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後日談

後日談1 竜から戻れなくなった夫(前編)②

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 竜の姿のデュランダルが到着したのは、山の麓近くにある洞窟だった。
 大きな洞であり、竜であるデュランダルもゆったりと休めるほどの広さをしている。中は綺麗に整備されており、外から土の匂いがするぐらいでカビっぽさはない。
 外ではざあざあと雨が降っており、洞窟の中に少しだけ雨粒が侵入してきていた。

 洞窟の少し先には、大きな建物がそびえたっている。
 木造の柱に、漆喰やレンガで出来た壁で出来た屋敷――。

(こんな人里離れた場所に、すごく大きい木造の家……温かみのあるブラウン色で、なんとなく可愛らしくて……まさか……でも、以前住んでいたお屋敷よりも小さいって言ってなかった……?)

 びしょ濡れになってしまったフィオーレは、亜麻色の髪から雨水を絞りながらそんなことを考えていた。濡れた髪や藍色のドレスから雫が落ちて、ぽたぽたと岩肌を濡らしていく。
 洞窟の奥深く、暗闇の中へと彼女が視線を移す。

(そう言えば、デュランダル様、何をやっているのかしら?)

 どうやら奥で、夫はいそいそと何かに励んでいるようだった。
 フィオーレは、何かをやっている彼の元に向かう。
 どうやら、夫は藁を高く積み上げているようだった。

「デュランダル様、藁をどうするんですか?」

 すると、喋れない夫が唸り声を上げる。

『フィオが休める場所を確保してるんだよ。本当は、お前だけでも新居に降ろしたかったが、あいにくの雨だ。鍵も洞窟に置いてたし、先にこっちに寄ったんだよ』

「やっぱり、あの大きな建物が新居なんですね……!」

『ああ、そうだ。雨が止んだら、お前だけでも屋敷に連れて行ってやるから。俺が人の姿に戻るには、もう少し時間が必要みてぇだしな』

 フィオーレはふと気になったことをデュランダルに尋ねてみることにした。

「元のお屋敷は没収されちゃったんですか?」

『いや、元の屋敷は、カエルラに管理してもらってる』

 以前の屋敷が無事だと分かって、フォーレはほっとする。
 着の身着のままで屋敷を飛び出したので、心配していたのだった。

(そういえば……)

 ふと、フィオーレは気になったことを夫に尋ねてみる。

「デュランダル様、あんな山の中に、わざわざ新居を作ってもらったんですか? 頼まれた建築士の人たちも大変そうですよね……?」

『いや――そうでもない』

 妻の問いを夫は即座に否定した。

 そして返ってきた答えに、フィオーレは驚いてしまう。


『あの屋敷は、シデラスのじいさんが書いてた設計図なんかを見て俺が作ったんだ。業者は別に何もしてねぇ』


 一瞬、フィオーレは夫が何を言ったのか分からなかった。

 少しだけ、頭の中を整理する。

(んんっ――!?)


「――デュランダル様が作ったんですか――!? あの屋敷を――!? 設計図を見ただけで!?」


『ああ、大体のことは、見たり読んだりしたら、何でも出来るって、前に教えただろう……昔の屋敷より小さなもんだが、新しい俺たちの住まいとしては悪くないだろう?』


 竜の姿のデュランダルは、誇らしげに鳴いた。


(ふえええっ……デュランダル様、なんでも出来ちゃう! そういえば、よく土を掘ったり木を立てたりする戦術を考えてるって言ってたし……土木を扱いなれてるのね……! 本職の建築士さんたちも真っ青だわ……!)


 将軍時代、それこそ派手だと言われていたデュランダルだが、愚王と言われる兄よりも自身を愚かに見せるため、大げさに振舞っていたところがある。
 確かに見ただけで何でも出来る逸材が王族にいるとなれば、王位に関してデュランダルを推そうとする輩が出てきていてもおかしくはなかっただろう。


『将軍時代の貯金はまだあるんだが、いつ何があるか分からないし、自給自足できる分は自分でな……フィオが楽に暮らせるようにしてぇんだよ、俺は』


 そう唸ると、藍色の竜の鼻先がフィオーレの頬をくすぐった。

(デュランダル様は、口は悪いし態度は粗野だけど、やっぱり本質としては真面目な人……)

 竜がじゃれてくるので、彼女の亜麻色の髪がふわふわと揺れる。

「デュランダル様、すごいです……」

 彼の鼻先に手を添え、微笑んだフィオーレ。

 彼女に向かって、すり寄っていたデュランダルだったが――。

 ――す、と彼女から離れてしまった。

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