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第11話④ 私ははめられたんですか、お兄ちゃん?
しおりを挟む「だけど、私がクラーケの元へと行ったから……だから仕方なく、昔から好きな女がいると嘘をついたのではなくて――? 私と再婚したら、貴方も公爵になって、将軍であるお父様も――」
クラーケの気持ちが自分にないことが分かって、彼女は自身の心を守るために、シルヴァにすがりはじめたのかもしれない。
なおも食い下がるセピアに向かって、シルヴァがいつになく低い声で告げた。
「状況が分かっていないみたいだな……放火は大罪だ。あなたのせいで、おそらく将軍は責任をとらないといけないだろう……爵位も取り下げられるかもしれない。あなたはもう貴族のご令嬢ですらない」
「な――!」
そうして、彼は続けた。
「リモーネを傷つけると分かっていたなら、毅然とすべきだったと後悔している……何度好きな人がいると貴女に言っても、信用せず――うんざりしていたから、適当な返事をしていたんだが――貴女には通用しなかったようだな。とはいえ、一つだけ、感謝したいことがある――」
感謝と聞いて、セピアが爛爛と目を輝かせている。
そんな彼女に向かって、シルヴァが告げた。
「あなたの性格なら、もしやと思っていたが……あなたがリモーネを不幸にしようとして、クラーケ候に手を出してくれたのは、嬉しい誤算だった。おかげさまで、愛するリモーネと結婚出来る機会を得ることが出来たのだから――では――」
ふと、孤児院の女の子がシルヴァについて『何か裏でやってそう』と言っていたのが脳裏をよぎったが、頭の中で即座に否定した。
夜闇の中、セピアの獣のような悲鳴が耳をつんざく。
(セピア公爵令嬢、可哀想な方だったわ……)
きっと、セピアも最初はささいな嘘から始まったのだと思う。
自己保身のために嘘で嘘を塗り固めて、彼女の周りから人が消えて行ってしまったに違いない。
クラーケの態度を見てもそうだ。心の奥底から信頼できる人を、彼女は得られなかったのだろう。
最終的には、犯罪にまで手を染めてしまい、唯一頼りにしていた権力まで失ってしまった。
(もしお兄ちゃんが、私に求婚してくれなかったら、私も同じような状況に陥っていたかもしれないわ……)
自滅していった二人への憐憫の情が、少しだけ沸いた。
感慨にふける私に、シルヴァが声をかけてくる。
「今度こそ帰るぞ、リモーネ。ちゃんと伝えなおしたいことがあるんだ――」
そうして――。
――子どもたちを孤児院へと送り届けた後、私とシルヴァは屋敷への帰路についたのだった。
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