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第12話② この一件、一番得してるのはお兄ちゃんじゃないですか?
しおりを挟む彼は何も答えなかったが、しばらくすると、首を縦に振った。
「お前に嫌われたと思って、ずっと……」
「――ずっと、本当は会いに来てたのに、隠れて私のことを見ていたの――?」
私の発言を聞いて、シルヴァは碧色の瞳を真ん丸に開いた。
「リモーネ、気づいていたのか……?」
「私は気づいていなかった。だけど、孤児院の子どもたちが言っていたから……」
ますますシルヴァは気まずそうにしている。
そうして、彼は自嘲気味に口を開いた。
「陰でこそこそ男らしくないだろう? こんな見た目だ……勝手に周りが、硬派だ、寡黙だ、仕事ができる、剣の腕が立ちそうだ……噂は数多くあれど、実際の俺は、寡黙や硬派なんかじゃなくて、お前に嫌われるのが怖くて何も言えなかっただけに過ぎない……」
寡黙だと言われるいつもの彼とは違って、今日の彼はよく自分の気持ちを吐露する。
「それこそ振られるのが怖くて……爵位目当てだ、偽装結婚で良いと嘘をついたんだ……俺はそれで、自分の心を守れたけれど、結局は嘘をついたことでお前を傷つけてしまった――クラーケ侯爵やセピア公爵令嬢と、それこそ何も変わらない……」
シルヴァはぎゅっと拳を握った。
「本当のことをいつ言おうか、ずっと悩んではいたけれど……結局言い出せないうちに、どんどん言い出せなくなっていって……」
自己嫌悪に苦しんでいるシルヴァの元に近づくと、そっと彼の握る拳を、両手で包み込んだ。
「リモーネ……」
「私も、お兄ちゃんにずっと嘘をついていたわ……」
「嘘……?」
私はこくりと頷くと、彼の碧色の瞳を覗きながら告げた。
「私もお兄ちゃんに、大嫌いって嘘をついたもの……」
シルヴァが息を呑むのが分かる。
「お母様も亡くなっていて、お父様も忙しくて、シルヴァお兄ちゃんをずっと頼りにしていたのに――騎士学校に行くって言ったお兄ちゃんに、なんだか見捨てられちゃうような気がしたの……高熱だったとはいえ、あんな本心とは違うことを……」
懺悔するように、私は続けた。
「そうして、本当にシルヴァお兄ちゃんが帰って来なくなって……悲しくて、自分で自分の気持ちや記憶に嘘をつくようにした……自分が口走ったことが原因で、お兄ちゃんが私に会いに来ないんだって思ったらつらかったの……」
シルヴァは黙って私の話を聞いていた。
「誰かに捨てられるのが怖くて、好きだって思いこんでいたクラーケにすがって、お金を貸したり必死につくしたりしたわ……でも、私が本当に会いたかったのは――好きだったのは――」
最後、声が上ずってしまった。感情的になってしまって、声が締め付けられるようだ。
涙がこみあげてきて、止まらない。
(私が好きなのは――)
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