6 / 128
その逆。
しおりを挟む
―――きしょうどう…鬼生道…って――
「え……ええ”ぇぇぇぇえええっ!?!?」
副社長の言葉からワンテンポ遅れて洋一が大声を上げ
思わず副社長の顔をマジマジと見つめる
―――!言われてみれば――確かにちょっと要に――似てる…かも…?
気の強そうなツンとした猫目にスッと筋の通った鼻筋…
形の良い薄い唇と――
全体を通してスッキリとした整った顔立ちではあるのだが
洋一が何よりも注目したのは――
―――瞳の色…要にソックリ…
金色に見える色素の薄い茶色の瞳に洋一の目が釘付けになる
「…似てるだろ?要に…」
「………」
無言でジッと自分の瞳を見続ける洋一に
副社長は苦笑を浮かべながら尋ねるが洋一は無言のまま…
余りにも熱心に自分の事を見つめてくる洋一に
流石に居心地の悪さを覚えた副社長が耐えきれずに洋一から視線を逸らし
「ン”ッ、ン”ッ」と軽く咳払いをした後に静かに口を開いた
「――ところで――俺がグロースの副社長という事は話したが――
自己紹介がまだだったな。俺は――」
「鬼生道 命さん…でしょ?」
浩介の言葉に命が驚いて目を見開く
「名前まで知っているとは驚きだ。
俺は余りグロースの方には顔を出さない形だけの副社長だから
名前も顔も社員には知られていないと思っていたんだが…」
「とんでもないっ!貴方が出社すればたちまち女子社員はザワつきだし
何故かその日一日の業績はうなぎのぼりに急上昇するという“幻の副社長”の
顔と名前を知らない社員なんてウチにはいませんよっ!」
「…そうか?そこの皆瀬の方は俺の顔見ても
その“幻の副社長”だとは気づいてはいないようだったが――」
命が未だに自分の事をジッと見続けている洋一を指さす
「あ、コイツは人の顔を覚えるのが苦手で――って洋一!
お前何時まで副社長さんの顔凝視してんだ!流石に失礼すぎるだろっ!」
「ハッ!」
今まで命の瞳に見入っていた洋一が、浩介の声で我に返り
慌てて命から視線を逸らした
「すっ、スミマセンっ!ついつい見惚れてしまって…」
「いや、構わんよ。それより――」
命は床に座っている洋一に近づき、すぐ傍で跪(ひざまず)く
「お前は本当に良い匂いがするな…要が言っていた通りだ…」
「え…要が…?」
「ああ…」
命は洋一の首筋に顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ…
「『洋一からは本当に良い匂いがするのよ…ずっと嗅でいたいくらいに…』
…と、あの愚妹が実にウットリとした表情で毎回俺に向かって言うものだから
俺はその匂いが一体どんなものなのか――前々から気になっててね…」
洋一の首筋に鼻先が着きそうなくらいの至近距離で洋一の匂いを嗅ぎながら
命が目を閉じる
―――確かに…良い匂いだ…Ωのフェロモンとは全然違う落ち着く匂い…
「あの…副社長…?」
洋一の肩に手を置き、より密着する形で自分の匂いを嗅ぐ命に
洋一は戸惑う…
―――Ωのフェロモンは何て言うか――
さっきみたいにただひたすら俺達αの本能を掻き立て
理性を失わせ性欲を煽り、ただの“獣”へと落とす魔性の匂い…
でもコイツのは違う…その逆
落ち着くんだ…物凄く…
“Ωのフェロモンの呪縛”から俺が思いのほか早く解放されたのは
ひょっとしたら――
「――皆瀬、知っているか?」
「はい?」
今まで瞳を閉じ、うっとりと自身の匂いを嗅いでいた命が
スッと閉じて瞳を開け、洋一の肩に手を置いたまま洋一に視線を合わせる
「Ωのフェロモンに中てられたαは本来
“Ωの項に噛みつく”か“性行為”をしない限り
中々正気には戻らないんだ…」
「えっ!?そうなの?!」
洋一が事実を確かめるように近くにいた浩介を見上げ
浩介がソレに答える形で口を開く
「まあ…“本来”ならそうですけど――
ソレはあくまで“αもΩを誘うフェロモン”を出していて
“互いに発情”していたらの事でしょ?
互いに発情していない場合はαがΩのフェロモンに中てられ
正気を失う事はあっても、Ωのフェロモンさえ弱まれば正気に戻る。
現に副社長はΩのフェロモンが弱まったと同時に正気に戻ったじゃないですか…」
「それはそうなんだが――
それでも俺が“Ωのフェロモンの呪縛”を解くのに本来なら
もう少し時間がかかっているはずなんだ。
忌まわしい事だが…俺を誘惑してくるΩは多いからね。今回みたいに…」
命の表情に影が差す
“鬼生道財閥”の恩恵を受けたい企業や人は大勢いる
それ故にαである命は過去何度もそういった輩からΩをけしかけられ
そのつど何とかそれらをかわしてきた…
「だから俺は自分が“Ωのフェロモンの呪縛”が
どれくらいの時間で解けるかは把握している。
今回は何時もと違って明らかに
俺が“Ωのフェロモンの呪縛”から解放される時間が早い…
そしてそれはお前の匂いのお陰なんじゃないかと俺は思っている。
だから――」
命は洋一の肩に置いている手に力を入れ、更に強い眼差しで洋一の事を見つめる
「皆瀬洋一。俺にはお前が必要だ。」
「え……ええ”ぇぇぇぇえええっ!?!?」
副社長の言葉からワンテンポ遅れて洋一が大声を上げ
思わず副社長の顔をマジマジと見つめる
―――!言われてみれば――確かにちょっと要に――似てる…かも…?
気の強そうなツンとした猫目にスッと筋の通った鼻筋…
形の良い薄い唇と――
全体を通してスッキリとした整った顔立ちではあるのだが
洋一が何よりも注目したのは――
―――瞳の色…要にソックリ…
金色に見える色素の薄い茶色の瞳に洋一の目が釘付けになる
「…似てるだろ?要に…」
「………」
無言でジッと自分の瞳を見続ける洋一に
副社長は苦笑を浮かべながら尋ねるが洋一は無言のまま…
余りにも熱心に自分の事を見つめてくる洋一に
流石に居心地の悪さを覚えた副社長が耐えきれずに洋一から視線を逸らし
「ン”ッ、ン”ッ」と軽く咳払いをした後に静かに口を開いた
「――ところで――俺がグロースの副社長という事は話したが――
自己紹介がまだだったな。俺は――」
「鬼生道 命さん…でしょ?」
浩介の言葉に命が驚いて目を見開く
「名前まで知っているとは驚きだ。
俺は余りグロースの方には顔を出さない形だけの副社長だから
名前も顔も社員には知られていないと思っていたんだが…」
「とんでもないっ!貴方が出社すればたちまち女子社員はザワつきだし
何故かその日一日の業績はうなぎのぼりに急上昇するという“幻の副社長”の
顔と名前を知らない社員なんてウチにはいませんよっ!」
「…そうか?そこの皆瀬の方は俺の顔見ても
その“幻の副社長”だとは気づいてはいないようだったが――」
命が未だに自分の事をジッと見続けている洋一を指さす
「あ、コイツは人の顔を覚えるのが苦手で――って洋一!
お前何時まで副社長さんの顔凝視してんだ!流石に失礼すぎるだろっ!」
「ハッ!」
今まで命の瞳に見入っていた洋一が、浩介の声で我に返り
慌てて命から視線を逸らした
「すっ、スミマセンっ!ついつい見惚れてしまって…」
「いや、構わんよ。それより――」
命は床に座っている洋一に近づき、すぐ傍で跪(ひざまず)く
「お前は本当に良い匂いがするな…要が言っていた通りだ…」
「え…要が…?」
「ああ…」
命は洋一の首筋に顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ…
「『洋一からは本当に良い匂いがするのよ…ずっと嗅でいたいくらいに…』
…と、あの愚妹が実にウットリとした表情で毎回俺に向かって言うものだから
俺はその匂いが一体どんなものなのか――前々から気になっててね…」
洋一の首筋に鼻先が着きそうなくらいの至近距離で洋一の匂いを嗅ぎながら
命が目を閉じる
―――確かに…良い匂いだ…Ωのフェロモンとは全然違う落ち着く匂い…
「あの…副社長…?」
洋一の肩に手を置き、より密着する形で自分の匂いを嗅ぐ命に
洋一は戸惑う…
―――Ωのフェロモンは何て言うか――
さっきみたいにただひたすら俺達αの本能を掻き立て
理性を失わせ性欲を煽り、ただの“獣”へと落とす魔性の匂い…
でもコイツのは違う…その逆
落ち着くんだ…物凄く…
“Ωのフェロモンの呪縛”から俺が思いのほか早く解放されたのは
ひょっとしたら――
「――皆瀬、知っているか?」
「はい?」
今まで瞳を閉じ、うっとりと自身の匂いを嗅いでいた命が
スッと閉じて瞳を開け、洋一の肩に手を置いたまま洋一に視線を合わせる
「Ωのフェロモンに中てられたαは本来
“Ωの項に噛みつく”か“性行為”をしない限り
中々正気には戻らないんだ…」
「えっ!?そうなの?!」
洋一が事実を確かめるように近くにいた浩介を見上げ
浩介がソレに答える形で口を開く
「まあ…“本来”ならそうですけど――
ソレはあくまで“αもΩを誘うフェロモン”を出していて
“互いに発情”していたらの事でしょ?
互いに発情していない場合はαがΩのフェロモンに中てられ
正気を失う事はあっても、Ωのフェロモンさえ弱まれば正気に戻る。
現に副社長はΩのフェロモンが弱まったと同時に正気に戻ったじゃないですか…」
「それはそうなんだが――
それでも俺が“Ωのフェロモンの呪縛”を解くのに本来なら
もう少し時間がかかっているはずなんだ。
忌まわしい事だが…俺を誘惑してくるΩは多いからね。今回みたいに…」
命の表情に影が差す
“鬼生道財閥”の恩恵を受けたい企業や人は大勢いる
それ故にαである命は過去何度もそういった輩からΩをけしかけられ
そのつど何とかそれらをかわしてきた…
「だから俺は自分が“Ωのフェロモンの呪縛”が
どれくらいの時間で解けるかは把握している。
今回は何時もと違って明らかに
俺が“Ωのフェロモンの呪縛”から解放される時間が早い…
そしてそれはお前の匂いのお陰なんじゃないかと俺は思っている。
だから――」
命は洋一の肩に置いている手に力を入れ、更に強い眼差しで洋一の事を見つめる
「皆瀬洋一。俺にはお前が必要だ。」
0
お気に入りに追加
379
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!



怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる