【R18】悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
上 下
24 / 60

第8話③ お兄ちゃんは、結局何が目当てなんですか?※

しおりを挟む



 屋敷へ戻る道中、私たちの間に会話はあまりなかった。

 自室につくとすぐにベッドに押し倒され、シルヴァが私の唇を塞いでくる。

「ん……んんっ……」

 執拗に彼の舌が、口の中をかきまわしてくる。
 いつになく激しい水音が、夕暮れで橙色を帯びる室内の中に響いた。

「はぅ……あ……ゃあ……お兄ちゃん……」
 
 荒々しく、彼が私の太腿を撫で始める。
 彼の動作が止んでくれない。
 一度唇が離れた時に、思い切って大声を出した。

「お兄ちゃん、やめて……!」

 はっとした様子のシルヴァが、私に問いかけてくる。

「すまないリモーネ……その、クラーケ候の件でもそうだが、お前はお人好しだし、流されやすいし、言いたいことを言うのが苦手だし、隙もある……」


 「お人好しだし、流されやすいし、隙もある」


 彼のその言葉が、私の逆鱗に触れた。


「お人好し……」

 今まで見ないように蓋をしてきた何かが――。

 ずっと心の中で渦巻いていて、誰かに言えなかった濁流のような思いが――。


「だから、リモーネ、俺はお前のことが心――」


 何かを言いかけたシルヴァに向かって、私は声を荒げていた。


「隙があるから、クラーケはセピア公爵令嬢と浮気したの……? 言いたいことを言うのが苦手だから、セピア令嬢たちは勝手に悪い噂を流すの……!?」


 突然の私の訴えに、上に跨るシルヴァはたじろぐ。

「リモーネ……」


「お兄ちゃんもそうよ! 私がお人好だから、爵位が欲しいって言ったら結婚してくれるって思ったの!? セピア公爵令嬢には手を出せなかったのに、私には隙があるから手を出しやすかった……!?」


 涙腺が決壊してしまったかのように、涙が止めどなく零れていく。
 押し寄せる奔流のごとく、これまで蓋をしていた思いが、堰を切って溢れ出してとまらなくなってしまった。


「――今だってそうよ! 無理矢理口づけてきて……」

「今のは……」

 シルヴァが困ったように眉根を寄せているのは分かった。
 八つ当たりに近いのも自分でも分かる。
 いや、むしろ、醜い嫉妬であることも自分でも分かっている。
 だけど、自分で自分を制御できない。
 飛び出した鋭い刃のような言葉たちは、シルヴァに突き刺さす。


「今のは何……? 寝ぼけてたの? それとも、無意識? 身体が勝手に動いた……? 言い訳ばっかりして、嘘ばっかり……偽の夫婦のはずなのに、私に触れてきて……お人好しな私なら騙されてくれるって思ったの――!?」


「リモーネ……」


 そうして、もう取り返しのつかない子どもじみた言葉を、私は口走っていた。


「――シルヴァお兄ちゃんの嘘つき――! 大っ嫌い――!!! 屋敷から出て行って――! もう帰って来ないで――!」


 本当はシルヴァに出て行ってほしくないくせに、触れられて悪い気はしていないくせに――ついて出た言葉はそれだった。

 私はベッドの上に突っ伏して、泣きじゃくった。

 そうして――。


「……リモーネ、すまない……やっぱり俺は、昔からお前に嫌われることしかできないな……」


 ――寂しげにそう呟いたシルヴァは、静かに屋敷から出ていったのだった。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

処理中です...