βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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波乱の予感?2

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「――ですので、次の株主総会ですでにコチラが選出済みの次の監査役の資料を
 命さんにお渡ししますので――」

命と神代が
次の株主総会で監査役に選任する人物についての話し合いを淡々と行っている中
株式総会とか一切無縁だった洋一は2人の話について行けずに
ただただ2人の横で畏縮する

―――ああ…佐伯さんは話の内容とかを纏めてメモとか取ってんのに…
   俺…何で此処にいんだろう…

自分のこの場での余りの場違い感っぷりに
洋一は居た堪れなくてちょっと泣きそうになる

そこに2人に話し合いはようやく一段落着いたのか
先ほどまでのピリピリと張り詰めた空気が少し和らぎ

「それでは――こちらからの提案は以上となりますが…何かご質問は?」
「無い。今日上がった提案については俺から直接父にかけあってみるとしよう…
 では帰るぞ。皆瀬。」

命が隣に座る洋一に声をかけ、席を立とうとしたその時

「ああ!それからもう一つ――
 これは私から提案…と言うか
 聞いてもらいたいお願いがあるのですが――よろしいですか?」

神代がにこやかな笑みを浮かべながら席を立とうとした命を引きとめた

「…なんだ?そのお願いと言うのは…更なる出資の話と言うのなら――」
「いえ…そう言った話ではありません。
 これは極めて個人的なお願いです。」
「個人的なお願い…?」
「ええ…」

神代が笑顔を崩さないまま、チラリと洋一の方を見たあと
直ぐに命の方へと視線を移すが――
その視線は何処か鋭い…

「私は――欲しいものは必ず手に入れないと気が済まないタイプなんです。」
「?」

突然の神代からの告白に
命と洋一、それと佐伯はその意味を測りかね
皆揃って一様にキョトンとした眼差しを神代に向ける

「――何が言いたい?」

元々不毛な言葉遊びや遠回しな表現を嫌う命は
眉を顰めながら神代に今の言葉の真意を率直に問う
すると神代は目は全然笑っていない笑顔を命に向けると一言


「では端的に…


 皆瀬洋一を――私に下さいませんか?」


「え…?」
「――はあ?」

余りにも唐突な神代からの“お願い”に
命は素っ頓狂な声を上げ、神代から名指しで欲しいとご指名を受けた洋一は
今聞いた言葉の意味が理解出来ずに椅子に腰かけたまま茫然と神代の顔を見つめる

「お、ま…突然何を言いだして――」
「?ですから、洋一を私に下さいと…」
「そうじゃなくてっ!」

まるで犬猫をくれと言わんばかりに洋一をくれと言ってきた神代に
命は思わず席を立ち、神代に吐き捨てた

「皆瀬は“俺の”秘書だぞ?
 下さいと言われたからといってハイどうぞとあげられる訳がないだろうっ!
 何考えているんだお前は…っ、」

憤慨する命を前に神代は表情一つ変えずなおも言い募る

「ですが――命さんには既に
 佐伯さんという優秀な秘書がいらっしゃるではありませんか。
 ですので…洋一は私が貰っても何も問題ないでしょう?
 現に洋一は秘書の仕事に着いて行けずに
 会談の間中ずっと手持ち無沙汰だったではありませんか…」

「う”っ…」

図星を突かれ、洋一が呻き声を漏らす

「ッ、お前にも近衛――だったか?兎に角秘書はもう既に居るではないかっ!」
「ええ…ですが私は別に洋一を“秘書”として雇いたい訳ではありませんので…」
「――は?じゃあ何の為に皆瀬を…」
「それは――」

神代が言葉を発しようとした次の瞬間

バンッ!

「!?」
「お、お待ちください雹(ひょう)様っ!」
「おお!やっぱ良い匂いしてんじゃ~ん!」

一人の若い男性が社長室のドアを勢いよく開け
秘書の制止を聞かずにズカズカと社長室に入って来るや否や
脇目も振らず一直線に
困惑で固まっている洋一の元へと近づいて行った…
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