βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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垂れ耳と、きゅ~んと言う泣き声をセットで。

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洋一が命の元で秘書として働き始めてから四日が経ち
未だに秘書としての仕事のほとんどは佐伯が管理、調整などを行っているが
洋一もただ命の傍に居るだけでは心苦しいからと
今も目的地へと向かう車の中で相変わらず自分に密着して隣に座っている命を無視し
取り合えず今、秘書として最低限必要なマナー・接待などの方法が書かれた
参考書片手に猛勉強中で――

「――そんなもの…お前には必要ないのに…」
「佐伯さんと同じ様にはいきませんけど…
 それでも一応“秘書”として雇われたのですから
 俺もそれなりの事を学んでおかないと…」
「――真面目だな。」
「マナーや接待は秘書じゃ無くても知ってて損じゃありませんし…
 そして何より命さんだって連れて歩いている人間が
 無知で不作法よりはマシでしょ?」
「それはそうだが――」

最初の頃は
車内などで命が洋一の匂いを必要に嗅いでくるのに
多少の恥じらいを見せていた洋一だったが――

今では車での移動中は熱心に何かしらの参考書などを読んでいる事が多く
項や首筋に命の鼻先が触れても
全く気にも止める様子も無く参考書を読み続ける洋一に命は不満で――

―――そんなモノより…
   俺に聞けばいくらだって作法なり何なり教えてやるのに…

まるで構って欲しい子犬の様に洋一の事を見つめる命を
佐伯はバックミラー越しに見てしまい、思わずプッと吹き出した

「…何だ?佐伯…」
「いえ。」
「むぅ…」

それに気づいた命がムッとしながら佐伯に聞き返すが
佐伯は何食わぬ顔で返し、命はまたソレに対してムスッとする…
その反応が可笑しくて、佐伯の表情が少し綻んだ…

―――本当に最近の命様は表情が豊かでいらっしゃる…

バックミラー越しにそっぽを向いてしまった命と
その隣で熱心に参考書を読み続ける洋一を見た後
佐伯はバックミラーから視線を外し
手元のシステム手帳でスケジュールの確認をしながら物思いにふける

―――これも――皆瀬さんのお陰でしょうか…?
   皆瀬さんをお雇いになられる前は
   何時も険しい表情をしていらっしゃったから…

その険しい表情の理由を知っているだけに
佐伯は最近の命の変化を嬉しく思い、微笑む

―――このまま…再び命様が険しい表情に戻られる事無く
   平穏無事に過ごせれば良いのですが…

佐伯は顔を上げ、再びバックミラー越しに2人の様子をチラリと見る
すると先ほどとは少し違い
参考書を読む洋一を穏やかな表情で見守る命の姿が見え――

―――本当に…何事も無ければ…

「――間もなく神代インターナショナルに到着いたします。」
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