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本編
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しおりを挟む「今日はさすがに会いずらいわ…」
昨日はあれから殿下がなぜか放心してとても話せる状況ではなかったので、そのまま帰った。
今まで変わったのを見たことない表情も心なしか蒼白だった。
なので今日もこのあと会うのがとても気まずい。
でも、会わないわけには行かないので仕方なく向かう。
サロンに向かうと、すでに殿下は来ていたみたいだ。
「お待たせいたしました、殿下。」
「あ、ああ。」
向かいの席に座る。
いつも通り話すこともなく、純粋にお茶を楽しもうと手をのばすと、いきなり殿下に手を握られる。
「きゃっ」
「あ!…すまない、力加減を間違えた。」
「い、いえ。どうされたんですか?」
「…昨日のことだが」
殿下から昨日のことについて話されるなんて思わなかった。
「婚約解消の件ですね。私はいつでも大丈夫です。」
「…随分とあっさりしてるんだな。」
いまさら何を言うんだ。
「当たり前です。殿下が真に好いている方との仲を邪魔したくありませんから。」
「お前は、その…俺を好いてくれてはいないのか?」
「もちろん尊敬はしております。ただ、それが恋かというと違います。殿下もそうでは?」
「お、俺は…」
「手紙のやり取りはもちろん、会話もあまりしてこなかったではないですか。今の方とは手紙のやり取りをしているんですよね?」
「い、いや、」
「それがすべてです。私は殿下の恋の邪魔などしたくありません。どうか婚約解消をお願いします。」
「…だ…」
「殿下?」
「婚約解消はしない。」
「な、なんで…」
「そうだな。俺も覚悟を決めるときが来たようだ。」
「は、はぁ…」
なんの覚悟だろう…。
「これからは会えないときも手紙のやり取りをしよう。」
「い、いえ。それはその令嬢とすればよいのでは…」
なんで私なんかとする必要が?
公爵家の後ろ盾がいるのかしら。
そんなことしなくても今の王家は関係ないだろうに…
「確かに俺には好いてる令嬢がいる。だから、その令嬢にこれから俺を好きになってもらいたい。」
まだお付き合いはしていなかったのね。
万が一のために私を引き止めてるのかしら。
「そうなんですね。頑張ってください。」
「だから、お前に協力してほしい。」
「は?」
「俺はあまり話すのが得意ではない。愛を囁くのも難しい。その令嬢に振り向いてもらうために、力を貸してくれ。」
ああ、そうか。
殿下はそもそも女性とあまり話さない。
だから、練習台がほしいのだ。
仕方のない人。
でも昔はできないことも努力してやりとげる姿が好きだった。
殿下のためになるなら…
「わかりました。ではその令嬢に振り向いてもらえたらこの婚約はなかったことにしましょう。」
「ああ、ありがとう。よろしく頼む。」
こうして殿下と私のおかしなやり取りが始まったのである。
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