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「おかえりなさい、お父様!」


「ああ、ただいま。今日は大変だったね。」


「いいえ!こんなに幸せな日はありませんわ!さっそくですが、お父様にお願いが…」


候爵の帰りを出迎え、別荘へ休養しに行きたいと願おうとしたとき、後ろに誰かいることに気づいた。


「やぁ、久しぶりだね。キアナ嬢」


「お、王太子殿下。ご機嫌麗しゅうございます。お見苦しいところをお見せいたしました。」


「いや、いいんだ。婚約破棄できたことが嬉しいの?」


ハリオルド殿下が父と一緒に来たというのなら婚約破棄の理由もわかっているのだろう。


「…恐れながら私はライバーン候爵子息には釣り合わないと思っておりましたので。」


「まさか!逆ならともかく。」


「え?」


「いや、それよりも今後はどうするつもりなの?」


「そ、それは…」



なぜか彼には言ってはいけない気がした。
言葉につまっていると、


「…いつまでもこちらに殿下を立たせたままではいけない。応接室へどうぞ。」


そう父が言ってくれた。
そもそも彼はなんの用で来たのだろう?
父と話すためだろうから、私はこの辺で自室に逃げよう。


「では殿下、ごゆっくりしていってください。」


「何言ってるの。君がいないとはじまらない。」


「ぇ?」



それから訳もわからず応接室へ連れてかれた。
父の隣に座らされ、向かいには殿下が腰を掛けている。
出されたお茶をゆっくりと飲んだあと彼は話し出す。



「さっきも聞いたけど、キアナ嬢は今後どうするつもりなの?」


父の方を見ると、諦めなさいというように首を横に振る。
これはもう正直に言うしかない。



「私は、相手の不義による婚約破棄でしたが、もう結婚はできないと思っております。また社交界でも笑いものになるでしょう。その前に我が家の別荘でゆっくりと休養して、世界に旅に出ようかと思っております。」


「なっ、旅など聞いてないぞ!?」


「お父様が帰られた際にお話しようと思っておりました。見聞を広めたいのです。その後は修道院に入り神に身を捧げます。」


「別荘での休養はどのくらいの予定?」


「まだ未定ですが、お父様が許してくださるなら、自分でお金を稼げるまで住まわせていただきたいです。」


「金などいくらでもある。これは私の責任でもあるから、キアナが自ら働かなくても旅に出れる資金は用意するよ。」


父の優しさに心打たれたが、


「それではだめなのです。自分で働くことの大切さを知る事で、お金の大切さも学ぶことができるのです。」


我が家の資産は領民から得たものだ。
私用に使っていいものではない。
それに市井で1から稼いでみるのも大変だが達成感もあるだろう。

すると、黙って聞いていた殿下が口を開く。


「キアナ嬢、一つ提案があるんだけど?」


「はい?」


「私と婚約しないか?」



「は?」
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