【R18】無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる

後日談

後日談8 妻は夫の子どもが欲しい（中編）⑤※

「フィオ……身体は大丈夫か？」

「はい……大丈夫です、デュラン様」

　ベッドの上で、生まれたままの姿にさせられたフィオーレは、夫にふんわりと笑った。デュランダルは腕に抱いた妻の額にちゅっと口づける。
　結局、シュタールとラピスが山を下った後も、夫婦はずっと愛し合っていた。
　夕暮れ時になり、辺りは橙色から藍色へと染まりつつある。窓からひんやりとした風とともに、森の爽やかな香りが届いて、二人を包み込んだ。

「シュタール達が言った通り、体力はまだあり余ってるが、お前の身体が心配だ――少し休むとするか――」

　夫が妻に口づけた、その時――。

「デュラン様――」

――デュランダルが胸を抑えて呻きはじめる。

「ああ、くそっ……！　もう新月じゃねぇかよ……！」

　フィオーレの目の前で、藍色の竜へと、夫は変化していく。
　慌てて彼は、窓の外に飛び出た。
　完全な竜の姿になったデュランダルは、平素のように妻を置いて羽ばたこうとしたのだが――。

「待ってください、デュラン様――！」

　巨大な鱗に覆われた夫の羽根に、フィオーレは抱きついた。

『どうした、フィオ？』

　夫は妻に問いかける。

『フィオ、あんまりくっつかないでくれ――新月だから、人間の姿には戻れねぇ――頼むから離れてくれ――』

　切ない口調で、デュランダルは呟いた。

（デュランダル様は、竜の姿のままの自分じゃ、私を愛してはいけないと思っている――）

　一年前、竜になった夫を拒絶した過去を持つフィオーレ。
　竜嫌いだった妻に対して気を遣って、いつも洞窟に夫は逃げようとする。最近、竜の姿の彼とも触れ合うようにはなった。だが、どうしても竜の姿の時のデュランダルは、妻に対して遠慮がちなのだ――。

『聞いてんのか？　フィオ――』

　彼から、彼女は離れようとはしない。

（確かに竜は怖かったし嫌いだった――ううん、むしろ今も竜のことは嫌いだわ――でも、デュランダル様なら、竜でも人間でも、私は構わない――）

　きゅっと口を結ぶと、フィオーレは夫の巨大な紫色の瞳を見つめた。

「デュラン様、お願いがあるんです――」

『ああ？　なんだ？　――俺がお前に発情しきる前に、早く言ってくれ――』

　竜姿のデュランダルはそう言った。
　そうして――フィオーレは黄金の瞳を潤ませながら、夫に願いを告げた。


「竜の姿のデュランダル様に――私を、抱いてほしいんです――今日を、竜のデュランダル様との初夜にしたい……です」

「ああ――――？」

　あまりの直球な妻の発言に、竜の姿の夫は戸惑ったのだった――。