った洋一は
毛布に包まったままモゾモゾと身を捩って逃げようとする
その時、フワッと命の鼻腔を洋一の匂いがくすぐり――

―――何時もの…匂いだ…

先程の様な熱に浮かされそうになる程の強い匂いはそこにはなく…
何時もの様に落ち着く洋一の良い匂いに
命自身もホッと胸を撫で下ろす

―――では先程の匂い…俺の劣情を煽る様なあの濃厚な匂いは一体…

命は首を傾げながらも
毛布に包まれてもがく洋一をヒョイッと肩に担ぐと
自分の部屋に向けて歩きだす

「あ、命さんっ!もうソファーで寝ようなんてしませんから…!
 だからお願い、下ろして…っ!」
「駄目だ。」
「そんなぁ~!」

洋一は米俵の様に担がれながら命の部屋へと運ばれていく
そしてガチャリと部屋のドアが開く音が聞こえ、
不意に洋一の身体から重力が消えると――

「!?」

ボフッ!とスプリングの軋む音もしない広いベッドの上に投げ落とされ
洋一の身体はバフンッとバウンドしながらベッドに沈む…

突然ベッドの上に投げだされて、茫然としている洋一の目に
自分に向かって伸ばされる手が見え――

「ッ、」

洋一は咄嗟にその手から身を捩って逃げようとするが間に合わず…
洋一の起こそうとしていた身体は、あっという間に背後から命に抱きしめられ――

「…ッ!?…ッ!?!?」

洋一は自分の身に今、何が起きているのか理解が追いつかず
ベッドの上で固まる

「あ…命さん…?」
「何だ?」

背後から長い両腕でガッチリと洋一の身体を抱きしめ
その項に命の熱い吐息を感じて、洋一の身体に緊張が走る

「はっ…離して…」
「駄目だ。」
「な、ぜ…?」

緊張で急激に喉が乾き始めた洋一が
上擦った声で背後の命に聞く

「どうせお前…逃げる気だろ?」
「に…逃げたりなんか――」
「逃げる。」
「ぅ…」
「だからこのまま――」

命がグリグリと…
まるで猫が自分の鼻先を飼い主の腹や胸に押し付けて甘えるみたいに
洋一の項に顔を埋めながら、強く抱きしめてきて
洋一はもうどうしたらいいのかが分からず
ひたすらその身を固くする…

そして命の唇が洋一の項に触れ、洋一の緊張がピークを達したその時――

「寝る。」
「――へ?」

スゥスゥと
早くも背後から命の寝息が洋一の項を掠めながら聞こえてきて――

―――え……ねた…?

洋一は命の寝つきがの良さにホッとするも
命に抱きしめられたままの現状は変わらず――

―――ど…どうしよう…この状況…

命に抱きしめられながら――
背後に感じる命の体温に少し心地よさを感じながらも
男にベッドの上で抱きしめられているというこの状況に
洋一はただただ困惑するしかなかった…
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