蛇と鏡の誰そ彼刻

水笛流羽(みずぶえ・るう)

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蛇鏡SSまとめ7(2020年11月)

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〈≪マクアウィトル、髪飾り、プルケ≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【髪飾り:X神】
 身支度をしている夜の神を見るともなしに眺めながら、床に散らばる装身具の中から髪飾りを拾い上げてみる。途端に、不満げな声が投げつけられた。
「勝手に触るな」
「うるせえな」
 こいつ自身だってショロトルの持ち物を気に入れば、当然のように勝手に触っている。その事実を忘れたような顔をして平然と詰ってくるこいつは、本当に身勝手な神だ。呆れながら手渡してやると、そいつはふんと鼻を鳴らしてまた身支度に戻っていった。

 手櫛で整えた髪を、慣れた手つきで結い直している夜の神。そいつがもっとちっぽけだった頃には髪を撫でてやったこともあったなと、何とは無しに思い出していた。
 今も昔も生意気なそいつは、いつも不満げな顔をしてショロトルの手を払い除けた。それが愉快だったから、ショロトルはわざと事あるごとにそいつの髪を撫でてやっていた。
 案外と悪くなかった髪の手触りを思い出してみようとしたが、記憶は遠く霞んで手元に戻らない。だから、直接確かめることにした。

「何だ、っ」
「ふーん」
 こんな感触だったか、まあ悪くないかもしれない。考えながら指を差し入れてみると、虚を突かれていたそいつはやっと我に返ったらしかった。
「やめろ。何をする」
「いーだろ、減るもんでもねえし」
「今結ったところだぞ。結い直さねばならんではないか」
 不満げなそいつに手を払いのけられ、仕方なく手を下ろす。だが、手に残る髪の感触が、何とは無しに惜しまれて。
「そりゃー、悪かったな。やってやろうか?」

〈≪封じた記憶、テオティワカン、再会≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【封じた記憶:Q神】
 きらきらと輝いていた少年神に、この手はもう決して届かない。彼は既に、あの残忍な夜の神自身の手によって、息の根を止められてしまったのだから。
 だから、この美しい記憶は封じ込めてしまおう。浮かび上がっては来られないように、深く深く埋めて、押し沈めてしまおう。思い出しても、苦しいだけだから。
 夢の中でだけまた会えれば、それで良いのだ。

【再会:Q神】*1話ラストの前
 物心ついた時から、いいや、それよりも前から。ひどく満たされない思いが、ずっと付き纏っている。
 探し出さなければいけない誰かがいる。その誰かも必ず、自分のことを待ってくれている。そんな思いが常にあるのに、その「誰か」の顔さえ分からない。
 けれど、どうしようもなく焦がれているのだ。どうしても会いたいのだ。胸が張り裂けそうに、恋しいのだ。
 早く君に会いたい。思わず閉じた目の裏で、知らない誰かが微笑んだ。

〈≪落下、「ただいま」、夕暮れ≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【落下、「ただいま」、夕暮れ:X神】
 夕暮れの太陽が落下していくのを、ショロトルは窓越しにぼんやりと眺めていた。
 太陽は地底の死者の国へと飲み込まれていく。光が失われ、闇が忍び寄ってくる。民が神々との約束を違えたならば、あの輝きは二度と地上に戻らない。
 まあ、ショロトルの知ったことではない。神々の教えた定めを破り自ら滅びるならば、所詮その程度の民だったのだろう。また誰か力のある神が名乗りを上げ、新たな大地を作り、太陽となるのだろう。

 そしてきっと、それは自分ではない。だから、何の関係もないことだ。小さく嘲笑を漏らした時、馴染んだ気配が立った。
「何をしている」
「ただいま、くらい言えねえのかよ」
「勝手に入り込んでおいて、その言い草か」
 呆れて咎めてやっても、生意気な夜の神は気にした素振りもなく文句をつけてくる。不満げにこちらを睨んでいたそいつは、すぐに面倒臭そうに目を逸らした。身につけていた飾りを外し始める。

 こいつだって何の断りもなくショロトルの神殿に踏み込んでくるのが常だと言うのに、本当に身勝手な神だ。呆れながら、軽い問いを投げかけた。
「昼間にどっか行ってるなんて、珍しいな。何の悪巧みだよ?」
「お前に話す義理はない」
 まともに答えるつもりのないらしい夜の神にまた呆れながら、ショロトルは見るともなしにそいつの着替えを眺めていた。目が合うと、嫌そうな顔をされる。

「何だ」
「別に? 何だよ、見られて恥ずかしいってか?」
「煩わしいだけだ」
 不機嫌に言い捨てながらも、その神もそれほどショロトルの視線が気になるわけではないらしい。言葉の半分も気にかけた様子もなくさっさと衣服を脱ぎ捨て、もっと気軽な装束に着替えていく。
 その肩に先日刻んでやった咬み傷は、まだ残っているだろうか。ふと興味を惹かれたので、ショロトルは立ち上がって確かめることにした。

〈≪黒曜石の刃、昔話、予言≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【黒曜石(イツトリ)の刃:Q神】
 ぬらりと光る黒曜石の刃を、この手は握っている。硬く冷たいのに、どこか曖昧なその感触。
 何をしていたのだったろう。ここはどこだったろう。ぼやける意識で考えて、なんとはなしに視線を落とす。途端に、心臓が飛び上がった。
 目の前に置かれた石の祭壇には、横たわる骸。ぽかりと空いた胸の穴から、だくだくと血が溢れている。それは確かに、あの忌まわしい夜の神の屍だった。

 血の気のない顔に、まだ淡く張り付いている嘲りの笑み。心臓を抉り取られる苦痛さえ、この悪辣な神にとっては懲らしめにもならないのか。
 考えながら、何とは無しにその頬に触れてみる。温度のない肌がしとりと指に馴染む。何も考えずに、薄く空いた唇を指でなぞってみた、その時だった。
 ぱちりと開いた夜の神の眼が、真っ直ぐにケツァルコアトルを見上げる。色の無い唇が、はっきりとした嘲笑を形作った。
『無様だな』
 そこで目が覚めた。

【昔話:Q神】
 昔話にするには、あまりにも生々しすぎる痛みと絶望。見失って初めて、あの輝きがどんなに大切なものだったかを知った。
 だから、自分があの残忍な夜の神を赦せる日など、きっと訪れないのだろう。第五の太陽の時代が終わっても、次の太陽が生まれ、また失われても、永遠に。
『どっちもどっち、って気もするけどなあ?』
 兄弟神の嘲りに満ちた声を、頭からから追い払った。この胸の苦痛は、苦悩は、誰にも理解できる筈などないのだ。

【予言:X神】
「んだよ、それ。予言か?」
「さあな」
 ふふんと笑う夜の神には、これ以上説明をするつもりはさらさらないのだろう。不遜な態度に呆れながら、どうしたものかとショロトルは考えた。
 生意気なこいつの言葉に素直に従うのは非常に癪なことだが、「忠告」に従わずに面倒事に巻き込まれるのも御免だ。用事も、さして急ぎのものではない。だから聞き入れてやるのは、やぶさかではないのだが。
「……なら、暇つぶしに付き合えよ」

「どんな理屈だ」
 呆れた顔をするそいつを引き寄せ、組み敷く。抵抗はないから、こいつだってきっとそれを望んでいたのだ。
「いつになったら、出かけても良いんだよ?」
「は、自分で、考えろ」
 肌を暴きながら一応尋ねてやるが、夜の神からそれ以上の「予言」は引き出せなかった。快楽で攻め立ててやっても、きっと何も言わないだろう。だからショロトルは潔くその計略を捨てて、曝け出された肌に歯を立てた。

〈≪果たせなかった約束、手探り、懐かしい匂い≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【果たせなかった約束:少年神】
『いつまでも一緒だよ』
 言葉を交わしたわけではなかったけれど、確かにそれは約束だった。金色と黒のあいつと、自分は確かにそう約束していた。
 果たせなかった約束。守れなかった、大切な存在。腕の中で冷えていった温もりを、今でも覚えている。
 取り戻したい。取り戻さなくてはならない。あいつを死の国から呼び戻したい。その力だって、きっと手に入れられる。
 纏った毛皮をぎゅっと握りしめ、身を翻した。立ち止まっている暇など、ないのだから。

【手探り:X神】
「今度は何やらかしたんだよ?」
「お前には関係ないだろ」
 むくれて答えるちっぽけな神には、その無様な傷の理由を説明するつもりはさらさらないらしい。どうせまた、手当たり次第に得体の知れない魔術を試して、失敗したのだろう。
 他の神々から見て盗んでは、見様見真似に、手探りに。そこまでしてこいつが何を求めているのかなど、ショロトルの知ったことではない。呆れて溜息を吐くと、我が物顔で寛ぐそいつが不満げに声を上げた。
「ぼーっとしてないで、布でも貸してよ。傷を覆うんだから」

【懐かしい匂い:青年神】
 獣達と遊ぶのは好きだ。懐かしい匂いに包まれて、とても安心した気持ちになるから。
 自分が弱かったせいで失ってしまった、金色と黒のあいつ。取り戻す手立てはまだ見つけられていないけれど、必ず見つかる筈なのだ。
 その覚悟を忘れた日などないけれど、誰もあいつの代わりになんてなれないけれど。時々森を訪れて獣達と触れ合わないでは、どうしてもいられない。
 獣達の温もりと香りに触れて、何度でも決意を新たにしよう。必ず、あいつを取り戻すと。

〈≪変わらない笑顔、誰もいない神殿、アホロートル≫
をテーマに創作してください
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【変わらない笑顔:X神】
「何の用だ」
「挨拶がそれかよ」
 ちっぽけだった頃から今に至るまで、一貫してこの夜の神は生意気だ。呆れながら咎めてやっても、そいつは気にした様子もなかった。もうこちらを見ることもなくまた絵文書に目を落としてしまうので、ショロトルも何とは無しに歩み寄って覗き込む。
「何見てんだよ?」
「一目で分からない者に説明するほど、私は暇ではない」

「暇だから見てたんだろ」
 馬鹿にした笑顔で尚も生意気なことを言ってよこすので、苛立つことも億劫だ。よほど暇を持て余していなければ、そんなつまらない紙片をわざわざ読み込んだりなどしないくせに。
 呆れながらその手から紙を取り上げて放り出し、その体を引き寄せる。夜の神は当然のように受け入れて、満足げに笑んだ。
 この生意気で傲慢な笑みも、今も昔も変わらない。何とは無しにそう考えながら、同じ唇に噛みついた。

【誰もいない神殿:X神】
 主を失ったばかりの神殿に、ショロトルは立ち寄ってみた。二度とこの地に戻らない兄弟神のためのものだった、その建物を。
 神官も巫女も既に去った、冷え切った虚ろな石造り。外壁の鮮やかな色さえ、今や空々しい。いずれ容易く朽ち果て、崩れ落ちるだろう。
 善良ぶった、いけすかない風の神。二度と顔を見なくて済むのはショロトルにとっては清々するばかりで、憐憫も同情も全く胸に浮かばない。
 ふんと鼻で笑い、未練もなくその場を後にする。もう風の神のことも忘れていた。

【アホロートル:X神】
 何度か姿を変えたショロトルが最後に身を潜めたのは、水の中だった。ぐにゃぐにゃした獣達と同じ姿を取り、その中に紛れる。
 新参のショロトルを、能天気な獣達はあっさりと受け入れた。仮にも一柱の神がここにいることにさえ、気づいていないのかもしれなかった。
 呆れるほどの愚鈍さだが、その方が見つかりづらいだろう。そう考えて安心して寛いでいたショロトルの耳に、獣達の会話が飛び込んできた。
『神々が、神々の心臓を捧げているよ』

『たくさんの神々が、心臓を捧げてるよ』
『新しい太陽が、欲しがっていたからね』
 そうだ、だから自分はここに来たんだ。目を閉じて寛いだまま、ショロトルは胸の中で呟いた。
 貪欲で傲慢な新たな太陽が、心臓を欲したりなどするから。そして愚かしい他の神々が、太陽のために自らを生贄にしようなどと結論付けるから。そんな馬鹿馬鹿しいことには付き合いきれないから、ショロトルは何度も姿を変えたり、こうして水の中になど身を潜めたりする羽目になったのだ。

 だから、自分は戻ったりなどしない。連れ戻しに来るならば戦いも辞さない。そう決めて、もう獣達の会話は無視することにしたのに。
『最初の太陽は、まだ残っているね』
『もうすぐ、彼の番になるね』
 その言葉に、どうして目を開けてしまったのか。ショロトル自身でも、説明付けられなかった。
 誰よりも早く太陽の座についた、あの生意気な青年神。ちっぽけだった頃からずっと態度が大きくて、ショロトルの言うことを全く聞かなくて、そのくせ知りたいことを教えろとせっついてきて。
 あんな奴など、どうでも良い筈なのに。何故、生意気な笑顔がちらつくのだろう。

【瞳に射抜かれる:戦士】
「面を上げよ」
 ぴしりと命じられ、恐る恐る顔を上げた。崇敬する主神の、美しい御顔を見上げた。
 真っ直ぐで揺るぎない瞳に射抜かれる。全てを見透かすような、その美しい眼。
 いいや、この主神は確かに、全てを見通しておられるのだ。この胸に宿る、不埒で身の程知らずな想いまでも。
 けれど、それを認めてしまうわけにはいかない。このような罪深い想いを、自らに許すわけにはいかない。己を戒めながら、美しい双眸を見上げていた。

【壊れ物:青年神】
 久しぶりに身につけようとした飾りが、手の中でほろりと砕けた。そのことを、少しだけ残念に思う。
 形あるものは必ず壊れる。美しいものも醜いものも、何も永遠ではない。それは運命でさえない、当然で確かなことだ。
 どんなに大切にしても、いつか壊れてしまう。瓦解してしまう日は必ず来る。ならば、何も愛さないほうが心安らかなのだろう。
 考えながら、壊れた飾りを放り出す。早く代わりを見つけなければ。

〈≪悲しみの夜、あの日の記憶、君がいない季節≫
をテーマに創作してください
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【悲しみの夜:Q神】
 誰の顔も見たくない、ひどく気の塞ぐ夜だった。誰も取り次ぐなと神官達に命じてあったというのに、図々しいこの青年神はどこから入り込んできたのだろう。
「出ていってくれないか?」
「何、そんな辛気臭い顔して」
 冷たく言い捨ててやっても臆す様子さえなく、笑いながら顔に触れようとしてくる。苛立って手を払い除けると、忌まわしい青年神は気にする様子もなく笑い声を立てた。

「何だよ、随分な態度だな。せっかく来てやったのに」
「出ていけと言ったろう?」
 いっそ腕尽くで追い出してやろうかと考えながら、もう一度だけ警告してやる。だが青年神は一顧だにせず、ただ笑ってすとんと腰を下ろしてしまった。かっとなったケツァルコアトルが怒鳴りつける前に、さらりとした声が投げかけられる。
「悲しいんだろ。そんな顔してる」
「っ、」

 言い当てられて、思わず息を呑む。取り繕う前に、青年神の優しげな声が被せられた。
「可哀想に。手の届かないものが、そんなに恋しい?」
 もう決して手に入らないのにね。柔らかな声で囁きながら、青年神が身を寄せてくる。拒むことも忘れ、見つめていた。
 そっと膝に置かれた手から、じんわりと温もりが肌に染み込む。甘い甘い声が、耳に吹き込まれた。
「僕が、慰めてやるよ」
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