33 / 60
第11話② 私ははめられたんですか、お兄ちゃん?
しおりを挟む「池があったの……?」
「ああ」
水浸しになったシルヴァが、ゆっくりと頷いた。彼だけでなく、自分も水に濡れてびしょびしょになってしまっている。
どうやら、廃墟の隣には池があったようだった。
ふと、どこから落ちたのかを見上げてみる。
月に手が届きそうなほど建物は高くて、よく無事だったなと感心してしまった。
鎮火作業は進んでいるようで、少しずつ火の勢いは落ち着いていっているようだった。
「リモーネ……」
彼は、私の頬に張り付いた髪をどける。私の頬を撫でながら告げてきた。
「孤児院の子どもたちの何人かが、お前がこの廃墟に連れ去られた後を付けていたんだ。彼らが場所を教えてくれた――」
「子どもたちが……」
「あとは先日、クラーケの腕をねじりあげた時に、違法薬物を彼が所持していることに気づいて、拠点を探していたんだ。この廃墟には、今、大勢の騎士達で乗り込んでいる。彼らががクラーケ達を捕らえていることだろう」
シルヴァは続ける。
「火は一時、周辺の別の建物まで燃え広がった。いくら貴族とは言え、クラーケ侯爵は罪に問われることだろう……」
シルヴァに身体を抱えられると、池の岸まで連れて行かれた。
私は少しだけ引っかかりを覚えた。
「捕まるのはクラーケだけなの? お兄ちゃん……セピア公爵令嬢は……?」
「セピア公爵令嬢……?」
岸になんとかたどりついた、その時――。
騎士達の姿が目に入る。
「あのリモーネとかいう女が、建物に火を放っていたんですの……! 私の夫であるクラーケは、確かに薬を使っていたかもしれませんが、事件に巻き込まれていただけですの……!」
彼女の発言に、私の身体が一気に強張る。
「そ、そんな……」
たじろぐ私の身体を、シルヴァはぎゅっと抱きしめた。
「リモーネが、そんなことをするはずないって分かっている……だから落ち着け」
彼にそう言われて、私は一度深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
セピア公爵令嬢は、声を荒げる。
「あのリモーネという女が、婚約破棄された腹いせに、ずっとクラーケにつきまとっていたのです。彼女が、夫の跡をつけて、この廃墟に入ったところを私は見ました――そうでしょう、クラーケ?」
ちょうど、その時、騎士達に捕らえられたクラーケが引きずり出されてきた。
「……妻セピアの言う通りです……彼女が付きまとってきて……それで……僕も妊娠している妻に迷惑をかけたくなかったから、頑張って、リモーネのことを拒否していたんですが、付きまといを辞めてくれなくて……」
クラーケの態度に、怒りよりもがっかりした気持ちが強くなる。
「ほら、夫もこう言っているでしょう? 早くリモーネ女伯爵をとらえてくださいませ――!」
セピアが叫ぶ。
その時――。
「――待って、お姉ちゃんはそんなことしてないんだから!!」
この場に似つかわない子どもの声が響く。
「あなたたたち……」
孤児院の子どもたちが、詰めかけてきていたのだった。
「騎士様たち、信じて! お姉ちゃんの屋敷に、このクラーケ侯爵とガラの悪い男たちが乗り込んできたんだから! そうして、廃墟にお姉ちゃんを連れ込んだのは、そっちなんだから!」
「そうだ、そうだ」と大勢の子どもたちが叫び始めた。
彼らに向かって、セピア公爵令嬢が叫ぶ。
「お黙りなさい! 子どもの証言が何の役に立つというの――!? それに私は公爵家の人間よ、平民の言うことなんか、誰が信じるというの――? 平民の言い分を信じるものなんて、ここにはいなくてよ――!」
騎士達は、自分たちがどう動いて良いのか困っているようだった。
セピア公爵令嬢は得意げに話し始める。
「クラーケが自分のものにならないと知ったリモーネ女伯爵が、彼と一緒に死のうとして、この廃墟に火をつけたのです――!」
当然、私は彼女の言うようなことはしていない。
(だけど、証拠がない……私はいったい、どうしたら……)
10
お気に入りに追加
1,901
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる