βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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番がいても…

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翌日、洋一がいつも通りの時間に
いつも通り出勤する為に玄関のドアを開けたら――

「おはようございます。皆瀬洋一さん。」
「――えっ…あ…?お…おはよ…ございま、す…?」

―――え…誰…?この美人…

黒のビジネススーツを完璧に着こなした綺麗な女性が
これまた綺麗な姿勢で玄関先に立ち
洋一の姿を確認すると同時にお手本みたいな綺麗なお辞儀を洋一に向けて交わした後
再びスッと姿勢を正して洋一の事を見据え

洋一はそんな女性に困惑し
ただただ唖然とした表情でその女性の事をみつめた…

「命様の命によりお迎えに上がりました。
 第一秘書の佐伯 純子(さえき じゅんこ)と申します。以後お見知りおきを…
 それでは早速ではありますが、一緒に来て頂きましょうか。」
「え、あの……どちらへ…?」
「下の駐車場に命様をお待たせしたお車が停めてございます。そちらの方へ…
 ご理解していただけましたのなら、ご一緒していただいても?」
「は…はあ…」

洋一は表情一つ変えない佐伯に気圧されながら玄関のドアを閉めると
静かにエレベーターに向かって歩きだした佐伯の後に訳も分からず慌てて続く
そして駐車所へ向かう為に乗り込んだエレベーター内にて
佐伯が静かに口を開いた

「――それにしても…本当に皆瀬さんからは良い香りがなさるのですね。」
「え…」
「私には既に番となった夫が居ますので
 Ωのフェロモンの匂いを感じる事はもう御座いませんが――
 皆瀬さんから漂う匂いは分かります。とても良い香りで…」

佐伯は恐らく無意識なのであろう
壁際に居る洋一に近づくと、顔を洋一の首筋に近づけ
スンスンと…実にうっとりとした表情で嗅ぎ始めた…

「あ…あの――佐伯…さん…?」
「本当に…良い香り…」
「ちょ…ちょっと…っ、」

いよいよ佐伯の鼻先が洋一の首筋を掠り出したその時

チンッ

とエレベーターのドアが開き、その先に険しい表情をした命が立っており――

「――佐伯…お前――皆瀬に何してる?」
「ハッ!命様っ!し、失礼いたしましたっ!
 私とした事がなんとはしたない事を――」

佐伯は命の声でハッと我に返り、慌てて洋一から離れると
エレベーターの前に仁王立ちしている命に頭を下げ
透かさずその一歩後ろに控える

「――大丈夫か?皆瀬…
 佐伯は女性と言ってもαだからな。もし何かされたのなら――」
「ッ!だ…大丈夫ですっ!」
「そうか。なら停めてある車まで行こうか。」

そう言うと命はクルッと踵を返すと佐伯を引き連れて歩きだし
洋一もその後を慌てて追う

エレベーターホールを抜け
玄関から外へ出たところで命が歩きながら洋一に向けて話しかけてきた

「ところで皆瀬。
 早速で悪いがお前には今から2社程俺と一緒に着いてきてもらう訳だが――
 心の準備は?」
「無いです。」
「そうか。だが着いてきてもらう。」
「はぁ…」

命の相変わらずの強引さに洋一はガックリと肩を落とし
あからさまな溜息を突くが命はそれを気にも留めずに話を続ける

「それはそれとして皆瀬。」
「はい?」
「俺は色んなパーティーに出席すると昨日も話した訳だが――
 お前はパーティー用のフォーマルスーツ何かは――」
「…一応…ありますけど…」
「――どうせ二万かそこらの安物だろ?」
「う”っ…」
「ハァ~…俺の秘書がそれでは困る。
 佐伯、今すぐ俺行きつけの仕立て屋に予約を入れてくれ。
 今日の午後14時にそちらに伺うと。それと靴屋にも。」
「かしこまりました。」
「え?仕立て屋…って…え?そんな困りますっ!
 俺、スーツを仕立てる金なんて――」
「安心しろ。金は俺が出す。」
「そ…それはそれで困りますっ!」
「なら出せるのか?」
「う”…それは――」
「なら困るな。甘えとけ。」

そうこう話している内に洋一たちは停めてある命の車の前までつき
車の前で待っていた命お付きの運転手が命の為に後部座席のドアを開ける

「それでは山下、先程話していた横山商事まで頼む。」
「かしこまりました。」

命は運転手に行先を告げると後部座席に乗り込み
運転手は命に頭を下げると運転席に着き佐伯は助手席へと乗り込んでいくなか…

一人取り残された洋一はどうしたらいいのかが分からずその場でオドオド…
それに焦れた命が閉まった後部座席のドアを開けて洋一に声をかける

「どうした皆瀬、何をしている早く乗れ!」
「は、はいっ!」

命の言葉に洋一は慌てて後部座席に乗り込んだ
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