上 下
27 / 60

第9話③ 人気の騎士様の正体は、変質者だったんですか?

しおりを挟む



 冷静に考えてみると、セピア公爵令嬢の話にも違和感が拭えない。

(セピア公爵令嬢の言い分だと、シルヴァお兄ちゃんがセピア公爵令嬢との結婚を了承していれば、クラーケと私の婚約破棄はなかったというように主張していた)

 だけど――。

(お兄ちゃんが結婚の返事をする前に、セピア様はクラーケの子を妊娠していたと話していたわ……だったら、お兄ちゃんが返事をしようがしまいが、セピア様はクラーケと身体の関係を持っていたということ……)

 ぼんやりと考えを進める。

(セピア様の言い分だと、彼女との結婚を選ばなかったから、シルヴァお兄ちゃんの出世の道が閉ざされたというものだったけれど……そもそもセピア公爵令嬢がクラーケと関係を先に持っていたのに、手を出していないシルヴァお兄ちゃんの出世の道が閉ざされるのは、なんだか変な気がする……)

 結論としては、それぞれの言い分のつじつまがどことなく合わない気がするのだ。

(そもそもセピア公爵令嬢は、いったいいつからクラーケと関係を持っていたのかしら? まだあまりお腹も出ていないようだったけれど……)

 それに、公爵令嬢である彼女なら、わざわざ産院に出向かずとも、屋敷に産婆を呼ぶことだってできるはずだ。

(やっぱり、色んなことがおかしい気がする……)

 そして――。

 数日間、シルヴァと会わなくなったことや、子どもたちのおかげで、少しだけ彼についても冷静に考えることができるようになってきている。

 銀色の短い髪に、碧色の瞳をした、精悍な顔立ちをいつも不愛想にしている、幼馴染の青年騎士――シルヴァ・エスト。

(子どもたちの言うことは本当に違いないわ……ずっとシルヴァお兄ちゃんは、私のことを影で見守ってくれていた……)

 そんな彼が、わざわざセピア公爵令嬢への当てつけのためだけに、私に結婚を申し込んでくるはずがない。

(そうよ、小さい頃から、お兄ちゃんは私に優しかった……)

 段々と、心の靄が晴れていくようだった。

 あとは――。

(なぜか、私に嫌われることばかり自分はしているとシルヴァ本人は言い張っているのは気になる)

 少しだけ、頭をひねる。

(だけど、お兄ちゃんは私の嫌がることはしないわ……もしかして、影で見ていたこと……? それとも……)

 その件に関して、少しだけ心当たりが沸いて出てきた。


「……シルヴァお兄ちゃんに会って話を聞かなきゃ……」


 そして――。

――嫌いだって言ったことを謝りたい。

 だって、本当は、私はシルヴァお兄ちゃんのことを――。

 
 そんなことを考えていると――。


「きゃああっ――!」


 屋敷の門扉のところから、小さな女の子の悲鳴が聴こえた。


「どうしたの――!?」


 駆け寄ると、そこには――。


「やあ、リモーネ、迎えに来たよ――僕と一緒に行こうか」


 ――赤茶けた髪の優男――元婚約者のクラーケと、ガラの悪そうな男たち数名が、立っていたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】魔法使いの弟子が師匠に魔法のオナホで疑似挿入されちゃう話

紅茶丸
恋愛
魔法のオナホは、リンクさせた女性に快感だけを伝えます♡ 超高価な素材を使った魔法薬作りに失敗してしまったお弟子さん。強面で大柄な師匠に怒られ、罰としてオナホを使った実験に付き合わされることに───。というコメディ系の短編です。 ※エロシーンでは「♡」、濁音喘ぎを使用しています。処女のまま快楽を教え込まれるというシチュエーションです。挿入はありませんがエロはおそらく濃いめです。 キャラクター名がないタイプの小説です。人物描写もあえて少なくしているので、好きな姿で想像してみてください。Ci-enにて先行公開したものを修正して投稿しています。(Ci-enでは縦書きで公開しています。) ムーンライトノベルズ・pixivでも掲載しています。

【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。 あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。 細かいことは気にしないでください! 他サイトにも掲載しています。 注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫

Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。 生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。 行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。 そしてそんな妻を愛してやまない夫。 束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。 自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。 時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。 そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ ※現代もの ※R18内容濃いめ(作者調べ) ※ガッツリ行為エピソード多め ※上記が苦手な方はご遠慮ください 完結まで執筆済み

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...