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第5章 家族のかたち

第39話 竜の血と聖女5

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 フィオーレとデュランダルが暮らす屋敷の玄関にて――。

「カエルラさん――!?」

 艶やかな瑠璃のような藍色の髪に、切れ長のマルーン色の瞳をした女性が立っている。
 フィオーレとデュランダルが新婚旅行先で訪れた村の住人であり、デュランダルと同じ色の髪を持った女性――カエルラが、二人の屋敷の玄関の前に立っていた。
 彼女は夫婦二人を見ると、ぺこりと頭を下げる。

「デュランダル様、フィオーレ様、村の一件では本当にありがとうございました」

 礼を言うカエルラの表情はやや硬いため、フィオーレは気になった。

「何かあったんですか? カエルラさん」

「フィオーレ様……実は――息子が王都に行きたいと言い、村から姿を消してしまったのです」

「ふええっ――!?」

(カエルラさんの息子さんって、まだすごく小さくなかったっけ? 一体どうやって、あの村から王都まで――?)

 不思議な声をあげるフィオーレの肩を抱き寄せながら、デュランダルはカエルラに問いかける。

「人さらいではないのか――?」

「いいえ。どうやら王都に用のある商人の馬車に一緒に乗っていったらしく――先ほど、その商人がいつも仕入れている商店へと向かってみたのですが、王都に着いてから息子とはぐれてしまったらしくて……」

 カエルラの美しい顔に陰りが見える。
 彼女のマルーン色の瞳に涙が溢れ始める。

「王都に頼れるものがおらず、お二人のことを思い出して、都の人たちにお二人の屋敷の場所を聞いて回って――あの子までいなくなってしまったら――私は――」

 泣き崩れる彼女へと、フィオーレはそっと近づいた。


(カエルラさんには、本来なら三人のお子さんがいるはず)


 三人と言うのは、現在王都で行方不明になっている少年、それに息子と娘が一名ずつだ。

 フィオーレは、藍色の短い髪をした夫の様子をちらりと見る。

(おそらく、デュランダル様はカエルラさんの最初のお子さんのはず……)

 そうしてもう一人――。

 以前、『私の娘も黄金の瞳をしていた』とカエルラが言っていたことを、フィオーレは思い出していた。
 
(推測ではあるけれど――)

 あれは、酒場で酔いつぶれていたデュランダルがフィオーレに愛の告白をしてきた帰り道での出来事だ。
 街路樹で行為にふけっていた二人の前に、宰相シュタールと共に現れた、藍色の長い髪に黄金の瞳を持った奴隷の少女。

(あの子がカエルラさんの娘さんなんじゃないかしら? そうだとしたら、デュランダル様の妹さんになるわけで……さすがにあの宰相シュタールさんが、そのことに気づかないわけはない気もするけれど……)

 つい癖でフィオーレは考え込んでしまったが――。

(まずは目の前の出来事に集中しなきゃ。カエルラさんの息子さんを探さなきゃ――)

 デュランダルの服の裾を、フィオーレはちょんちょんと引っ張った。

「デュランダル様、カエルラさんの息子さんを探してあげましょうよ――」

 苦虫を嚙み潰したような顔を、デュランダルは浮かべている。

(やっぱりまだ、デュランダル様の心中は複雑よね)

 いくら忘れたことがないと言われても、三十年近く離れていた母親の言葉を素直に受け入れられるようなデュランダルではなことは、フィオーレにはなんとなくだが分かる。
 眉根を寄せながら、彼は続けた。

「ああ? フィオの頼みなら仕方ねぇな――よし、エム、エルとエス呼んで来い――今から探しに――」



「デュランダル様……その必要はない……」



 その時、抑揚のない女性の声が、皆のいる玄関の前に響いた。


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