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第4章 結婚後の求婚

第33話 青焔の騎士は、無垢な花嫁に囚われる1

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 翌朝、フィオーレが目覚めると、そばにはデュランダルの姿はいなくなっていた。
 窓が少しだけ開いていて、朝の清涼感のある空気が入ってくる。
 彼女が身体を起こすと、白い肢体に亜麻色の緩やかな長い髪がはらりと落ちた。
 彼女のきめ細やかな肌から、掛け布が滑り落ちていく。
 
(デュランダル様……いない……)

 藍色の短い髪に、切れ長の紫色の瞳をした端正な顔立ちの夫の姿を、彼女は思い出した。

(なんだか、すごく辛そうな表情をなさっていたわ……結局誤解は解けなかった……)

 彼が帰ってきたら、今度こそ話し合いをしようと心に決めたフィオーレだったのだが――。


――その夜、デュランダルが屋敷に帰ってくることはなかった。



※※※



 結局、フィオーレのもとに、夫デュランダルが帰らない日々が数日間続いた。

 ――そうしてまた、別の問題も起きている。

 フィオーレは屋敷の玄関で、体格の良い騎士をはじめ、新婚旅行でも一緒に過ごしていた騎士三人に向かって矢継ぎ早に問いかけていた。

「エルグランドさん、どうして屋敷の外に出てはいけないんですか? デュランダル様から何の連絡もないのですが……そのお元気なのでしょうか?」

「フィオーレ姫……デュランダル様からは、『フィオーレを屋敷の外には出すな』の一点張りでして、我々も困っているのですよ。デュランダル様の健康事態に問題はないのですが――ただ――」

 体格の良い騎士は、エルグランドという名だと最近分かった。彼は汗を手巾で拭きながら答えていた。
 そこを、ひょろりと背の高い騎士が現れ、軽い口調で話を続けた。
 ちなみに、エムジーという名前だったらしい。


「いや、相当荒れてるんですって――フィオーレ姫が来る前、というかむしろそれ以上の荒れ具合ですよ! マジで近づいたら、殺されそうな感じです。最近は稽古も優しかったんだけどなぁ……」

 彼の後を、小柄な女騎士エスティマがぼそりと続けた。

「姫様……デュランダル様と、何かあった……?」


 フィオーレは逡巡する。

 彼女がデュランダルと結婚して、ひと月以上が経つ。
 この三人の騎士達が、屋敷の見張りになる機会が多く、旅行でも一緒だったこともあり、フィオーレにとっては、見知らぬ土地であるエスト・グランテの中での良い話し相手になっていた。
 デュランダル曰く、「腕は立つけど、社交性に問題のある三人組」と言っていたが、フィオーレとしては喋りやすい。彼らはよく、フィオーレにデュランダルの話を聞かせてくれる。

(この人たちになら、少しだけなら話しても良いかしら――?)

 デュランダルに迷惑が掛からない程度に、フィオーレは騎士三人に話してみることにした。

「その、実は、祖国オルビスにいる幼馴染に手紙を出したのですが……彼からの返信があって、そうしたら――」

 そこまで話すと、三人の騎士たちが声を合わせて叫んだ。


「それです!!!」
「それだ!!!!」
「それ……」


 結構な音量だったので、フィオーレは驚く。

「ふぇっ――? 皆さん、何か分かったんですか?」

 他の二人も、「なるほど」と口々に呟いていた。

(な、何――? 三人には分かるの?)

 エムジーが、絶妙な表情をしてフィオーレに続ける。

「まあ、あの人、女性経験が豊富なだけで、恋愛未経験者ですから仕方ないですよ!」

「デュランダル様……思い込んだら……激しいから……」

 エスティマが続けた後、エルグランドが話を継ぐ。

「原因がわかりましたので、ここは宰相シュタール様に相談しましょう。『指揮系統を無視するな』って、デュランダル様には叱られてしまいそうですが……彼に暴れられて、我々の職務に支障をきたしているとでもなんとでも言っておきましょう」

(わりと言ってること、むちゃくちゃなような……)

 だけど、屋敷から出れない手前、フィオーレとしてもどうしようもない。


「皆様、お願いします!」


 フィオーレは、異国の地で夫と話し合いの場を持つべく、三人の騎士に頭を下げる。


 三人からは恐れ多いと、フィオーレは頭をすぐにあげせられたのだった。



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