蛇と鏡の誰そ彼刻

水笛流羽(みずぶえ・るう)

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蛇鏡SSまとめ6(2020年10月)

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【石と折檻:X神】
 ショロトルがふらりと訪れたその日、幾つもの役割を持つ夜の神は「石と折檻の神」としての役目を終えて神殿に戻ってきたばかりらしかった。気配に気付いてか振り向いたそいつの目元には、まだきつく目隠しが巻かれていた。
「……ショロトルか。何だ。」
 無関心な響きで投げかけられた問い掛けに、ショロトルは僅かに驚いて眉を上げた。目隠しをしたままで、よくぞ相手が誰だか分かったものだ。足音か、匂いか、そうした些細な情報からでも推測したのだろう。

「今日はどんな罪人だって?」
「妻殺しの男だ。次の夜が明ける前に処刑される。」
「そーかよ。」
 聞いてはみたものの、ショロトルとしてはそんな事にはさしたる興味もない。まだ目隠しを取らない「折檻の神」もそれを見透かしたらしく呆れた顔をしたが、何も言わなかった。
 何も見えないままでは随分と不便だろうが、目隠しを外さないのはそいつ自身だ。ショロトルが指摘してやることでもない。

 だからショロトルは遠慮なく「折檻の神」に歩み寄り、その腰を引き寄せた。驚いた様子もなく受け入れるそいつの耳元に顔を寄せ、わざと甘い声で囁いてやる。
「抱かせろよ。」
「……お前はそればかりだな。」
 馬鹿にしたように笑うその神も、拒絶する素振りさえ見せない。部屋の隅に既に設えられていた寝床へ導いてやりながら、ショロトルは気軽に詰った。
「似たようなもんだろ、お前こそ。」

「私はお前のようには、発情してばかりいない。」
「させる側だからだろ、雌犬だからな。」
「誘惑される者が愚かなのだ。」
 悪びれた様子もなく答えるその神を、ショロトルは寝具の上に組み敷いた。まだ目隠しをしたままのそいつはやはり拒否する様子さえ見せずに受け入れ、まるで見えているかのようにショロトルの衣服を緩め始める。従順な様子に喉の奥で笑って、ショロトルもそいつの装束に手を掛けることにした。

〈≪リュウゼツラン、もう戻れない、悪夢≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【リュウゼツラン:X神】
竜舌蘭のナワトル語での呼び名が、文中の「メトル」です。

 ショロトルが訪れたとき、夜の神は何やら慎重な手付きで小さな無数の品物を確かめているところだった。顔も上げない無礼な態度に呆れながら、そいつの手元を覗き込んてみる。
 鉢に溢れんばかりに入っているのは、数えきれないほどのメトルの棘だった。夜の神はどうやら、それらを丹念に選り分けているらしい。
「暗い。どけ。」
「挨拶がそれかよ。」
 反射的に咎めたはものの、不遜な態度はいつものことだ。そいつの手元に影が落ちない場所に腰を下ろして、ショロトルは何とは無しにその横顔を眺めた。

 嫌味なほど端正なつくりの顔立ちは、この夜の神が今よりもずっとちっぽけだった頃の面影を残している。いつの間にかその顔に常に漂うようになった傲慢な笑みも、今だけは影を潜めている。
 小さな棘に注がれる、真剣な眼差し。丹念にそれらを選別する指先の、繊細な動き。共寝をする相手の肌に触れるときのほうが、よほど粗雑な動作をしているかもしれない。肌に残っているかもしれない記憶を辿ろうとしたが、そうするまでもないなと思い直してやめた。

 まだ顔を上げない夜の神は、ショロトルに注意を払うつもりは今のところは全く無いような様子をしている。だが追い帰されないということは、その作業が終わればショロトルに身を任せるつもりでもいる筈だ。こいつは、そうした性格だから。
 ならば仕方がないが、待ってやるのもやぶさかではない。尤も、待たされたことの報いは受けさせてやるが。胸の内で密やかに笑い、ショロトルは座り直して腰を落ち着けた。

【もう戻れない:少年神】
 目覚めて、それが夢だったことを知る。途端に、抑えきれない涙がこみ上げてきた。
 声を殺して嗚咽する。必死で涙を止めようとする。こんな深い森の中では誰にも聞き咎められはしないと、知っているけれど。
 今では夢でしか会えない、大好きだったあいつ。金と黒の毛皮、きらきら光る優しい眼、大きな体の温もり。全てが恋しくて、届かなくて、苦しくて、堪らなく寂しくて。
 全てが輝いていた、遠い遠い時。もう二度と戻れない。誰も過去には帰れない。

 だから、前に進まなくてはならない。失われた温もりを取り戻すために、その手立てを見つけ出すために。泣いている暇など、自分にはないのだ。
 最後の涙を拭って、体を起こす。心配そうに集まってきていた獣たちに、大丈夫だよと笑って見せた。
 大丈夫。大丈夫。必ずあいつを取り戻せる。自分さえ強くあれば、必ず叶う。
 だから、大丈夫だ。

【悪夢:Q神】
 目を覚まして、美しかったそれの何もかもが夢であったことをやっと理解する。途端に胸に湧き起こった嵐のような感情を、ケツァルコアトルは必死で鎮めようとした。
 もはや思い描くことさえも叶わなくなった、遥か遠い面影。二度とこの手は届かない、きらきらと輝くようだった少年神の姿。
 朧なその輝きは、眠りの中でだけは鮮やかな像を結ぶ。嬉しげにケツァルコアトルに笑いかけ、すんなりとした手を差し伸べて、愛らしい声で呼びかける。

 その光明はとうの昔に、あの淫らで残忍な神自身によって穢されてしまったのに。水晶のようだったあの煌めきは、既に枯れ落ち散り果てて、粉々に砕け散ったのに。
 ただその幻影だけが、虚ろな谺の響きだけが、ケツァルコアトルの眠りを未練がましく彷徨う。既に潰えたと知っている幻が、今でもケツァルコアトルの胸を掻き乱す。
 もう決してこの手の届かない、輝かしくも遠い記憶。叶わぬ夢など、悪夢でしかない。

【桜さん(@skr_original ) #一次創作企画_あなたの恋人が大変です 目撃者:受けさん】第1話ラスト後
 こんな場面を恋人に見られては、言い訳のしようもない。彼が来てくれる前に、何としてでも追い払わなければ。だが冷や汗をかきながら悪戦苦闘していたとき、無情にもその美しい声は響いた。
「待たせたな」
 気軽に笑う恋人はとても美しいから、しつこく声をかけてきていた不躾な女達でさえも息を飲む。その間に恋人は、当たり前のように手を取って連れ出してくれた。
 平静そうな、ごく落ち着いた態度。何も言わずに導いてくれる、自然な足取り。

 だが、彼が怒っていない筈がない。手を引かれながら、慌てて言葉を探した。
「いや、あの、誤解しないでくれ、あれは、」
「……何だ。言い訳でもあるのか」
 やっとこちらを見てくれた恋人は、予想に反して悪戯な笑みを浮かべていた。面白がるように笑い声を立てる。
「お前が私に骨抜きなことくらい、とうに知っている」
 明るい笑い声の中に、揺るぎない自信と確かに向けてくれる信頼を感じる。また深く彼に惚れ込んでしまった自分を自覚しながら、彼の手を握り直した。
「降参だよ」

〈≪「大嫌い」、空を仰ぐ、プルケ≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【「大嫌い」A:Q神】「其は音もなく生まれ落つ」以前
 散々に乱れ喘いで満足したらしい淫らな夜の神は、まるで未練もない様子で帰り支度をしている。早く出ていけばいいと思いながら、ケツァルコアトルは努めてその気配から意識を逸らしていた。
 うっかりして急かすような視線でも向ければ、底意地の悪い夜の神はわざと長々と居座るのだろう。それをよく知っているケツァルコアトルは、あえて目もくれずにいたのに。
 何を思ったか、夜の神が身支度の手を止める気配。そして、吐息だけで笑う声。

 何が可笑しいというのだ。不快な思いが胸を満たし、つい視線を向けてしまった。一層不愉快な思いをさせられると、分かりきっていたのに。
「相変わらず、冷たいものだな。共寝の相手を、こうもすげなく追い払うとは」
「……呼んでもいないのに、押しかけてきたのは、君だろう?」
 地を這うような声で指摘してやっても、厚かましい夜の神には臆した様子さえない。ふふんと鼻で笑い飛ばし、これ見よがしに後れ毛をかき上げる。

 その肩口に残る、ケツァルコアトル自身が刻んでしまった歯形。罪の証を見せつけるような仕草に苛立つ。
 安い挑発など、乗ってやる必要もない。そう自分に言い聞かせても、不快感は拭えない。無理矢理に視線を引き剥がして、ケツァルコアトルは苛立ちの息を吐いた。
「私は、君が嫌いだよ」
 吐き捨ててやっても、厚顔無恥なその神は傷ついた顔ひとつ見せない。残忍な夜の神はただ、艶やかに笑ってみせた。
「珍しく、気が合ったな。私も貴様が嫌いだ」

【桜さん(@skr_original ) #一次創作企画_あなたの恋人が大変です 目撃者:攻めさん】第1話ラスト後
 今日は恋人との待ち合わせ、久々のデートだ。天気にも恵まれた、美しい日。
 だが、浮き立っていた心が一気に不快な気分に落ち込む。待ち合わせ場所に先に来てくれていた彼が、見知らぬ男に言い寄られていたから。
 その男は馴れ馴れしく彼の肩に手をかけ、何やら盛んにかき口説いている。そんなつまらない男には全く関心を払っていない彼の様子にも、気付きもせずに。
 退屈そうな顔で男の声を聞き流していた彼が、ふとこちらに目を向けた。隠れる間もなく、目が合う。

 ぱっと笑顔を花開かせ、彼がこちらに足を踏み出そうとする。その時になって漸く肩に回されていた腕に気付いたような顔をして、彼はそれを邪魔そうに払い落とした。
「遅かったではないか。待ちくたびれた」
「……待たせて悪かったね」
 駆け寄ってきて嬉しげに笑う彼はとても愛らしく美しいが、不埒な手に触られるがままだったことは咎めなくてはならない。だから、苦言を呈そうとしたのだが。

「どうした。早く行くぞ」
「……うん、そうだね」
 綺麗な笑顔で手を引いてくれる彼があまりに愛らしいから、もう何も言えない。もう言葉が出てこない。
 せめて、置き去りにした男には見せつけてやろう。彼はこの自分のものだと、はっきりと分からせてやろう。そう決めて、さりげなく恋人の肩を抱き寄せることにした。
「おい。歩きにくい」
「少しだけ」

【桜(@skr_original )様 #創作BL_NL企画_喜怒哀楽 「喜」】*第1話ラスト後
「待ちくたびれたぞ」
「うん、ごめんよ」
 大袈裟に不満げな顔をして見せるのは、この恋人なりの甘えだ。それが証拠に、謝って見せればすぐに機嫌を直して綺麗な笑顔を見せてくれる。
「今日は荷物が多いのだな」
「うん、ちょっとね」
 目敏く指摘されて、内心冷や汗をかきながら誤魔化した。それ以上に踏み込まれては困るとひやひやしたが、運良く恋人はさほど興味を惹かれなかったらしい。
「まあいい、行くぞ。今日は何をする?」
「とりあえず、昼食に行こうか。何が食べたい?」
 何気ないやりとりをしながら、胸を撫で下ろした。鞄に隠した贈り物のことは、まだ気付かれるわけにはいかない。驚き喜んでくれる可愛らしい顔を、見せてもらうまでは。

【桜(@skr_original )様 #創作BL_NL企画_喜怒哀楽 「驚」】*「喜」続き、第1話ラスト後
 目星をつけていた雰囲気の良いバーに二人で入って、窓辺のペアシートに腰を下ろして。そこまでは、計画通りだったのだ。
 恋人を驚かせ喜ばせるはずだったのに、何故こうなったのか。何故、自分の方が驚かされ、狼狽しているのか。回らない頭で考えても、とんと分からない。
「……いつから気づいていたんだい?」
「私を出し抜こうなど、千年早い」
「……返す言葉もないよ」
 そうだ、この恋人はとても聡明で勘も働くのだ。隠し果せると思った自分が甘かった。自信に満ちた美しい笑顔の前に、がっくりと肩を落とすほかない。
 項垂れていると、恋人が軽く肩に凭れてきた。目を向けると、柔らかで綺麗な笑顔にぶつかる。
「お前の手で、着けてはくれないのか?」
 甘い声で促されては、もう拗ねて見せることもできない。敵わないなと苦笑しながら、渡したばかりの装身具を手に取った。

【「大嫌い」B:Q神】「恋し恋しと忍びて泣けど」以後
 今夜も許しも得ずに入り込んできた、不遜な夜の神。お望み通り組み敷いてやりながら、軽い口調で言い捨てた。
「私は、君が嫌いだよ」
「この点だけは、気が合うようだな。私も貴様が嫌いだ」
 軽やかな侮蔑の言葉を交わして、互いへの軽蔑を込めた甘い笑みを交換して。何とは無しに唇を重ねてみようとしたが、嫌そうに顔を背けられた。
「つれないね」
「無駄なことをするな。早く、私を満足させろ」

 言い放つ夜の神の傲慢な態度は咎めてやってもいいほどのものだが、ケツァルコアトルとしても少しばかり焦れ始めていた。嫌がらせをしてやるのは、自分が欲求を満たした後でもいいだろう。
「本当に浅ましい雌犬だね。昨夜だって、どうせ誰か哀れな犠牲者を咥え込んだんだろう?」
「それが何だ。気になるとでも?」
「まさか。君が節操なしの淫乱だということくらい、誰もがとっくに知っているよ。今更、何も驚きはしないね」

 言葉遊びを続けながら脚を開かせ、熱く狭い場所に指を忍び込ませる。甘えた吐息を漏らした夜の神が、淫らで凶暴な光を宿した眼で見上げてきた。
「他の誰とも、何もなかった。……そう言って、貴様は信じるか?」
「信じてもらえるとでも、思っているのかい?」
 くだらない戯言を笑い飛ばして、また指を増やす。嬌声を漏らした夜の神が、ほんの一瞬だけ切なげな瞳をした気がした。

【咲春(@skr_original )様「創作お題一覧表①」より「80.酔ったふり」 #創作用お題 #絵描きさんにも #お題一覧表】*第1話ラスト後
「この量で酔ったとでも?」
「君ほど強くないって、知ってるだろう?」
「まあな」
 ふふんと笑い、恋人は澄ました顔でまたグラスを傾ける。彼の端正な面差しは、薄暗いバーの照明では一層神秘的で美しい。だからその肩に軽く凭れてみたが、ぴしりと額を弾かれた。
「酔ったふりをせねば、甘えられぬのか?」
「……お見通しだね」
 申告が大げさなものだったことまで見抜かれては、白旗を揚げるしかない。不貞腐れて見せることもできずに、自分のグラスに手を伸ばす。
 だがその時、彼の指がするりと手の甲を撫でた。目を向けると、甘く艶やかな笑みが、思うより近くにあって。
「私も少し『酔った』ようだ。二人になれる場所に行きたい」

【「大嫌い」C:Q神】「恋し恋しと忍びて泣けど」以後
 また、遠い面影の夢を見た。けれどその夜の夢は、常の甘い悪夢とははっきりと異なっていた。
 常の夢の中では嬉しげな笑みを惜しげもなく花開かせる、その少年神。常の夢の中で、その清らかな声は甘い響きでこの名を呼ぶ。
 だというのにその夜は、あどけないかんばせは拒絶をありありと浮かべてケツァルコアトルに向けられた。愛らしい唇をきゅっと引き結んで、大きな瞳に責めるような色を宿して、少年神はケツァルコアトルを見つめた。

『どうしたんだい?』
 堪らなくなって、ケツァルコアトルは尋ねた。抱き締めて宥めようと、手を伸ばした。
 目覚めれば苦い後悔だけが残ると知っていても、ケツァルコアトルはこの少年神に笑ってほしかった。虚ろな幻でしかないと理解していても、彼にそんな悲しい表情をさせたくなかった。
 だがケツァルコアトルの伸ばした手を避けるように、少年神は一歩下がった。相変わらず貝のように押し黙ったままに、険しい沈黙でケツァルコアトルを責め続けたままに。

 一体どうしたというのだ。なぜ彼は、常のように笑ってはくれないのだ。なぜその愛らしい声は、ケツァルコアトルの名を呼ぼうとしないのだ。
 困惑するケツァルコアトルをじっと見上げた少年神が、引き結ばれていた唇を少しだけ解いた。そのことに僅かに安堵したケツァルコアトルに、少年神は短くも明瞭な声を投げつけた。
『嫌い』
 投げ渡された言葉は、あまりにも明瞭な拒絶だった。常は嬉しげにケツァルコアトルに甘え、ケツァルコアトルへの好意を囁き、もう離れないでと囀る同じ声が、冷たく硬質な響きで投げかけられた。

 衝撃を受けるというよりも当惑したケツァルコアトルを、少年神はやはり責めるように見上げた。ひと呼吸おいて、もう一度口を開く。
『僕を好きになってくれない貴方なんか、嫌い』
 今度は言葉の繋がりを持って、投げかけられた声。だがそれは、ケツァルコアトルには全く理解のできないものだった。
 彼は一体、何を言っているのだろう。ケツァルコアトルの胸に宿る彼への温かな感情を、彼が知らない筈はないのに。

『好きだよ。とても大切に思っている』
『嘘吐き』
 優しく言い含めようとした言葉を、硬い声が切り捨てた。ケツァルコアトルの言葉を全く信じていない、頭ごなしに否定する、斬りつけるようなその声。
 だが彼が何と言おうと、それは嘘ではないのだ。確かにそれは真実なのだ。それを、どうにかして分かってもらわなくてはならない。
 しかしケツァルコアトルがもう一度言葉を重ねるよりも早く、少年神の険しい瞳が不意に潤んだ。大きな瞳に涙が盛り上がり、蒼白な頬を伝い落ちる。

『……貴方が、欲しがってるのは。今の僕じゃない』
 切なげに泣き始めた少年神に不意を突かれ、ケツァルコアトルは狼狽した。何とか落ち着かせようと、拒絶された手をもう一度伸ばした。
 しゃくりあげる少年神の薄い肩に、指先が触れて。その儚い温度と小刻みな震えを、確かにこの手は感じて。ほんの僅かの間だけ、泣き濡れた瞳と目が合って。
 その瞬間に、全てが弾けて消えた。

〈≪「大嫌い」、空を仰ぐ、プルケ≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【空を仰ぐ:X神】
 些か遅くなってしまったから、暗くなるまでに神殿に帰り着けるかも分かったものではない。おまけに雨まで降りそうだと、歩きながら空を仰いだショロトルは舌打ちをした。
 それもこれも、あんな場所でいけすかない兄弟神と出くわしたせいだ。お陰で予定外に時間を食ってしまったではないか。
 もう一度舌打ちをして足を早めた時、また思いがけない場所に思いがけない相手がいることに気付いた。相手もこちらに気付いて立ち止まるので、仕方なく声をかける。

「何やってんだよ?」
「私の勝手だ」
 生意気な夜の神にはまともに答える気がないようだが、どうせろくな用事ではないだろう。こいつが日の暮れ切る前に出歩いているのは珍しくはあるが、全く無いことではない。
 呆れて溜息を吐き、もう無視しようとまた歩き出す。だが最後に肩越しに振り返って、忠告を投げかけてやった。
「あっちは行かねえ方がいいんじゃねえの? 雨の神どもが遊ぶ前だからな」

〈≪「大嫌い」、空を仰ぐ、プルケ≫
#アステカ神話創作お題めーかー #shindanmaker
https://shindanmaker.com/1022145〉
【プルケ(オクトリ):X神】
・メキシコ高原ではプルケを「イスタク・オクトリ(白い酒)」と呼ぶとかなんとかです。

 伸びてきた手に盃を奪われ、ショロトルは顔を顰めた。睨んでやっても、手の持ち主はどこ吹く風で奪い取った盃に口を付けている。
「勝手に飲んでんじゃねえよ」
「訪ねてやっているのに、もてなしもしないお前が悪い」
 悪びれた様子も見せない夜の神から盃を奪い返したが、既に空にされていた。ちっと舌打ちをして、また注ごうと水差しに手を伸ばす。
 だがその前に、夜の神がしなだれかかってきた。淫らな目をしてじっと見つめてくる。

 だが、無言の誘いにただ乗ってやるのも癪だ。だから相手にせず、鼻で笑ってやった。
「んだよ、これしきで酔ったってか?」
「そうだと言ったら?」
「嘘吐け」
 すげなく答えながらも、それも悪くはないかとショロトルも思い始めている。眠りの訪れない夜の過ごし方としては、まあ悪くはない。
 だから奪い返した盃を床に置いて、淫らに笑む夜の神を向き直らせて。そして、オクトリの味のする唇に噛み付くことにした。
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