【R18】無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる

第8章 将軍夫婦の結末

第70話 将軍デュランダル・エスト・グランテ4

　王太后と入れ替わりで、前国王ジョワユースが、オリヴィエに引きずられてくる。
　ジョワユースの肩は、白い布で止血が施されていた。
　
　オリヴィエが口を開く。


「前国王ジョワユースを連れてまいりました」


　そうして、オリヴィエからデュランダルへと、ジョワユースが引き渡される。

　かつて王だった男は、ぽつりと呟いた。

「そうか……いつか、もしかしたら、こうなるかもしれないって思っていたんだ――僕はどう考えても、王の器じゃなかった――だけど――」

　そうしてジョワユースは続ける。

「誰かに愛されたかったんだ。母ですら、僕を自身の権力のために利用できる存在だとしか見てくれなかった。王妃も僕を見てはくれなかった。愛妾の多くも、見せかけの王位にすり寄ってくるだけだ。そんな僕でも、デュランダル――君だけは、僕に優しかったね」

「兄貴……それは違う……優しかったのは、兄貴の方だ――俺は兄貴に何もしてこなかった――」

「デュランダルが、僕のために自分を悪く見せてたことにも、ずっと気づいていたんだ……迷惑をかけてきた実の弟に殺されるのも、悪くはないかな……さあ、僕は母さんみたいな目に合うのは怖いや――ここで殺してくれないか？　デュランダル――」

　ジョワユースは寂しげに笑った。


　彼らの後ろ控えていた騎士達がいきりたつ。


「デュランダル様！　はやくそいつを殺しましょう！」

「王太后を抑えられなかった愚王が――――!」

「殺せ！　殺せ！　新たな国に不要な者は殺してしまえ！」


　いつの間にか、謁見の間には、興奮した騎士達が押し寄せて来ていた。

　ジョワユースを殺せという叫びが、頑丈な王城を揺らすほどに轟き始める。


「将軍、はやく！」

「デュランダル様、はやく――!」

「兄を殺せないというのなら、将軍に代わって我々がその愚者を殺して差し上げます！」


　兄に対峙するデュランダルは、拳を強く握りしめる。

　そうして、彼は近くにいる騎士達に向かって、静かに告げた。



「お前たち、最後の命令だ――シュタールとオリヴィエの言うことをよく聞いて、この国の発展に貢献しろ――」



　歓喜に湧いていた騎士達だが、上司の『最後』という言葉を聞いて、ざわつき始める。

　オリヴィエも怪訝な表情を浮かべながら、将軍デュランダルに声をかけた。

「将軍、いったいどういう意味ですか――？」

　戻ってきていたエムジーも、こくりと首を縦に振る。


　――デュランダルは静かに答える。



「俺が……お前たちの王位簒奪に協力出来るのはここまでだ……」



　彼は、腰に差していた剣をすらりと抜いた。


　そうして、その切っ先を――。


「な……どうして、デュランダル……？」


　ジョワユースは狼狽する。


「将軍……！？」


　謁見の間に集結していた騎士達が、いっせいに色めき立った。


「なぜ……！？」


　ざわめきは周囲に拡がっていく――。


　そう、デュランダルは――この国の将軍は――。


「俺は、デュランダル・エスト・グランテ……」


　――前・国王ジョワユースをかばうように立ち――。


「エスト・グランテ王国国王ジョワユース・エスト・グランテの弟にして、国王に忠誠を誓い、王国の将軍を司る者――」


　かつての仲間たちへと剣を向けていたのだった――。


「王に仇なす者は、全て俺が――排除する――」