βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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良い匂いはずっと嗅いでいたい気持ち、分かります。

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移動中の車内にて…

―――なんて言うか…

洋一から漂う匂いのせいで車内はちょっと異様な雰囲気に…

「あの~…副社長?」
「…命でいい。」
「それは――ちょっと…」
「――鬼生道の姓は外では目立つ。なので外で呼ぶ時は命で頼む。」
「分かり――ました…それじゃあ――命…さん…?」
「――なんだ。」
「あの…もう少し――離れていただけませんか…?」
「?なぜ?」
「ちょっと…近すぎます。主に顔が。」
「そうか?それはまあ…気にするな。」
「………」

―――気にするなって言われましても…

洋一達が車で移動し始めてから5分も経たない内に異変は起きた…

後部座席に洋一と命は少し距離を置いて座っていたハズなのに
何故か命の方からジリジリと洋一の方に近づいてきて
ピッタリと身体を密着するくらいの位置に座り直し

前の助手席に座る佐伯は洋一の匂いに酔いしれているのか…
目を瞑り、まるでエクスタシーにでも浸っているかの様な
ちょっと危ない表情で悦んでおり――

唯一変わりがないのは匂いの発生源である洋一自身と
車を運転している運転手の山下さんくらいで…

―――だいじょぶか?これ…

車内の様子に一抹の不安を覚えた洋一だったが

―――でもまあ…俺の匂いには発情作用は無いハズだし
   暫く経てば2人とも正気に戻るだろう…

と放置した結果
更に5分後には命は洋一に寄り掛かる様にしながら
ずっと洋一の首筋に顔を近づけたまま匂いを嗅ぎ続けて現在に至る

ちなみに佐伯は少し正気を取り戻したのかスマホやシステム手帳を見ながら
スケジュールの確認などを黙々と行っていた

―――佐伯さんは正気を取り戻したっぽいのに…
   何で命さんは未だに俺の匂い嗅ぎ続けてんの…?

洋一は昔から多くのαに匂いを嗅がれたりしてきたので
こう言う状況はもう慣れっこなのだが――

―――ちょっと長すぎでは…?

洋一の匂いを嗅ぐα達は大体10分も嗅げば満足するのか
皆それくらい経つと自然と洋一から離れてゆくのに対し
どうも鬼生道家のαはそうでは無いらしく…

―――そういえば要も――俺が近くに居る間はずっと俺の匂い嗅いでたよなぁ…w
   レストランで食事をしている際も、料理じゃなくて
   俺の匂いにうっとりしてたのはどうかと思ったけど…w

洋一が要と過ごしていた時の事を少し思いだして自然と顔が綻ぶ
すると、それをすぐ傍で洋一の匂いを嗅いでいた命が気づき
洋一に声をかけた

「――どうした?皆瀬…急にニヤけだしたりして…気味が悪いぞ。」

―――ずっと俺の首筋に顔近づけて匂い嗅いでるアンタも大概やぞ

と…洋一は咄嗟に口から出そうになったその言葉をグッと堪えて心の中で呟く

「あ…いえ…
 そういえば要も俺といる時はずっと俺の匂い嗅いでたなぁ~…って…」
「要も…?」
「ええ…」

洋一はそう言うと、少し寂し気な笑みを浮かべながら俯き
命がそれを見て洋一に何か声をかけようとしたその時

「命様。横山商事に到着いたしました。」

運転手の山下が横山商事前の駐車スペースに車を停め
バックミラー越しに命を見ながら目的地に着いた事を知らせると
山下はスッと車を降り
命の座る後部座席のドアを開け、命が車から降りるのを持つ

「…着いたぞ皆瀬。秘書の仕事は佐伯に任せて
 お前は何もせず、ただ俺の傍に居るだけでいい…分かったな?」
「あ…ハイ。」
「それじゃあ行くぞ。」

命は車から降り、洋一もそれに続いて車から降りた
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