βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

文字の大きさ
上 下
18 / 128

空気が読める秘書。

しおりを挟む
『××ちゃんヤメテっ!その人死んじゃう…っ!!』
『――死んじゃえばいい…僕からようちゃんを奪って行こうとするヤツなんて…!』
『その人僕に何もしてないよっ!だからヤメテっ!××ちゃんっ!!』
『コイツ…ようちゃんの事を何処かに連れて行こうとしてたじゃない!
 こんなヤツ…!』
『××ちゃんっ!!』


―――――ッ、なんで…



「――なせ…」

―――なんで今更あんな昔の事を…

「――みなせ…」

―――思いだしたく…なかったのに…っ、

「皆瀬っ!」
「!?は、はいっ!!」

洋一が命の声でハッと我に返ると
いつの間にか“nymphee”に戻って来ていた命が洋一の肩に手を置き
俯いてその場に棒立ちしている洋一の顔を心配そうにのぞき込んでいた…

「…お前――俺が居ない間に何があった?顔…真っ青だぞ…?」
「ぁ…大丈夫…です…」
「――余り――大丈夫そうには見えないが…」

命の手が
俯き、洋一の顔に影を落としている原因となっている垂れた前髪を
掻きあげようとした瞬間

「ッ!嫌だっ!!」
「!?いっ…、ッ…」

バシィッ!…と
洋一の手が前髪に触れようとした命の手を思いの外強い力で払いのけてしまい
洋一自身がその音と感触に驚いて、手を振り上げた姿勢で固まる

「あっ…」
「皆瀬…」
「ッ…おれ…何て事を…っ!
 ごめ…っ、ごめんなさい…っ!俺…そんなつもりじゃ…、」

自分の仕出かしてしまった事に洋一はまるで子供の様に狼狽え始め
それを見た命が、尚も狼狽え続ける洋一の身体をそっと抱き寄せる…

「ッ、」
「いい。気にするな。
 元はと言えば俺が断りなくいきなりお前に触ろうとしたのが悪いわけだし…」
「でも…っ!」
「いいから!兎に角落ち着け。な…?」
「………は…い…」
「良い子だ。」

まるで子供をあやすかの様に、命は自分の腕の中に納まっている洋一の背中を
ポンポンと叩きながら洋一の事を宥め

洋一もじんわりと伝わって来る命の体温に安心したのか
徐々に落ち着きを取り戻して行く…

そうやって2人は暫く無言で抱き合っていたが
命がスッと洋一の両肩に手を置き
身体を離しながら俯いている洋一の顔を覗き込むと
黙って為すがままになっている洋一に様子を尋ねた

「…落ち着いたか?」
「はい…」
「何があった…?」
「――ちょっと…昔の事を思いだしてしまって…」
「昔の事…?」
「――今は…話したくありません…」
「そうか…」
「………」

再び表情が曇り出した洋一に、命はそれ以上の事を聞くのは止め
2人の間に沈黙が流れる…

そこに洋一の上着のポケットに入れていたスマホの着信音が
無音の店内に鳴り響き
洋一は暗い表情のままポケットからスマホを取り出す
するとメール画面を見て、洋一の表情が少し和らいだ…

「浩介…」
「………」

洋一が嬉しそうに呟いたその名前の人物に
命は少しムッとしながら洋一にメールの内容を尋ねた

「篠原から…か…何て?」
「あ、えーと…今日20時に新しく開店した居酒屋で
 2人でパーっと飲まないかって…」
「ふぅ~ん…」

命が面白く無さげに生返事を返す
暫くして店の店主が奥から現れ、命に声をかる

「命様。」
「皆瀬のスーツは何時頃納品できそうだ?」
「ハイ。早ければ10日以内にお届けできるかと…」
「佐伯、この10日以内に何かしらのパーティーなどは?」
「予定に御座いません。」
「そうか。なら納品出来次第既に伝えてある住所にスーツを届けてくれ。」
「ではそのように。お支払方法は如何なさいましょう?」
「いつも通りカードで。佐伯、手続きを頼む。」
「かしこまりました。」
「では佐伯様、こちらの方へ――」

そういうと2人は店の奥に消えていき
命はそれを見届けると、パッと洋一の方へと向き直り
物凄い覚悟を決めたかのような表情で口を開いた

「皆瀬。」
「はい?」
「俺もつき合う。」
「え…何が…?」
「居酒屋。俺も付き合う。」
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

処理中です...